第37話 遺跡!

 コンクリートの下り坂を前に、いったん振り返る。

 入ってきた場所に入り口はなかった。まるで屋根裏部屋みたいに、天井がななめにコンクリートで固められている。


 なんで?

 川の氾濫から守るためにあわてて固めたとかかな。


 坂を下りきると、大きな両開きの扉が1枚あった。くたびれて見える。けど、もとは結構きらびやかな扉かも。


『なんかカサカサ聞こえない?』

『モンスターだらけ』


 ですよね。

 扉の上の方をそっと突き抜ける。


『……汚物は消毒だ』


 広い通路を虫系のモンスターが埋め尽くさんばかりだった。

 フェネカとふたりで焼き尽くす。

 ドロップ銅貨1枚のモンスターみたい。

 駆除しながら進む。

 分かれ道が多い。迷路だ。


『……遺跡というか、廃坑?』

『ふむ。遺跡は川に沈んでしもうたかの?』


 もしそうなら残念。

 どんどん進む。むき出しの岩壁もあれば、コンクリで補強された部分もある。まるでアリの巣。


 下り坂が多い。螺旋を描くように下っていく。

 細かなドロップは、風魔法でまとめておく。


『広いよ。しかも岩しかない』

『虫とネズミしかおらんのう』


『地上でわらわらモンスターがいるとこは、こういうとこから湧き出してるのかな?』

『かもしれんの』


 さらに進むと、ナメクジやカタツムリみたいなのが増えた。

 ちょっとずつドロップも良くなっていく。


 小部屋にみちっと詰まった大きなモグラ? 発見。目がないこともあってかなり不気味。


『会話不能。食べることしか考えてない』

『さらば! 風刃ウインドカッター!』


 やっと銀貨ドロップ。まだ加護レベルは上がらない。

 やけに定期的に小部屋がある。

 それと……。


『鉱石っぽいものがまったくないのが不思議なんだけど……小部屋が多いのもよくわからないし』

『たしかにの。坑道でもなさそうじゃ。不思議じゃのう。だんだん強いのが増えておる』


 ……それは当たり前だと思ってたよ。ゲーム感覚で。


 お、銀貨3枚。

 魔法で礫を飛ばしてくる団子虫みたいなのが落とした。ドロップは甲殻みたい。

 マジックバッグ持ってきてないけど。


 フェネカはいちおう、モンスターの魔法からヒタチをかばって動いてくれている。

 すり抜けるはずだけど、下手すると当たりそう。油断して隕石にぶつかったフヨフヨのように。


『フヨフヨ、危ないから実体化しないでね』

『うん』


 もうそろそろ帰ろうかと思ったところで、ようやく加護レベルを得た感覚。


『まだ下がありそうだよね』

『いっきに降りてみるかの?』


『虫の体内を突き抜けるのはちょっと嫌かも。それに加護上がりそうだし。今日のとこは次の小部屋までにしよう』


 と、思ったけど、扉発見。

 大きな両開きの扉だ。

 いままでの小部屋に扉はなかった。


『突入!』


 ズボッと。

 一瞬、なにもない部屋に見えた。けど……。


『ワープの遺物!』

『ふむ。どこに飛ぶんじゃろ?』


 光魔法に照らされたのは、床にある黒く丸い板。いや、埋まってるだけで板ではないかな。

 学校にあるやつだ。


『でもこれ、アストラルボディじゃ使えないよね』

『実体化する』


『……いや、危ないからやめよう。向こうがどうなってるかわからないし』

『呼ぶ』


 うん?

 聞こうと思ったらぴゅんとやってきた。フヨフヨの眷属。


 どこの子?

 レガデューア家にいた子だそう。

 父様はもう西へ行っている。タリルエス帝国の壁攻撃部隊を警戒中。

 俺の造った壁の上にいた眷属は、父様のそばにいるらしい。壁攻撃部隊を監視中。

 壁はびくともしていないそうなので、攻撃部隊には、はやく諦めて帰って欲しい。


 それはともかく眷属でもワープが危ないのは変わらないよ?

