第33話 最年少の『5英傑』

 夏休み最後の土曜、午後。

 王城に連れてこられ、案内されたのは会議室だった。


 そこには正装した、そうそうたるメンバー。

 王様と『5英傑』それから諜報部隊長の7名。『聖女』さまは元だけど。


 思わず「父様!」と言いそうになるも踏みとどまった。

 けど、向こうは立ち上がり、俺の頭に手を乗せる。


「背が伸びたな」

「……はい。父様、ご無事でなによりです」

「ユイエル、座りなさい」


 父様が席に着き、言われて俺も頭を下げて席につく。

 王様の対面。もうひとつのお誕生日席みたいなところ。カレン先生は壁際に立っている。

 ちょっと緊張。


「そなたに問いたい」


 いきなり王様が話し出す。


「もし、資格ありと認められたなら、『聖女』の称号を受けてくれるか?」


 ……これ、直接こたえていいの?

 全員に注目されている。

 こたえるしかない。


「……陛下、たいへんありがたいことですが、私は男です」

「年齢、性別は公開しないこともできる」


 他国を牽制するためか。たぶんそっちの方が都合がいいんだろう。でも、1度決まってから変えてもらう方が難易度高いと思う。


 それに俺は、男は聖属性の適性がないという説を疑っている。


 今日初めて見た黒髪の男性に目を向ける。30代半ばに見える。頑固そう。クラウスくん、お父さんに激似。


「……その、質問してもよろしいでしょうか?」

「もちろんじゃ。いまは非公式ゆえ、この場で問うてもらいたい」


 公式の場では聞くなということだ。

 俺の年齢を加味してこの場を用意してくれたのかな。


「ありがとうございます。では、うかがいます。男の子たちは、ほんとうに聖属性に適性がないのでしょうか? ちゃんと確認していないということはありませんか?」


 何人か息を呑んだ。父様は苦い顔。目で謝られた気がした。


「……それは、そなたが現れて浮き彫りになった問題じゃ。いままで、女性にしかないと疑いなく信じておった。『賢者』が特別なだけじゃと」


 マイボディは適性ないんだけどね。それは言わない。


「であれば、男でも使えると発表すれば、使い手が増える可能性はありませんか?」

「たしかに、あるじゃろう。それは、『聖女』の称号を受けてくれるということではないのか?」


 なんか威圧感が。王様の眼光が鋭い。

 でも、拒否しただけで処罰されたりはしないはず。この国はほんとうに『5英傑』が重要なのだ。

 敵だらけの戦争には英雄が必要なのかもしれない。


「陛下、私は称号名が『聖女』よりも『聖者』の方が、男でもやってみようと思うのではないかと、愚考します」


 俺が、腕を再生した門番さんに聖者さまと呼ばれて喜んだことは、カレン先生の口から伝わっているはず。


 王様の表情は読めない。けど、父様と『元帥』さま、それからカレン父が「たしかに」という顔をした。

 元『聖女』さまもうなずいてくれている。


 そして、『賢者』がはじめて動いた。大きく頷いたのだ。


「それはあるだろう。我が国では『聖女』の物語は多い。魔法は認識や想像に大きく影響を受ける。ゆえに、そのイメージを変えることには意味がある」


 すごい説得力だ。さすが『賢者』さま。助かる。

 今度は王様に注目が集まる。


「では、もう一度問う。『聖女』の称号を『聖者』と改めたなら、その称号を受けてくれるか?」

「はい。お受けします」


 あ、王様が笑顔でうなずいた。

 なんだろう「合格」って言われた気分。ビビって折れないか試されたかな。


 俺、結構ひとりなら流されるし、折れるけどね。フヨフヨとフェネカはすぐそばにいてくれる。ときどきディープもいるよ。

 ヒタチとシリュウも聞けばこたえてくれる。


 それから「『聖者』認定の義」とやらの段取りを教わる。

 要するに、回復と再生をしてみせろってこと。それは謁見の間で貴族たちを前にやるらしい。


 説明が終わると、控室らしき部屋に案内された。こじんまりとした控室でお茶をいただく。

 緑茶と和菓子なんだけど、誰か俺のワコウ料理好きを教えた?


 堪能していると父様が来た。

 あわてて立ち上がる。


「よい。少し見ぬ間に、ほんとうに大きくなったな。よく学んでいる」


 褒められて嬉しい。

 父様が向かいに座る。

 すると、壁と一体化するくらい気配のなかった銀髪メイドさんがお茶をいれた。カレン先生にそっくり。諜報員さんですねわかります。


 それからちょっと他愛のない話をしている間に、先に父様を案内する騎士が来た。


「ユイエル、緊張するだろうが、深呼吸をして、教わった通りに振る舞いなさい」


 頭をなでてくれた。嬉しいから不思議だ。

 そして、俺も騎士が迎えに来て案内を受ける。

 謁見の間へ。


『この扉見ただけで、心臓が口から出そう……なんかいっぱいいない?』

『扉の向こう、80人くらい。もう、聖女を聖者に変更するって発表されたみたい』


 想定よりだいぶ多いよ。

 事前の通達ありがとうございます陛下。


『深呼吸じゃ』


 フェネカに言われて思い出し、深呼吸。

 扉が開き、名を呼ばれる。

 ひと呼吸おいて、堂々と歩き出す。


 王様の座す段の下には『宰相』『元帥』『賢者』『剣聖』

 その少し手前に元『聖女』さま。

 そしてさらに手前にずらりと貴族たち。


「これより『聖者』認定の義を執り行う」


 言ったのは『宰相』


 ひとりの貴族が列から飛び出し、ひざまずく。

 こんなの予定にあったっけ?


