第28話 下剋上部

 終業式の日、早朝。

 アストラルボディで騎士学校へ。


『あれが第1体育館かな? もう貼り出されてるといいんだけど』


 ギーゼラの試験結果を見に来た。

 騎士学校の体育館の位置は、魔法学校と大差ないみたい。


 ズボッと突入。

 タイミングよく職員さんたちが試験結果を貼り出し中。

 Aクラスはもう貼られている。


『わ、ギーゼラダントツ』


 貼られているのは総合得点。

 期末試験結果だけでなく、1学期すべての結果だ。

 2000点が満点みたい。

 ギーゼラは1885点。

 2位の貴族1712点。


 実技の加点が多いにしても、ギーゼラは家庭教師がいたわけでもない。相当な努力家だと思う。


 今日は終業式だけではなく、午後に部活見学がある。希望する部へ行くのだ。移動しない部員は部室で待つ。


 うちの部はポスターすら作っていないけど、ギーゼラが来るはず。


 マイボディに戻り、身支度と朝食を済ませると、今度は自分の試験結果を見に行く。


 まだすいている。

 いちばん左、Aクラスの結果前に到着。

 …………。


  1位 ラヴィ・フォン・ヴァイス

  2位 ユイエル・レガデューア

  3位 クラウス・フォン・アツェランド

     ︙


 また2位だ。ちょっと納得いかないけど、学年代表じゃないから良しとしよう。

 今回の成績表を受け取れば、だいたいの採点基準を把握できるはず。

 それよりクラウスくんどうした?


  1位 1897点 火属性

  2位 1892点 聖属性

  3位 1880点 光属性

     ︙


 クラウスくん、まさかの属性変更。

 風属性から光属性へ。


『賢者』になるためかな。風属性だけ突出していてもなれないから属性を変えたのかも。


 クラウスくんがまた属性を変えることも考えて、2学期はさらに点数を落とさないと。


 聖クラス2位の子の点数を探す。

 あった。1650点。200点以上差が……。

 おかしいな。クラスメイトたち、かなり成長したと思ってたんだけど。

 2学期は1600点台を目指してみよう。


 気づけばこの場の人数はずいぶん増え、かなりざわついていた。

 部員の結果も気になるけど、午後に当人たちから聞こう。


「ユイエルどの!」


 あ、いちばん見つかりたくない武士マックスに見つかっちゃった。

 しかもなんか浮かれてない?

 嬉々としてこっちに向かってくる。騒ぎそう。止めないと。


それがしCクラスでござる! 2クラス特進――」


 なんとか手で口を塞いで叫ぶのを止めた。ちょっと叫んだけど。


「マックス、おめでとう」


 マックスはコクコクと頷く。

 特進って使い方合ってる? 殉職したのかと思ったよ。


「じゃあ、午後に……」


 サッと離れ、体育館のAクラスが並ぶ方へ向かう。


 マックスにもう1度口止めしようかと思ったけど、やめといた。がんばって結果が出たのだし、嬉しいのはわかる。

 原因が部活だとまわりに思われなければ大丈夫。


 退屈な終業式と成績表配布のホームルームを終え、昼食。

 クラスの子たちと食べることもあるけど、今日はひとり。


 明日から夏休み。

 部活三昧ざんまいのつもり。

 けど、たまにはみんなで遊びに行くのもいいんじゃないかな?

 聞いてみよう。プールとかあるからね。


 食べ終えてディープのところへ走る。寮にポーションカバンを取りに行く。


 部室にはシェキアとエマがいた。

 だいたいエマが部室の鍵を取りに行ったり返したりしてくれている。


「ふたりとも早いね。もうご飯食べたの?」

「ユイエル! あたしたちEクラスのマズいご飯食べおさめたよ!」

「2学期からDクラスです。寮も今日移動できます!」


 ふたりとも嬉しそう。

 すぐにトーニくんも来た。


「トーニくん、試験どうだった?」

「あ……Dだった。ありがと」


 祝い合ううちにマックスも来た。

 うん。騒がしい。

 一気にCはすごいよね。生活態度を真面目に改善したからだと思う。口調は治らないけど。


 みんなチラチラポーションカバンを見てるけど、ギーゼラが来てからかな。

 軽く魔法の練習をしながら待つ。


「ね、ね、夏休みどーする?」

「平日は、なるべくここに集まろうか? みんな次の目標決めた?」


「もちろんBクラスでござる!」

「あたしもBクラス!」


 もうまったく不安はないみたい。トーニくんとエマはCが目標だそう。性格がでてる。


「夏休み、プールで遊んだり、許可取れたらDクラスの森に行こうか」

「やったー! でもあたし泳げない!」


 誰も泳げないみたい。浅いとこで水遊びかな。


『先生きた』


 フヨフヨの言葉でドアの方を向く。

 ……人数、多くない?

 ドアが開きカレン先生が入ってくる。


「下剋上部、入部希望者4名です。入って挨拶を」


 うわー……。


「Aクラス、クラウス・フォン・アツェランドだ。よろしく頼む」

「同じくラヴィ・フォン・ヴァイスです。よろしくお願いします」


「あの、Aクラス、ミリー・フォン・エスターライヒです。よろしくお願いします」

「ギーゼラだ。よろしく」


 ……どうしよう?

 ギーゼラは嬉しいよ?

 誘ったの俺だし。

 でも、あとの3人。なんで下剋上部に来たの?

 これ以上どう下剋上する気?


