第39話 空島別荘地化計画

 夜。

 いろんな魔法をぶっ放しながらダンジョンをすすむ。

 ダンジョンというのは、川底にある地下施設の遺跡のことだ。俺が勝手にそう呼ぶことにした。


 フヨフヨの眷属は6体になった。

 これ以上はフヨフヨの情報処理能力を越えるみたい。

 テイムはできるけど、同時に聞き取れない。といったニュアンスだった。


 だからフェネカが4体をテイムした。クラゲさんを。


 フヨフヨは、こまかな情報のやり取りが必要な各国の王城に眷属を配置。


 フェネカのテイムしたクラゲさんは、マイボディ、『賢者』『剣聖』のそばに。あと1体は壁の上。


 テイム後に情報収集をお願いしたんだけど、北の砦はいまも膠着中らしい。というか、敵さんは兵糧ひょうろう攻めのつもりみたい。


 砦を囲んで見張っているいるということだ。村で略奪とかされなくてよかった。


 どうやら敵さん、『賢者』は戻ってこないと思っている模様。


 死んだとは思っていないようだけど、治すことのできる『聖者』が任命されたという情報を信じていないみたい。


 近々、『賢者』さま率いる増援部隊による奪還作戦が行われる。


 敵さん驚くだろうな?

『聖者』の存在を信じ、もう『賢者』や『剣聖』を狙っても意味がないと思ってくれたら助かる。


『また加護レベル上がったよ』

『よいペースじゃの』


 この施設、ほんとうに助かる。

 でっかい虫は気持ち悪いけど。


 また小部屋にみっちりいる。しかも何匹か飛び上がった。


落雷ライトニング!』


 無音の雷。たくさん上から降らせる。

 虫は綺麗に全滅。

 さらに進むと、両開きの扉があった。


『突入』


 お、ワープルームだ。2部屋目。

 たぶん、島へ飛ぶんじゃなかろうか。定期的に地上へ帰るためのワープルームがあるってことだ。もう地上じゃなくて浮いてるけど。


『向こうはもう朝になったかな?』

『我がいこう』


 シリュウはダンジョンには来ていなかった。


『ちょうど朝日が見られる』

『行こう、加護レベル上げはまた明日!』


 そして朝日をあびながら空に浮く島で瓦礫の撤去作業。


 遺跡をあまりいじるのもどうかと思ったけど、完全にくずれているのはコンクリブロックにしてしまう。

 古代文字がないかも確認しながらなのでなかなか時間がかかる。


 瓦礫ばかり。なにも出土しなかった。


『……ここ、広いね。シリュウの家と宝物庫建てる?』


 シリュウから歓喜の波動。

 どんな家がいいか聞き取り、イメージを固める。


『……築壁フォーティフィケーション!』


 ……えー、ななめの屋根と柱だけの家ができました。

 宝物庫はしっかりとしたコンクリの箱。

 まあ、おとうふ型建築。

 俺に芸術的センスはない。諦めて欲しい。ナチュラルに赤点だし。


『……ほんとにこれでいいの?』

『ありがたい。我は土魔法は使えぬからな。もしよかったら表面にもう少し、柔らかな土壁が欲しい』


 言われた通りに土壁を盛る。

 すると、シリュウが彫刻をはじめた。各地を飛びまわっていろいろ見たことで触発されたそう。


 ……繊細な模様が少しずつ出来ていく。風と無属性の魔法で彫ってるのか。すごすぎ。


『シリュウ……俺の代わりに芸術のテスト受けない? 彫刻も選択できるよ』


 シリュウとフェネカが楽しそうに笑う。まあ赤点でも困ってないからいいんだけど。

 壁が雨にさらされないよう、ひさしを作っておく。完成したら表面を固めてみようかな。


 彫刻をながめていると、フヨフヨから歓喜の波動が。


遺物アーティファクトあった。加護チェッカー』

『おお! 宝物庫にいれよう!』


 俺も探そう。

 各々好き勝手に遺跡探検。

 ディープは走り回るだけだし、ヒタチは木に懐いてるだけだけど。


 もうこの島、私物化しちゃおうかな。発見されるとは思えない。


