第25話 〈聖剣〉さん
『
シリュウは、パッとテレパシーに切り替えてきた。
『シリュウ、聞いていい?』
『もちろん。しかし主の魔法は凄まじい。聖女か?』
まだ興奮しているみたい。
聖女じゃないよ。ちょっと先に自己紹介タイム。
魂だけでここに来ていると伝えたら、めちゃくちゃ驚いていた。「精霊を介した知らない聖魔法があるらしい」くらいに思っていたみたい。
フヨフヨやフェネカがいることにも驚いた様子。ディープも紹介した。
『さっきシリュウは、紫の子はここを見つけるって言ってたけど、それってどうやって?』
『我がなにかするわけではない。〈聖剣〉は持ち主を選ぶという。選ばれた者は夢にでも見るのではないか』
なるほど。ならギーゼラはそのうちここへ来たがるわけか。
でもそれって5年後とかかも。
『……俺の知り合いに、ギーゼラっていう紫の髪の子がいるんだ。〈聖剣〉を渡せないかな?』
『なんと! 生まれていたか!』
シリュウから歓喜の波動。
そして、でっかい図体が壁際に寄る。
『この奥にあるものすべて、主のものだ。〈聖剣〉は、できればそのギーゼラに渡してもらいたい』
奥にはさらに斜め下へ向かう穴があった。
少し進むと、すぐに行き止まり。
そこには、キラキラ輝くものが大量。
俺最近、財宝に縁があるみたい?
『すごいな。これどうやってこんな、キラキラのままにしてるの?』
『魔法で包んで守っていただけだ』
シリュウはキラキラが好きみたい。
なら、このままここに置いておくのがいいかも。最後の最後に手を付けるタイプのヘソクリにしよう。将来なにかあっても安泰。
『無属性魔法ってこと?』
『そうだ』
『シリュウは無属性しか使えない?』
『いや、種族的に風が使える』
ドラゴンはほとんどが2属性ってことかな。『ラングオッド王国モンスター図鑑』によれば赤いドラゴンは火を吐くはず。
それはともかく〈聖剣〉をギーゼラに届ける方法が問題だな。
警備員だらけの学校だ。実体化フヨフヨが持ち帰ったら、剣が空を飛んでる事件になっちゃうかも。
上空から落とす……と、大惨事……。
かといって、たとえばセバスチャンに手紙で「隠してある剣を学校に送って」とかすると、出どころも謎だし、なによりとんでもない誤解が生まれそう。
俺は剣を持つ気はない。
考えながら、まずは見てみることに。
〈聖剣〉は、いちばん奥に立っている。ご丁寧に、そこまでは財宝が左右に分かれて道ができている。金塊の量が半端じゃないな。
『……〈聖剣〉、そもそも抜けないんじゃない?』
結構深く台座に突き刺さっているみたい。
『……その可能性はある。やはり来るのを待つか。生まれているならすぐだ』
シリュウは、ずいぶん気が軽くなったみたい。よかったな。
話しながら〈聖剣〉の目の前へ。
どうでもいいけど、この〈聖剣〉、デザインが『剣聖』の紋章そっくり。
エセシンデレラ城の謁見の間に、完璧な意匠の旗がある。父様が帰って来るたびに見に行ったので覚えている。
……なんか、柄の頭のとこに宝石ついてなかったかな。もしかして取れちゃってる?
近場に転がっていたりはしないみたい。
無機物は、聖魔法では再生できない。土魔法で似たようなものを作るしかない。
けど、〈聖剣〉なら聖魔法でいけそうな気もする。絵本だと主人公が〈聖剣〉になったみたいだったし。
『この〈聖剣〉って、紫の髪の男性?』
『知っているのか。男と、男の持っていた剣が融合したのだと我は思っている』
てことは、シリュウがやったわけじゃないのか。
もし、その男性の魂が宿っていたりするなら回復もできるかな?
ダメもとでやってみよう。
『
おお! 紫の宝石が生えた!
浄化もしとこう。見た目もさらにキレイに。
うん。完璧な〈聖剣〉っぷり。カッコいい。
再生できたってことは、やっぱり生きてる?
『……〈聖剣〉さん、紫の髪のギーゼラは、ラングオッド王国の騎士学校内にあるAクラス女子寮にいるはずです。自力で飛んでってもらえませんか?』
フェネカが笑い出したんだけど。
『フェネカ?』
『すまぬ。ユイエルは楽しい男よな』
なんか好意みたいな波動が来た。照れるからやめて。
『フヨフヨ抜いてみる?』
『うん』
フヨフヨが〈聖剣〉の柄に触手を巻きつける。
『自力で行きたいって。でも魔力足りないって』
……あ、はい。〈聖剣〉さんも喋るのね。聞こえないけど。
絶対に名付けないぞ。触らないようにしよう。そしてギーゼラに名付けるように言おう。
『フヨフヨ……先に宇宙いく?』
『まだ大丈夫』
ああ、フヨフヨが2メートル切っちゃったよ。魔力を〈聖剣〉さんにたっぷり渡したみたい。
早く宇宙へ行かないと。本人気にしてないのは知ってるけど俺がソワソワする。
やがて〈聖剣〉が輝き、すーっと、まるでフヨフヨが抜いたかのように持ち上がった。
眩しい。
そして鞘が現れ、一瞬で刃を覆う。
ほんとカッコいい。
見惚れている間に〈聖剣〉さんは消えていた。
……まさか、ワープしましたか〈聖剣〉さん。
『ギーゼラのとこ行った?』
『うん。お礼言ってた』
シリュウは、ちょっと混乱気味の驚愕波動放出中。
なんか、フヨフヨがごめん?
