第27話 チートアイテム発見

 夜、遺跡で武具の仕分け中。

 幸い、外に見張りはいなかった。


 あのあと、集団はそこまで時間をかけずに帰っていった。

 たぶん柵の資材を用意して戻ってくるはず。


 ここの整理を思い立ったのは、遺跡で剣を見つけたという〈聖剣〉さんの言葉でだ。

 フヨフヨによればここに生きた武具はないそう。


『んーうー、開かないの!』


 ヒタチも物に触ることができる。でも、壊滅的に力がない。


 そもそもヒタチだけ半透明ではない。壁をすり抜けられることの方が不思議だよね。


 スライムをどうやって倒しているのかと思えば、樹の根を操作して下からプスッと倒していた。

 ヒタチ樹は農民さんたちに拝まれている。豊作祈願らしい。


『ヒタチ?』


 見に行ってみれば、ヒタチが開けようとしているのは、ガマグチ財布みたいなものだった。ちょっと財布にしては大きめ。ガマグチポーチ。


『フヨフヨ、ヒタチのあれ、あけてあげられる?』


 触手5本が繊細に動き、パカッと。開いた口は、直径20センチほどの真円になり、カチッと固定された。


 そしてその中は、真っ暗。どの角度からみても真っ暗。

 ……内側に黒っぽい金属の輪がある。これも遺物アーティファクトみたい。


『ふむ? 意味がわからんの? カラかの?』

『……え、アイテムボックスじゃない!?』


 いや、マジックバッグというべきか。これは熱い!


 武具は、ぶっちゃけ良し悪しもわからないし、そもそも学校に持ち込めないし、もう放置してワーム退治に行こうかと思っていた。


 フヨフヨが楽しそうに仕分けしていたからつい眺めていた。


 まさか武具に混じってこんなのあったとは……。


『ヒタチ、これどっから出てきたの?』


 武具の入っていた箱の底にヒタチが消えた。

 そして、木の板が1枚、くるんと1回転。裏にヒタチがくっついて現れた。


 なにそれ!?

 どんでん返しじゃん。忍者屋敷なの?

