第34話 眷属?

 夜、ベッドに腰掛け、元『聖女』さまから受け継いだ遺物アーティファクトを見て悩む。


 ちょっと困った。

 この遺物アーティファクトは、言われるまでもなく肌身はなさず持ちたい。


 もし父様になにかあったらすぐにわかる。光ったからといって怪我人が父様とは限らないけど、現状最速で知るすべであることは変わらない。


 でも、アストラルボディで遠くに行ったら、光ってもわからない。あまり持ちあるきたくもない。なくしたり壊したらおおごとだ。

 寝ているだけなら飛び起きればいい話なんだけど……。


『……フヨフヨ? クラゲさんを何体かテイムしてもいい?』


 いちばんいいのは、誰かをマイボディのそばに残すことだと思う。

 けど、毎度フェネカに頼むのは心苦しい。


 だから、交代要員が欲しい。

 フヨフヨを残していくのは無理だ。だって、実体化できるのはフヨフヨだけ、知識を読み取れるのもフヨフヨだけ、おまけに感知能力がいちばん高いのもフヨフヨ。

 マジフヨチート。


『フヨフヨがテイムする』

『え? できる?』


 テイムされてるのに。


『わかんない。やってみる』


 ということで来ました宇宙。

 目の前にはフヨフヨのお仲間。サイズは半分くらい?

 こうやって比べると、フヨフヨ大きくなったな。


 フヨフヨが触手を伸ばす。むにゅっとおもむろにクラゲさんを突いた。


『プヨプヨ』


 えー……?

 まぎらわしい名前つけちゃった?

 繋がった感覚はない。無理だったかな?


『繋がった』

『え? 俺なにも感じない』


『大丈夫。フヨフヨのしもべ。フヨフヨはユイエルのしもべ』


 しもべかー……。なんで楽しそうなの? 冗談かな。

 触手に触手を巻き付けた。と思ったらすーっと移動していくフヨフヨ。

 引きずられているように見えるんだけど……。


『フヨフヨ? その子大丈夫?』

『大丈夫。全然気にしてない』


 フヨフヨの無頓着は種族的なものだったか。

 どうするのかと思ったら、次のクラゲさんに触手をむにゅっとしたフヨフヨ。


『ブヨブヨ』

『ちょ、それはかわいそう……』


 半濁音はかわいいけど、濁音になると途端にひどい感じに。それは罵倒では?