『命名、シリュウ島!』

『我の島か。ありがたいが、そこはユイエル島ではないか?』


『シリュウの家があるからシリュウ島で……あ、ワープの遺物アーティファクトってマジックバッグワープできるかな?』


 できないと結構たいへんだ。

 けどそういえばAクラスの森に遺物アーティファクトあったな。馬車で運んだ可能性もあるけど……。


『ちょっと、Aクラスの森で実験しようか。シリュウは彫刻してて。完成したら見せてね』

『あい、わかった』


 まずは、ワープ先である学校をうろうろチェック。

 幸い、ワープルームの中に警備員はいない。深夜にこんなとこまで常駐はしていないみたい。


 ぴゅんと森まで意思移動。こっちも警備員はいない。


 あれ?

 加護チェッカーはどこだろう。あれでまず実験と思ったんだけど。

 学校側で発見。しまわれてた。


 そっと無属性魔法を使ってワープの遺物アーティファクトに加護チェッカーをのせる。

 そしてワープさせるため、足元に魔力を込める。

 ……なにも起こらないな。


『これ、魔力満タンになったら勝手にワープするよね?』

『うん』


『……フヨフヨ、全身実体化して加護チェッカー持ち上げられる?』

『うん』


 加護チェッカーを持ち上げたフヨフヨ。そして触手がワープ遺物にタッチ。

 お、消えた!


『フヨフヨ?』

『ワープ成功』


 やたら楽しげな波動。

 フヨフヨ、戻って来たと思ったら、自分で魔力を込め、またワープして行った。

 帰ってきた。このままだと何往復もしそう。


『フヨフヨ? 加護チェッカー元の場所に戻そうか?』

『うん! 楽しかった!』


 ワープしてみたかったらしい。

 どうやら抱えているものならなんでもワープ出来そう。朗報だ。マジックバッグに遺物が入ればいちばん良かったけど、入らないからね。


 レガデューア家に地下室を作って、地下道でダンジョンにつなぐとかどうかな?

 そしたらワープの遺物を地下室における。でも遠すぎ?


 まあこれはおいおい、老後の楽しみとかでいっか。シリュウ島旅行するのだ。ほんとに別荘建てちゃおうかな。


『あ……宝物庫遺跡とダンジョンつないじゃおうか』


 肯定の波動。

 なにごとも練習から。千里の道も一歩から。


 宝物庫遺跡は、上に白骨さんのお墓があり、そのまわりが壁で囲まれている。現地の人々がしっかり囲いを作ってくれたのだ。


 木の囲いなので、内側にコンクリ壁も作ろうかな。それで完全に外から見えなくなるはず。


 けど、今日は残り時間が少ない。

 空が白みだしている。


『……帝国の壁攻撃部隊はどうなってる?』

『野営してる』

『階段とか作られてない?』

『大丈夫』


 なんで、いつまでもいるんだろう?

 ちょっと不安だよね。


『壁の様子を見に行ってから帰ろう』


 念には念を。部隊長らしき人物をフヨフヨにチェックしてもらう。

 わりとショボい作戦が複数おこなわれていた。


 まず、はしご発見。ひっそり小規模火災発生。発生源はフェネカ。

 はしご以外は燃えてないから大丈夫。


 それから大河の水面に、壁を迂回する橋が作られる予定だったので、川辺にも低めの壁を設置。応急処置だ。


 あとは『剣聖』をここに足止めするのが主目的らしい。「公国のヤロウ舐めやがって」と激怒したふりをして、やってることは足止め。


『賢者』さまを狙うためだ。バッチリ北の国と連携してる。

 もう『賢者』さまは復活したけどね。情報の伝達はそんな早くないから、たぶん1度倒れたことすら知らない。


 今日のところはこんなものか。

 そろそろマイボディに戻って起きないと遅刻しちゃう。


 夜、曇ったらシリュウボディのお引越しかな。

 いつか生身でも背中に乗せてもらいたい。

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