 ヒタチめちゃくちゃ楽しそう。


『お手柄だヒタチ!』

『やったのー! たまたまくるんってあれが出てきたの!』


 お手柄って褒めたのに、たまたまって言っちゃったな。


『ほかに何もなかった?』


 くるんくるんと何度か繰り返すヒタチ。


『もうないの! ほかの箱探すの!』


 木箱の仕掛けはヒタチに任せよう。いちおう箱は植物だし。


『じゃあ、ガマグチに金貨でも……フヨフヨ触手無事?』


 フヨフヨの触手はすでにガマグチの中だった。

 金貨でも入れて確認しようかと思ったのに。

 するんと触手の先が出てきた。無事で何より。


 いちおうフヨフヨに気をつけるよう言っておく。


『中身あった?』

『中身いっぱいある』

『妾もやってみよう』


 やっぱりマジックバッグだ。

 アストラルボディはすり抜けるみたい。フェネカの爪はガマグチの下から飛び出てる。

 俺もやってみたけどすり抜けた。


『フヨフヨ、中身出せる?』

『うん』


 コンクリの床に、大粒の青い宝石がコロンと出される。商人さんとか見たら絶叫しそう。


『これ、寮の俺の部屋に運んだらマズいかな』

『バレなければ問題ないのではないか?』


 基本的に遺跡から発掘された遺物アーティファクトは国のもの。けど、これはぜひ私物化したい。


 開けなければ遺物アーティファクトとはわからない。


『もしバレたら……気づいたらそばにあった。って言い訳でどうだろう』


 ギーゼラは〈聖剣〉を取り上げられていない。

 ……〈聖剣〉さんが勝手にギーゼラのとこへワープするからかも。ダメか。


『とりあえず検証しよう。フヨフヨその一番長い槍を入れてみて?』

『うん』


 入った。というか、ガマグチにふれた途端に消えた。


『槍出せる?』


 パッと出てきた。


『それ、手を突っ込むと中身わかるの?』

『うん』


 やってみたい。


『持って帰ろう』


 フヨフヨに武具を入れまくってもらう。めちゃくちゃ入るな。

 大きさは関係ないみたい。大盾とか入っちゃった。


遺物アーティファクト、入らない』

『あー……』


 遺物アーティファクト遺物アーティファクトは入らないのか。残念。


『満タン』

『限界があったか……シリュウ起きてる?』

『宝の管理か? 任せてもらおう』


 やった。一旦脱出。

 ここから物を持ち出すのは結構大変。いちいちフタをして隠蔽しないといけないし。


 シリュウのところなら、誰の目にもふれない。距離も若干シリュウのところの方が王都に近いかも。山の高さを無視すれば。


 マジックバッグを無属性魔法でつくった箱に入れ、フヨフヨに魔力をもらって移動。

 がんばったけど、時間がかかった。


 シリュウの宝置き場にフヨフヨが出しまくる。

 どんどんでてくるの面白いな。

 シリュウがなんだかハラハラしてるけど。


『シリュウ? 迷惑だった?』

『とんでもない……ただ、フヨフヨの宝の扱いは……』


 ああ。フヨフヨに美術品取り扱い免許はございません。

 出すのもシリュウに頼めばよかった。巨体だから小さなポーチを預ける発想にならなかった。


 明日には遺跡は遺物アーティファクト置き場と化すな。

 ポーションの材料も運搬しないと。マジックバッグにポーションを溜め込もう。


 なんとか明け方に寮へたどり着く。

 フヨフヨに警備員の動向を見てもらい、上空からそっと寮の部屋の窓へ。

 フヨフヨに開けてもらい、サッと入る。成功。


 マイボディに戻り、さっそくガマグチに指を入れてみる。恐る恐る。


 頭の中に内容物の一覧が浮かんだ。硬化と宝石だけ中に残してある。

 この世界に来てはじめて、ゲーム画面に近いものを見た気がした。



  ◆◇◆



 7月半ば。

 1学期、期末試験3日目の午後は、オークの討伐。森の中の指定ポイントで。


 マジックポーチは、ポーションの材料運搬に活躍してるけど、今日は部屋に置いてきた。


 ひと回り大きいポーチを買ってその中に仕込んでみた。でも、出し入れするとバレそう。なので部屋のリュックの中に隠した。


 オークは、着いて早々びっくりするほどあっさり討伐された。


 チームA1だと俺出番ないんだけど点数もらえてる?


 魔法使い3人が一斉に攻撃した時点でオーバーキルだったのに、ギーゼラが真っ二つにしたからね。その瞬間オーク消えたよ。

 あと、俺ちょっと人型モンスターに慣れつつある。襲われても逃げられるよ。


『オーク2匹くる。あとでっかいオーク』

『え? 試験終わりじゃないの?』


 聞いてた話と違う。追加試験?

 少しは活躍しとこうかな?

 相変わらずカレン先生は近くにいる。


 アストラルボディの腕をずらし、聖域の準備。


 チームA1のみんな、完全に気が抜けているように見える。

 オーク、早めに発見して欲しいな……。


「試験が終わっても、森で気を抜かない方がいいかも?」


 帰るまでが試験かも。

 ハッとしたようにギーゼラが顔をあげる。


「あ、2匹くる!」

聖域サンクチュアリ!」


 全員覆うドーム状聖域。

 魔法使い3人が、ギーゼラの視線を追って構える。

 またあっさり討伐。

 でも――。


「もう1匹!」


 ギーゼラが叫ぶと、そいつは木の影から走り出した。

 3メートルはある巨体。だが速い。

 一気に跳躍。

 ギーゼラに向け、棍棒を叩きつけてくる。

 聖域に衝撃。


 ギーゼラは焦らず跳び、カウンターで首を飛ばした。

 聖域で防げると信じてくれたみたい。


 ギーゼラはもともと強かった。

 こんな10歳児いないレベルだった。それが、いまはもう騎士でも勝てないレベルらしい。〈聖剣〉さん情報だ。

 〈聖剣〉さんがアドバイスしてるみたい。あと〈聖剣〉さんの斬れ味最強。


「ユイエル、さすが」


 ギーゼラ楽しそうだな。

『剣聖』育成計画はすこぶる順調。


「ギーゼラ、ナイス。もういない?」


 身体強化を使っているギーゼラが頷いたので、聖域を解除。


『……ところでフヨフヨ、警備員なんか少なくない?』

『でっかいオークの逆襲にあってる』

『妾が見てこよう』


 逆襲……試験用オーク拉致したから?


『大丈夫なの?』

『大丈夫ではないのう。救援がくる前に死者が出そうじゃ。生徒をかばっとる。撃っていいかの?』


『撃って! 人巻き込まないで助けて!』


 フェネカのいる方を向く。ちょっと遠い。


『うむ。全部倒した。全員無事じゃ』

『ありがとうフェネカ』


 無茶振りしたかと思ったけど余裕だったみたい。


 この日から、この森には生徒を守る火の精霊がいるという噂がたった。

 違うよ。カーバンクルの死霊。



 試験結果は、どんな感じかな?

 結構がんばって点数を調整したつもり。学年代表はやりたくない。けど、Bクラスには落ちたくない。


 だから、遺物アーティファクトで狙った点数を出す練習をした。


 そして俺は一昨日、みごとに941点を出した。

 入学のときは940点だったから、1点だけ成長したことに。


 国語や算数も満点は避けた。芸術は狙ってないけど赤点だと思う。


 また点数が張り出されるから、ギーゼラのも見に行こうかな。

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