第23話 遺跡?
兜をかぶろうとしていたギーゼラは、かぶらずに両手をおろした。
ゆっくりとこちらを向く。
金色の瞳と、目が合う。
なんだか、ガラッと印象が変わったな。あどけなく見える。最初はカッコいい印象だった。
もちろん瞳の色が変わったりはしていない。同じ金色なのに、金属から太陽に変わったみたい。
「……大丈夫? 兜があって良かったね」
「あっ……」
目を見開いて、手にある兜に視線を落とした。
転んでいた金髪の男の子がガバッと身を起こす。
「ギーゼラごめん!」
「……いや、無事だ」
手を擦りむいている様子だったので、こちらにも軽い回復。
お礼を言われ、少し馴染んだ感じに。
各々ドロップを拾い、クラウスくんが足元に気をつけようと言って、再出発。
兜をかぶり直したギーゼラが振り返る。
「ボクが最後尾につく」
「わかった。そうしよう」
クラウスくんがうなずき、ギーゼラが横に来る。
「さっきは、ありがとう。頭のコブがなくなった」
「無事でよかった。俺は剣が使えないから、護衛をお願い。もし怪我したら回復は任せて」
うなずいてくれた。
文官学校の子も頭を下げている。
クラウスくんの指示で方向を変え、さらに移動しながら倒していく。Uの字を描くように別のルートで帰る感じになりそう。
「ギーゼラは、部活はなにをやってるの?」
「剣技部」
「おお、カッコいい。無属性魔法も教え合う?」
下剋上部とは大違い。
「いや……魔法は苦手だ」
やけにじっくり観察されている気がするな。
右手のひらを上に向け、聖属性の球体をつくる。
「これは、どう? 苦手?」
「そのくらいなら……魔力の無駄は減点にならないか?」
「どうだろう? 魔力は使った方が増えるらしいから、どんどん使いたいんだ」
ギーゼラも手のひらを上に向けた。同意してくれた様子。
そこに無属性のきれいな球体が出現。
「得意そうだけどな? それを尖らせて飛ばせば攻撃になるよね?」
「速度が出ない」
ギーゼラは無属性の球体を円錐状に尖らせ、木の幹を狙って撃った。
ドゴッと幹がえぐれる。
どこが苦手なんだろう?
……当人も驚いてない?
「……あれ?」
自分の手を見つめている。
「結構速そう。もっと速度をあげる練習する?」
「……もっと、遅かったはず」
もう一発撃った。さっきの木よりも大きな穴が。速度も上がった気がする。
……精神的なものかな?
浄化は意味があったのかも。
えぐれた木は、通り過ぎてからこっそりと2本とも回復。放置したらヒタチがしょんぼりしちゃう。
『……フヨフヨ、ギーゼラに魔力あげたい』
『準備万端』
「
「…………」
めっちゃ見られてる。
クラウスくんにも見られてる。
けど、ギーゼラの魔力量は増やしたい。いまのうちに関心を持ってもらいたい。
合同授業は毎日あるわけではないので、チャンスは少ない。
これで2学期からうちの部に入ってくれないかな?
魔法学校の部活に騎士学校の生徒が入るケースはほとんどないらしい。
けど、禁止でもない。俺もギーゼラもAクラスなので融通をきかせてもらえる。
「ギーゼラは『剣聖』を目指してる?」
「……そう。絶対、なる」
金色の瞳が、金属の輝き。やっぱカッコいい。
「きっと、なれる。それなら、剣技も大切だけど、魔力も増やしたほうがいい気がしない?」
「……する」
さっきからジッと見られている。
『剣聖』になりたいなら『剣聖』の息子は気になるか。
「俺、魔力を増やす部を作ってて、あとひとりだけ、入れるんだ。ギーゼラは馬を持ってるでしょ? どうかな?」
「……ぜひ頼む。先生に相談する」
やった。
あとひとりだけ、と言ったのは、ほかのメンツを牽制するためもあるけど、フヨフヨの触手が5本だからだ。
◆◇◆
こんばんは、ユイエルです。
えー……今夜も元気に腹黒おっさんの浄化を済ませ、土壌改良していたところです。
そしたら、なんか出ました。
土の上にどーんって感じで。
『……なにこれ?』
『扉の上部かの?』
位置はもう、ヒタチの樹からかなり離れている。
ひび割れゾーンから砂ゾーンに入る直前あたり。まだワームは生息していない。
やけに魔力を消費したと思ったら、土の上に3メートル4方くらいの……コンクリート?
コンクリートだな?
あれだ、学校とか、建物の上にぴょこんと出ている、階段の最上階みたいな小部屋。
屋上に生えている扉だけの小部屋。
その上部80センチくらいを切り取ったような物体。
たぶん、切り取ったのは俺。深さをしっかりイメージしていたからかな。
もしかして……。
『……し、下に遺跡があると思うひとー!?』
『ありそうじゃの?』
『モンスター、いない』
ディープとヒタチは疑問の波動。
フヨフヨが触手を物体の下に入れ、向こう側へひっくり返す。ゆっくり。
バタンと奥へ倒れると、手前にボコッと四角い穴があいた。土が下に落ちたみたい。絶妙なバランスで載ってたの?