「陛下、諫言かんげん申し上げます。いくらなんでも若すぎます。どう取り繕っても他国は認めないでしょう」

「再生を使えぬ者を選ぶより良い」


「っ……使えるわけがごさいますまい!」

「それを確かめるための義である。下がるがよい」


『誰?』

『公爵。娘が聖属性クラストップ』


 ……娘を『聖女』にしたかったのか。なんかごめん。再生を使える人も増やしたいな。


 担架で女性が運ばれてきた。まだ若い。

 顔色が土気色だけど、浅く呼吸している。

『宰相』の指示で前に立つ。

 いつも通り、わずかにアストラルボディをずらす。


回復ヒール


 呼吸が穏やかになり、顔色も良くなった。

 あまり魔力を使わなかったな。思ったより軽い病気だったかも。

 眠ったままだけど、健康診断オールAになったはず。

 付き添っていた白髪の女性もうなずいた。


 もうひとり運ばれてきて同じように回復。

 今度は意識があり、お礼を言われた。


 次は、貴族の列から1歩前に出た人がいる。

 片腕の男性。半袖を着ている。

『宰相』から指示を受け、その男性と向かい合う。

 静まり返り、痛いほど視線を感じる。


再生リジェネレイト


 これもほとんど一瞬だ。にょきにょきって。もうずいぶん慣れた。

 お礼を言われ、深々と頭を下げられる。


 貴族たち、ちょっとざわつきだしたかも。


 ふたり目は、眼球だった。

 わざわざ探したのかな。

 同じように、再生。


 ざわついている。

 少しずつ、ざわつきが大きくなっていく。

「ありえない」とか言われちゃってる。


 ……さっきの公爵は顔色が悪いな。悪いどころではないかも。ブツブツ言っているみたい。怨嗟が渦巻いてる気がする。


 俺は咄嗟に王様に向かい、ひざまずく。


「陛下、もうひと方、回復する許可をいただきたく」


 言いながら、そっと目線を公爵に向ける。


「……よかろう」


 さっと公爵に近づき、すぐにひざまずいて祈る。


回復ヒール


 と、言いつつ、全力の浄化。

 血迷わないで欲しい。がんばった娘さんには申し訳ないけど、譲れない。もう決めちゃったから。


 公爵がポカンと口を開けている間に元の位置へ戻る。

 ひざまずいて深く頭を下げる。


「皆、確認したな。ユイエル・レガデューアを『聖者』と認定し、称号を与える!」

「ありがたき幸せ」


 それから、段の下に進み出て陛下から『聖者』の紋章を授かった。

 まあ『聖女』の紋章がそのまま『聖者』の紋章となることは受け入れたので変わっていない。

 意匠は太陽と翼なので、性別は関係ないしね。


 謁見の間を退室後、控室に案内された。

 また銀髪メイドさんがお茶を入れてくれる。

 なんで?

 終わりじゃないの?

 でも、初見の大福らしき和菓子が出てきたのでいただきます。


『誰かくるのかな?』

『父と元聖女さま、カレン先生』


 お、よかった。元『聖女』さまにマイボディを治してもらったお礼を言いたかったんだ。

 お茶を飲んで口元を拭い、立ち上がる。


 入ってきた元『聖女』さまに、いきなり抱きしめられる。ちょっと驚き。


「私の力が及ばず、長く苦しませてしまいました。元気になってくれて、ほんとうによかった」

「……いえ、聖女さまのおかげです。ありがとうございます」


 この方、たぶんもう80歳を超えている。こっそり回復。


「まあ、ありがとう」

「こちらこそ、ほんとうにありがとうございました」


 それから、遺物アーティファクトを受け取った。

 なぜか銀髪メイドさんが元『聖女』さまに渡し、元『聖女』さまから俺に。引退していたからかな。

 代々『聖女』が受け継いできたものだそう。


 遺物アーティファクトは、黒い小さな板だ。陛下や『5英傑』が重傷を負い『聖者』の力が必要になったとき、光って振動するそう。


 王城のどこかに発信する遺物アーティファクトがあるのだと思う。

 なんか、機能的にも見ため的にも、小型のスマホっぽいけど画面はない。


 肌身はなさず身につけ、なくしたり壊したり、誰かに見せたり教えたりはしないよう、注意を受けた。


 挨拶を交わし、カレン先生とともに王城をでる。

 学校へ帰る馬車へ。

 ふう。


 ……いやー、10歳で年金暮らしになっちゃった。卒業まではセバスチャンに預ける話になった。将来安泰。

 戦争がなくなったらもっと安泰だよね。


『フヨフヨ、賢者さまどうだった?』

『長男連れて、すぐ北に向かう。でも切迫はしてない』


 よかった。

 2学期もがんばります。授業そっちのけで。

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