……俺か?
『シリュウ、きっと大丈夫だから、安心して。俺たちは宇宙に行くよ』
と、言いつつ〈聖剣〉さんがギーゼラの部屋の窓を割ったりしないかちょっと心配。
『シリュウ、近いうちにまた来るから!』
『わかった』
シリュウから尊敬みたいな波動が。俺結構行き当たりばったりなのに。
フヨフヨに抱きつく。フヨフヨからはいまだに歓喜の波動が来る。
宇宙でまったり戯れ、騎士学校の上空経由でマイボディに帰った。
とりあえず、騎士学校で騒ぎは起きてないみたいだったよ。
◆◇◆
6月
2度目の合同授業。
「ギーゼラ、久しぶり!」
「……久しぶり」
ギーゼラの腰に〈聖剣〉さんらしき物体が。
「らしき」なのは、布が巻いてあるから。柄の宝石も布で見えないし、鞘にも巻かれている。
『フヨフヨ、ギーゼラが下げてる剣、〈聖剣〉さんで間違いない?』
『うん。先日はどうもって言ってる』
……〈聖剣〉さんが庶民的な挨拶。
そんなこと考えている場合じゃない。クラウスくんが、なんでギーゼラだけ挨拶するんだと言わんばかりにこっちを見ている。
チームA1のみんなと再会の挨拶を交わす。
前回同様、モンスター討伐に出発。
ギーゼラが最後尾に付いてくれた。
さっそく聞いてみよう。
「その剣、なんかカッコいいね。どうしたの?」
「……気づいたらそばにあった」
よかった。やっぱり窓を破壊して飛び込んだりはしなかったみたい。迷子にもなってなくてホッとした。
「へー。ギーゼラを使い手に選んだ伝説の剣とかかな? 名前は?」
「……名前?」
「なんかカッコいい名前あったりしないの?」
「……たぶん、しない」
「なら、ギーゼラが名前つけたらいいよ」
「……名前か」
ちょっと強引かな……けど、名付ければきっとギーゼラは〈聖剣〉さんと話せるようになる。俺が名付けてしまう事故も防げる。
『ゴブリン2匹、前から』
スライムゾーンを抜けたので、しばらくは交代でモンスター討伐。金髪の男の子が最後尾についたりする。
俺はちょこっと聖域を使った程度で怪我人はなし。
1回目よりずっとスムーズ。連携もできつつある。
ギーゼラが最後尾に戻り、ジッと見てくる。
「エクスカリバー。剣の名前、どう?」
「……い、いいと思う。馬に名付けるときみたいに、柄にふれて名付けるといいんじゃない?」
ちょっと顔が引きつったかも。この世界、アーサー王いたりしないよね。別の絵本にでも出てくるのかな。
ギーゼラが首をかしげている。
「馬に名付けるとき?」
「あれ? 馬に名前つけてないの?」
「つけてる。呼んだことはある……ふれて名付けるものなのか?」
「……そのはずだよ。そしたらすごく仲良くなれたから」
馬が喋らないからか、いまいちテイムがポピュラーじゃない感じ。
実際テイムしてはいるはず。名付けると馬の気持ちがわかるとか言われてるから。
「わかった。やってみる……エクスカリバー」
ギーゼラがビクッとした。
繋がったかな。
「え、あ……」
会話できたかな?
ギーゼラめちゃくちゃ戸惑って目が泳いでるけどね。剣が喋ったら、そりゃ戸惑うよね。その気持ちわかる。
これで次期『剣聖』はギーゼラで決まりじゃないかな。
なんせ〈聖剣〉さん、『剣聖』の紋章にそっくりだから。
『……ところでフヨフヨ、〈聖剣〉さんってなにができるの? ワープできて切れ味いいだけ?』
『……使い手次第って言ってる。一緒に成長するって。ワープはギーゼラのとこ戻るしかできないって』
なるほど、剣も育成が必要なのか。
となると、シリュウはラスボスではない。ラスボスさんどこのどなただろう?
もっと育成がんばろうかな。自分も部員も。
『そういえば……絵本の主人公は最初素手で、突然剣が出てきた気がするんだけど……もとから〈聖剣〉だったの?』
『……遺跡で見つけたって。素手でドラゴンに挑まないって』
絵本に出てこなかっただけでしっかり準備してシリュウのところへ行ったってことか。
……遺跡の武具なんてちゃんと見てない。ポーションのためにまた行ったけど、
けど、夜はまずシリュウに会いに行かないと。近いうちにって言ったし。
〈聖剣〉さんが届いていたことを知らせよう。まだ聞いていないこともある。
全然テレパシー送ってこないしな。
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