目の前に遺跡に続くかもしれない穴。これは熱い。ワクテカ。
『た、探検開始ー!』
『おーなのー!』
降りると、あらかた土に埋まっていたけれど、1方向だけ崩れて隙間が。
ズボッと土を突き抜ける。
暗い。光魔法で小さめのライトを作る。
ただのコンクリ階段。結構長そう。
階段を下りきって、一本道を進み、やがて分かれ道。
『手分けするかの?』
俺とディープ、フヨフヨは右へ、フェネカとヒタチが左へ。
地下道って感じ。
『ヒタチ見えてる?』
『真っ暗なの。明るくなったの』
『すまぬ。いま小さな灯りを用意した』
フェネカは夜目が効く。
『お、扉だ!』
道が行き止まりになっており、右手に古びた扉。
『こっちも扉じゃ』
ズボッと。
うーん。ガラクタ部屋?
四畳半くらい。棚があるけど、あまり埋まっていない。壊れた農具、馬具、カラの木箱、折れた槍。あとは原型をとどめていない物体。
『遺物ある?』
『ガラクタ』
『こっちはなんじゃ、人が住んでいたようじゃぞ? ベッドに白骨じゃ』
『ええ……ほかの道ある?』
ないらしい。フェネカたち、あっさり合流してきた。
『なにここ? 地底人の個人宅?』
言いながらガラクタ部屋を出る。
……そもそもこの通路、いる?
なんで行き止まりの右だけ扉……。
ズボッと壁に突っ込んで見たけど、突き当たりにも左側にも、空間はない。
『どっか、壁の向こうに空間ないかな?』
戻りながら壁に突撃しまくる。
ない。うーん。
……俺が突撃する必要なかったかも。
振り返ると、フヨフヨの触手が通路の上にも下にも左右にも、常にはみ出て移動している。ディープとフェネカでギリギリサイズの通路なのだ。
『フヨフヨ? 空間ない?』
『ない』
フェネカから楽しげな波動が。
『フェネカ?』
『楽しそうじゃったからの? 止めるのも無粋じゃろ?』
こんにゃろー。楽しいからいいけど。
仕方がないのでご遺体の部屋へ。
見事な白骨さんです。
ひとりならビビっただろうけど、狭い部屋にフヨフヨ、フェネカ、ディープとみっちり詰まっているのでそんなに。ヒタチはフェネカの頭にくっついている。
フヨフヨから歓喜の波動。
『あった。ベッドの下』
『えー……謎の通路自体がカモフラージュ?』
これはそれなりに期待できるのでは?
『……白骨さん、のちほど埋葬させていただきます! 突撃!』
白骨さんの手前で床にズボッと。
今度は短めの階段。
ドアは1枚のみだった。
『お、お宝だー!』
まさに宝物庫のような部屋。
上の部屋の5倍くらい広い。
無造作に置かれた武具や馬具もあるけど、包まれたものが多いみたい。
フタのない箱には貨幣が詰まっている。白金貨……。
『どんだけ金持ち?』
『すごいのう。しかし財宝を隠して命尽きるなど、阿呆ではないかの?』
フェネカさん辛辣。
『白骨さんの財宝とは限らないかも? ほら、主君のために財宝を守り通した騎士かもしれない』
『上に武具などなかったがの?』
『知らずに守らされてた奴隷さんかも?』
そんな答えのでないやり取りをしているうちに、フヨフヨが箱をあけまくっていた。
かぶっていた布も剥がされていく。
『あ! それ、遺物!』
『みたことある』
あれだ。加護測定装置。
そっと手をあててみる。
『数字でてる? これなんでこっちから見えないんだろ?』
『なにも出とらんの? 魔力を込めるのではないか?』
授業ではあらかじめ込めてあったのか。
魔力を放出してみる。
『でた?』
『肉体がないと無理ではないかの?』
ですよねー。それ先に言おうよ。わざとでしょ。笑ってるし。
『ちょっと交代』
『ふむ? すり抜けるだけじゃ』
『ヒタチ? ここに触ってみて?』
『はいなの!』
俺はフェネカにモフッとくっついて裏へまわり、ヒタチ測定。
『あ、でた。2』
アストラルボディはダメで精霊はいいのか。納得いかない。
『ヒタチ弱いのー』
スライム数匹しか倒してないからだろう。倒すところは見ていない。授業中の出来事だった。
遺物はほかにもいろいろ。魔法適性を見る大きな球体も。
こっちは魔法を撃って計測なので、アストラルボディでも測れる。
やってみた。
意外と壊れずにいけるな?
『白の3052じゃ』
『もしかして9999くらいまで測れる?』
『どうじゃろの? なにやら熱をもっとらんか?』
『あったかい』
『……これ以上はやめとこう』
散々遊んで、フタやカバーをもとに戻す。
ちょっと金貨と白金貨を失敬。ラングオッド王国の法では、遺物以外は発見者のもの。
ここレスレ王国だけど。
白骨さんは布に包んで、無属性魔法の箱に入れる。
入口の土を軽くよけて地上へ出る。
『フヨフヨ、フタできる?』
『うん』
フヨフヨが、コンクリのフタを戻してくれたので、その上に硬めの土を乗せ、さらにやわらかな土で隠蔽。
『……お墓、どこにしよう?』
『ふむ、すぐそばで良いのではないかの? 墓を掘るやからは妾が祟って火祭じゃ』
血祭りとかけてる?
……ここが畑にされずに済むってことか。火祭は止めるけど。
埋葬後、上に陶器の十字をつくった。まわりの土を少し固めにして、それっぽくする。
お祈りしつつ浄化。どうぞ安らかに。
次の休みは図書館で絵本を探して、ドラゴンさんの様子を見に行ってみようかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます