第24話 ドラゴンさん

 土曜日。

 のんびりと朝食を堪能し終え、歩いて図書館へ向かう。


 ここの図書館、広いんだよね。2階まである。


『探すの手伝ってくれる?』

『もちろんじゃ』


 フヨフヨからも肯定の波動。


『じゃあ先に、絵本、まほうつかいとドラゴンを探そうか』


 幸い、絵本のコーナーは狭かった。


『なさそうじゃの?』

『あ、せいれいの国がある……ヒタチ? 精霊には国があるの?』

『そんなのないの。精霊はなにかに宿るのー』


 こっちは創作だったか。


『あった』

『えっ、フヨフヨどこ?』


 壁の向こうにいる感じがするんだけど。


『奥じゃ。カウンターのうしろから入るようじゃの? Aクラスのみだとか、持ち出し禁止だとか書いてある部屋のなかじゃ』


 そんなとこあったのか。

 カウンターで聞き、名前を書かされて入る。

 結構広い。ここだけで田舎の図書館くらいある。


『そこを右じゃ』


 フェネカの案内で発見。

 さっそく席について読む。


 むかしむかし、あるところに――。


『ふむ。紫ずくしじゃの』


 フェネカも見ている様子。


『この主人公、無属性の魔法使いだよね』

『じゃのう。昔は迫害されとったのかの?』


 フェネカが知らないって相当昔だと思う。自分の年齢把握してないみたいだけど。

 2000年前とかかな。


 紫の髪の男が主人公。

 主人公は、魔法が使えないのに魔法使いを自称したため迫害される。


 けど、いじめようと襲いかかった腕自慢の男たちを、ひとりで返り討ちにしてしまう。

 当然、男たちは面白くない。主人公をはやし立てたり、王様っぽいえらい人に訴える様子が描かれ、結局主人公はドラゴン退治に行かされる。

 倒せば、魔法使いと認められることを夢見て。


 死闘の末、主人公は紫のドラゴンと相打つ。

 そして認められる。ドラゴンは人を襲わないことを約束。


 主人公は死に際に身の上話をする。

 そして願う。自分と同じ色を持つ者が迫害されないことを。


 主人公の遺体が消えたところに、なぜか剣が落ちている。

 ドラゴンは言う。ならば同じ色を持つ者が誰にも負けぬよう、認められるよう、この〈聖剣〉を授けよう。


 そんなストーリー。

 で、これ続きがあるのだ。裏表紙に。文字はない。


 台座に突き立った剣を、紫色の子どもが握って引き抜こうとしている様子。ドラゴンは見守っている。

 エクスカリバーかな?


 なんにせよ、どう考えてもドラゴンがもつ〈聖剣〉はギーゼラ用だ。

 ギーゼラじゃないと抜けないのかな?

 勝手に持ってきてギーゼラに渡したりするとドラゴン襲ってくる?


 まあ、たぶん〈聖剣〉を取りに行くのが、この世界の本来のストーリーだろうくらい。

 なくても『剣聖』にはなれるはず。でも、あったほうがきっと強く成るよね。


 あとで見に行こう。

 ドラゴンにもアストラルボディが見えないことは、すでにわかっている。安全。


『じゃあ、次はポーションの材料を調べようか』


 見つけた遺跡には、ポーションを作る遺物アーティファクトもあった。

 見つけたときには、なにかわからない遺物アーティファクトだった。が、職員棟にあるポーション販売カウンターの裏にズボッといったら判明した。


 けど、ポーションの材料が不明。張り込んで材料が来るのを待つより、調べた方が早いはず。


 遺物関係の本を読み漁る。

 遺物のそばで古代語の文献が見つかることがあるらしい。石版とか壁画。

 けど内容が載ってないな。


『のう、この本に載ってないかの?』

『どれ?』

『読める者を探さねばならんかもしれぬが』


 ちょっとアストラルボディを出してフェネカの指す本を見る。『発見された古代語集』


 開いてみる。


『……載ってそう。しかも読めるかも』

『それはすごいの。妾よりよほど博識じゃ』


 ペラペラめくってマナポーションの材料を探す。

 あった!