 しぶしぶ、対応しなきゃとカレン先生を見る。


「えーと、定員はあとひとりと伝えたと思うのですが?」

「はい。伝えた上でそれでもと希望した3名です。3名ともAクラスです。部室にも余裕があるので、ぜひ考慮を」


 ですよねー。

 なんだかガン見されてるし。みんな目力強いよ。

 ……見学の意思はなさそう。入部する気まんまんだ。


 入部でいろいろバレるリスクと、将来戦争に駆り出されないために育成するメリットを天秤にかけてみる。


『賢者』候補には育って欲しい。『賢者』はひとりで戦況を覆せる。


 それに、聖属性の使い手も数が少ないので育って欲しい。

 いまの俺が戦争に行かされるとしたら、たぶん回復要員としてだ。


 ミリーさんは、白髪をボブカットにした女の子。クラスメイトだ。エスターライヒは伯爵だったはず。


 話したことはないけど、よく見かける。ディープに出会ったときから、なぜか近くにいることが多い。

 選択授業もよくかぶる。


 この4人は、将来この国を背負って立つメンバーかもしれない。

 恩も売れる。


 天秤は育成する方へ傾いたみたい。


「部長のユイエル・レガデューアだ。4人ともよろしく。机、このあたりに4つくっつけて並べてくれる?」


 俺が8人の真ん中に座り、左右を見れば全員の顔が見えるよう配置。


 フヨフヨの触手は5本なので、魔力回復は4人ずつ2回に分けることにする。


「わかった」


 ギーゼラが真っ先に従ってくれた。今日も兜着用だ。

 ほかの3人も続く。


 並べ終えると、今度は初期メンバー4人が自己紹介。

 ポーションはどうしようかな。50本ある。ひとり10本のつもりだった。

 けど8人。


 しっかり区別しようか。貴族3名には譲ってもらおう。


「……悪いけど、俺が買ったマナポーションは、平民のみんなに配る。貴族の方は自分で買ってください」

「なに? 自分で使わないのか?」


 クラウスくん、またも信じられないって感じ。結構頭固いよね。


「俺は『5英傑』目指してないよ。あんまり成績で優遇するやり方も好きじゃない。ここにいるマックスは、EクラスからCクラスになった。卒業時Aクラスも夢じゃない」

「来年にはAクラスに上がるでござる!」


 マックスは言いながらも頭上に無属性魔法の球体を維持している。頑張ってほしい。


 クラウスくんは息を飲んでいる。

 EからCは信じられないことかな?

 マックスくらいの気概でお兄さんを下剋上すればいいと思う。


「みんな、危険のないように魔法の練習をして欲しい。魔力をたくさん消費するつもりで。気絶する前にやめてね」

「わかった」


 ギーゼラは、マックスの真似をした。

 頭上の球体は回転しているみたい。早く消費するためだろう。


 やがて先に初期メンバーが魔力を使い切る。

 フヨフヨにいけるか確認。


魔力回復マナチャージ


 ひと息ついた初期メンバーは、いつものように魔法の練習を再開。


 今度はクラウスくんだけでなく、4人とも驚いている。驚きながらも魔法を使い続けているのは、ギーゼラだけだ。


 クラウスくんがバッとこちらを見る。


「……ど、どういうことだ! ユイエル! なにをした!?」

「魔力の回復だよ。これは部員だけの秘密だからね。俺の魔力の限界があるから定員は5名だったんだ。これ以上増えたらもたないよ」


 嘘だけど内緒にしてもらわないと困る。たかられちゃう。

 クラウスくんは混乱中だ。


 ギーゼラがこちらを見る。


「……秘密は守る。ボクの秘密も守って欲しい」


 そう言って、兜を脱いだ。


 ミリーさんとエマだけが目を丸くして固まった。

 あまりよくわかっていない初期メンバーに軽く説明して口止めをする。


「ボクそろそろ、疲れてきた」

「うん。4人同時に回復するから少し待って。クラウスくん、ラヴィさん、ミリーさん、消費できる?」


 3人はあわてて魔法を使い出した。

 自分で体験したいのかな。結構真剣。

 やがて3人も疲れをうったえる。


『準備万端』


魔力回復マナチャージ


『満タン』


 4人とも呆然としている。

 先に正気に戻ったのは、やっぱりギーゼラ。


「ユイエルは、すごい。完全に回復した感覚がある。まだ使っていいのか?」

「うん。今日は次でおしまいにしよう。夏休み中、平日は無理のない範囲でここに集まる。俺はなるべく朝のうちに来るようにするから、よかったら来てね」


「……おまえ、試験は手を抜いているのか」


 クラウスくんにさっそくバレた。

 実際に魔力を回復しているのはフヨフヨだけど、もし俺がやっていると考えたなら、『賢者』も超えていると感じるかも。


 魔力回復は、本来ほんのわずかしか回復しない魔法だ。魔力の効率がすこぶる悪い。


 はぐらかしてみよう。笑顔で。


「魔法はイメージ次第だから、魔力の節約もがんばってみて」


 嘘ではない。

 たとえばシェキアは、俺のLEDを真似て高温にならないようにしたら魔力の消費が半減した。工夫大事。


 カレン先生の許可を得て、ポーションを平民の5人にお祝いとして渡す。

 みんな喜んでくれた。


 森を使う許可申請もカレン先生に出す。

 許可は、すぐにはおりないそう。


 せっかくの長期休みだし、フヨフヨたちお供のみんなとも日中遊びに行ったりしようかな。

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