 だって向こう側わからないからね。


 もうフヨフヨが魔力を込めている様子。

 眷属1体がペタっと黒い床にくっついている。


『……フヨフヨ、ワープしたらすぐに実体化解除するように言って』

『うん』


 そして唐突に眷属が消えた。


『大丈夫、無事。モンスターいない。晴れてる』

『よかった! 連れてって!』


 フヨフヨに抱きつく。

 後ろからモフッとフェネカに包まれて幸せ。

 団子になって、眷属のところへぴゅん。


『……は? え!? もう朝!?』

『大丈夫。時差』


 ……はあああああ!?

 青空が広がっている。晴れてるってそういう意味?

 いや、ビビったけど、肉体と繋がってる感覚はある。


『べ、別大陸? 宇宙からそんなの見えなかったよね? いや、遠いだけ?』


 ちょっと混乱。あのワープの遺物アーティファクトどんだけ遠くまで行けるの。すごすぎ。


『島。空に浮いてる』


 ……え?

 ちょっと上空へ。

 うわ……これぞ遺跡。マチュピチュじゃん。

 かなり下の方に海。

 まじかーよ。ちょっと感動するレベルのファンタジー。


『……なんで浮いてるの?』

『……わかんない』


 というか、どこここ。

 あれか、地球の裏側。真裏でもないかも。マイボディの位置的に。


 ここは大陸の遥か東南東らしい。よくわからなくてフヨフヨに確認した。

 マイボディのある方向はわかっても、正確な方角はわからない。


 島に降りてみる。

 建物の痕跡は多い。くずれて屋根はほとんどなくなっている。大地震のあとみたい。

 ワープの遺物も露出してしまっている。壊れていないのは幸いだった。


『モンスターはいなそうだね』

『鳥が少しいるくらい。あといない』

『植物いっぱいなのー!』


 ヒタチは、いかにも南国な木に飛び込んだ。

 楽しそうでなにより。


『南国の楽園だ。肉体ごと来たいかも』

『別荘でも建てるかの?』


『……あのワープの遺物、シリュウもワープできるかな?』

『どうじゃろうの?』


 シリュウから、歓喜の波動がきている。

 意味がわかったんだろう。巨体をここに運べれば、たぶん肉体ごと飛び回っても誰にもバレない。


 けど、サイズ的にいけるかどうか……。

 それに、ワープの遺物を山の上へ運ぶのも至難の業だ。

 それなら夜中にこっそり1度だけ飛んでもらたっほうが早いかも。


 やりたいこと多いな?

 砂漠だったところを均したり、ヒタチ樹のまわりに雨を降らせたりもしている。

 以前、種を飛ばしたヒタチ樹の子どもたちは少しずつ育っている。


 考えながら観光気分で見ていると、コンクリートのスロープを見つけた。

 わりとワープ遺物に近い。

 奥は……穴だ。海が見えちゃってる。


『……この島、元は大陸の一部かな? 地下施設だけ切り取られて大陸に残った?』

『そんな感じじゃの。ここに古代文字があるぞ?』


 フェネカにうながされ、読んでみる。スロープの手前に落ちた金属の看板みたいなもの。

 見づらい。


『……あ、加護を上げるための施設?』

『ほう。それでモンスターがだんだん強くなっとったのかの』


「power up」の部分から推測。あとは上手く読めない。欠けたり、かすれたりしているし、そこまで英語ペラペラではないので。


『もう朝になってる』

『えっ! あ、帰ろう!』


 ここは朝というか昼が近そうなので一瞬混乱。

 ぴゅんとマイボディへ戻る。


 日曜だからちょっと寝坊してもいいんだけど、図書館でワープ遺物についても調べたい。


 起きたら全裸でちょっとビビったよ。全裸で寝たんだった。

 明日から2年生。

 やりたいことが多いけど、とりあえず洗濯しよう。

 夜は遺跡探検かな。

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