 mana potion

  ・pure water 120ml

  ・mana stone powder 18g

  ・mandrake 5g

  ・holy basil 3g


『……ヒタチ、マンドレイクとホーリーバジル? 知ってる?』

『どこでもあるの。森にいっぱい生えてるの!』


 マナポーション作れそう。

 けど、日本語世界の古代語が英語って。運営に物申したい。


 それはともかく、マナポーションを作っても、部員にあげるのは危険かも。買うと記録が残る。買わずに持ってたら怪しさ爆発。


『ヒタチ、マナポーションいる?』

『いつもの雨がいいのー』


 マナポーションより俺の魔法がいいのか。


『フヨフヨいる?』

『ダークマターがいい』


 これは、もしディープが喋れたら「ニンジンがいい」と言われる流れ。

 フェネカは死霊なので接種不能。


 遺物を見つけたから調べたけど、誰もいらないオチ。まあ楽しいから時間があったら作ろう。



  ◆◇◆



 午後。マイボディはお昼寝だ。

 大陸のほぼど真ん中にある山の上空。

 マウント・フシとかいう、富士山にそっくりな山を見下ろす。

 壮大な眺め。これだけでも来て良かった。


『雲の上なの』

『これも生身では見れぬ景色じゃの』


 ヘリコプターで富士山の上を飛べば見れそうな景色……とか言ったら無粋なんだろうな。


 以前1度、山の中腹あたりは見た。紫のドラゴンは見かけていない。


 この山は、ちょうど富士山が静岡と山梨の間にあるみたいに、ラングオッド王国と西の大国の堺にある山だ。

 残念ながら国境は広く、山の両側は苦も無く戦場となるそう。


 てっぺんのくぼみに降りる。

 くぼみってサイズではないな。クレーターみたいなとこ。


 ……これみよがしに怪しい横穴があります。巨大。ジャンボジェットでそのまま突入できそう。


『フヨフヨ? あの中にドラゴンいる?』


 すーっと近づいていくフヨフヨ。


『いる。1匹』

『危険があったら教えて』


 みんなで向かう。

 横穴というより、斜め下に向かう穴だった。


『う、わ……でっか』


 いました。ジャンボジェットサイズの紫ドラゴン。羽は閉じているので開いたらもっと大きいかも。


 カッコいいな。想像より細身。顔つきも、擬人化したら細面で怜悧な印象になりそう。


 グルルルルと低い唸りを上げている。

 気のせいか、こちらに目が向いているような……。


「精霊が何用か」


 喋った。

 ……気のせいじゃなかった。ヒタチ連れてきちゃダメだった感。どう考えてもヒタチだけ見えてるよ。


『苦しそうなの。大丈夫なの?』

「……植物の精霊に言ってもどうもなるまい。去ね。気に障る」


 なんだか、ビリビリする。空気が震えているというか、ドラゴンさんから苛立ちの波動みたいなものが。


 悩みでもあるのかな?

 とりあえず浄化しとこう。もしギーゼラが〈聖剣〉を取りに来るなら、ドラゴンさんはもっと温厚な方がありがたい。


 両手を組んで祈る。

 ドラゴンさんの悩み吹き飛べ!


『聖魔法 浄化ピュリフィケーション


 えっ、めっちゃ魔力使う。ぐんぐん減る。

 ……相当深い悩みがあるのかも。


『フヨフヨごめん、魔力足りない。分けてほしい』

『うん』


 フヨフヨに魔力をもらいながら続ける。

 ドラゴンさんが身じろぎし、瞬きを繰り返す。


「なんだ、精霊、なにを……魂が洗われていく……」

『ヒタチじゃないのー』


「……たしかに精霊の力ではない。もしや主がいるのか?」

『いるの! 主はすごいのー! 名前をもらうとずっと楽しくなるの! おすすめなの!』


 え、ちょ、ヒタチ。

 こんな大きな子は寮にもレガデューア屋敷にも入らないから。


 お、やっと浄化完了。手応えがなくなった。

 ふう。フヨフヨが元のサイズになっちゃった。2メートル強くらい?


 ……ドラゴンさん、震えてる?

 でもビリビリはすっかりなくなった。


「なんということだ……数千年かけて募らせたものが、まさか、まさか……感謝する! 精霊よ! 主に会わせてくれ! 礼をせねば!」


 ドラゴンさん興奮している様子。

 礼はいらないと言って立ち去るべき?

 でも、ドラゴンさんの礼って、すごく気になる。どうしよう?


 ちょっと逡巡する間に、ヒタチがこっちを指した。


『ここにいるの。でも見えないの』


 ヒタチ、素直すぎ。

 なんでもこたえちゃう。

 いちおう俺、こっそり見に来たんだよ。


 ドラゴンさんの目が動く。やっぱり見えないみたい。


「……心から礼を言う。魂が洗われてわかった。我はあと一歩で自我を失うところであった。ありがとう」


 自我を失う?


『ヒタチ、理由聞ける?』

『理由聞きたいって言ってるの!』


「理由か……はたして伝わるかどうか。おのが欲に反したことを永きに渡って続けると、いかなドラゴンといえど狂うということ。我は驕っていた。いつまでもここで待てると」


 待つってギーゼラのことかな。紫の子という意味か。

 ……もしかして、このドラゴンさん、ボスだったのでは?

 ギーゼラが来たときには狂って襲ってくる的な?

 結果オーライ。


 それから、絵本について聞き、どうやって紫の子を見つける予定だったのか聞き、話しているうちにまどろっこしくなってきた。


 ヒタチに通訳してもらわなければならないのだ。

 なので、名付けるとどうなるのか聞いてみる。


「精霊と同じだ……どんなに短くとも1000年は、一切迷惑をかけないと約束する。恩を返したい。名付けてもらえんか?」


 テレパシーが使えるようになるだけなら、メリットしかないかも。


 いちおう、俺がいるからといって人里をたずねたりしないで欲しいと、ヒタチ経由で伝える。

「もちろんだ」と快諾。


 紫ドラゴンの名前……。

 怒られそうな名前しか思いつかないな。けどカッコいいしな。


 恐る恐る近づき、片手を鱗に突っ込む。


『シリュウ』


 繋がった。

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