 そして3体目へ。


『プユプユ』


 もうなにも言うまい。あまり、ひとのことを言えるネーミングセンスじゃないし。

 フヨフヨは俺から学んでいる可能性が高いということには目を瞑る。


『ブユブユ』


 フヨフヨに、4体のしもべができました。

 しもべだとかわいそうなので、眷属ということでどうかひとつ。


 そして、俺の肉体のそばに1体配置し、公国と帝国の国境に1体を配置。森ではなく、街道の上に浮いている。

 それから、レガデューア家の食堂に1体。

 王城の謁見の間に1体をとりあえず配置。


 フヨフヨの指示で移動可能らしい。

 俺は、どこにいるのがどの子なのか区別がつかなくなった。


『フヨフヨ? あの子たち宇宙に帰りたがってない?』

『大丈夫。どこでものんびり。なにかあったら知らせるだけ。簡単』


 ならいいけど。

 ……ときどき宇宙へ連れて行ってあげようかな。

 フヨフヨがますますチートになった気がする。

 なんなら受け継いだ遺物の存在意義が希薄になった。光る前にフヨフヨから知らされる気がする。


『ふむ。妾も同族をテイムするかの?』

『や、やめたげて? あの子たちには皇国を守る使命が』


 お米も大事。

 フェネカは笑ってる。


『……シリュウ? ドラゴンとかテイムしなくていいからね?』

『あい、わかった』


 こっちも笑ってるよ。


 よし気をとりなおして、壁づくりだ。いまマジックバッグはヒタチ樹が預かってくれているので取りに行く。


 森の壁は、木より上に飛び出さない程度の高さで完成している。フェネカの火魔法ではびくともしなかった。

 上部と街道の壁は、いっきにつくりたい。なので、コンクリブロック制作運搬開始。



  ◆◇◆



 始業式の日、朝。

 朝食をとろうと食堂のカウンターへ向かい、びっくりして固まる。


 カウンターの向こうには、いつものおばちゃんと共に銀髪のメイドさんがいた。

 俺には、カレン先生がメイド服を着ているように見える。そっくりだから。


『なんでいるの!?』


『たぶんユイエルの護衛、従者? みる?』

『あ、いや見なくていいよ』


 びっくりしてついフヨフヨに聞いちゃった。

 ためしに挨拶してみたけど、しれっと「なにを召し上がりますか?」とメニューの希望を聞かれてしまった。


 驚きつつも『聖者』に護衛がつくのは当たり前かもと思い直し、朝食を終えて体育館へ。


 ここでもちょっとびっくり。

 挨拶のために登壇した理事がいきなり両手を組んで祈った。おっさんが女性のする仕草をしてみせたのだ。


 生徒はざわつくどころではない。ガヤガヤしている。

 これ、ほかの体育館でもやってるんだろうな。


 それから『聖者』について発表された。

 名前と年齢はふせられた。

 けどまあ、クラスメイトなんかは一斉にこっち見たけど。


 とにかく、男性だということを何度も言い、回復出来ることは重要なので男子も試すようにと言って挨拶は終わった。


 次はホームルームなので教室へ。

 また黒板に席順が書いてあるけど、俺の席は変わっていない。

 あれ……20人になってる。

 ひとりBクラスに落ちた?


「あ、あの……」

「あ、ミリーさん隣なんだ。おはよう」


 コクコクうなずいている。

 俺が喋ったからか、クラスメイトがわっと集まってくる。


「ユイエルくん『5英傑』になったの!?」


 そのあとは、もう聞き取れなくなった。

 落ち着いて欲しい。

 いままで遠巻きな感じの子が多かったのに、いきなり距離感バグったんだけど。


 ホームルームが終わると、急いで食堂へ逃亡。防波堤を探す。


 来るの早すぎたか。

 とりあえず昼食を選ぶ。

 視線が痛い。あ、発見。


「クラウスくん! 一緒に食べよう!」

「かまわないが……」


 クラウスくんは『賢者』の息子で学年代表だったことが知れ渡っている。

 とっつきにくい雰囲気もあって遠巻きにされているのだ。

 あやからせて下さい。


 クラウスくんが昼食を受け取るのを待ち、一緒に席につく。

 そこへ、ラヴィさんがミリーさんを連れて来た。挨拶が「おめでとうございます」だった。


「助かった。クラウスくんありがとう」

「なにがだ?」


 本人は気づいてないみたいだけど、おかげさまで遠巻きにされてます。


 雑談がひと段落すると、ラヴィさんが箸をおいた。


「ユイエルさんは、もう婚約者が決まっているのですか?」

「いや……5年生で考えればいいかなって?」


 なかなか気乗りはしないのだ。ロリコンじゃないので。


「私が正妻、ミリーさんが側室でいかがでしょう?」

「ゴホッ」


 味噌汁が変なとこに入った。ひとしきりむせる。


「え、侯爵令嬢じゃなかった?」

「3女ですので、伯爵家に嫁いでも問題はありません。それにユイエルさんは3代目です。功績を立てればすぐに陞爵するかと」


 3代目というのは、レガデューア家は3代連続『5英傑』という意味だろう。

 これ、どうしたらいいの?

 エマとラヴィさんはしっかりしているなと思っていたけど、これはしっかりしすぎ。


 ミリーさんは真っ赤になって面白いほどうろたえている。何度も箸からご飯が落ちてる。嫌ではなさそうかも。

 まじでどうしよう……。


「く、クラウスくんは、どうするか決まってる?」

「婚約者がいる。側室候補はふたりだ」


 まじか……次男なのに。

 分家を起こすのか聞こうかと思ったけど、怒られそうなのでやめる。たぶん「オレが『賢者』を継ぐ!」って言うよね。


 ……どうやらうちの父様が変わっているようです。子どものときは平民だったはずだから、感覚が平民なのかな。俺の感覚も平民なんだけど。

 平民は一夫一婦なのだ。


 ラヴィさんにジッと見られている。

 返事しないと……。


「あー……か、考えてみます」

「私の父はヴァイス家の血筋、母はアツェランド家の血筋です。次代も期待できるかと。検討をお願いします」


 ラヴィさんが頭を下げた。

 クラウスくんは平然としている。たぶんこういう教育を受けているんだろう。血筋が重要なのだ。

 俺は受けてないよ!


 逆に考えよう。今世は、あせらなくても結婚できる。やったね!


 問題は誰と結婚するかだ。

 ……あれ?

 ラヴィさん最初から俺を狙って下剋上部に入ったわけじゃないよね?


 ……壁を完成させてから考えよう。そうしよう。常套手段、先送り。

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