第20話 開花
2週間後。
午後の授業。俺たちクラス21名は引率され、馬でパカパカどこかへ向かっている。
『ヒタチ、無理してない?』
『してないの! 雨が足りないのー!』
ヒタチは自分の樹の中にいる。どれだけ離れてもテレパシーは通じるみたい。
いま樹は軽く50メートルを越えていると思う。どうもヒタチは頑張りすぎるきらいがある。
ここ2週間は、俺とフヨフヨも頑張った。ワームも砂漠も放置で。
頑張るヒタチかわいい。
『雨は夜までまってね』
『わかったのー』
俺がアストラルボディでいるときは、ヒタチもついてくる。けど、肉体に戻ると樹に戻っていく。「ヒタチも戻るのー!」と言って帰っていくのだ。
樹は、回復魔法で直接大きくなっていたわけではなかった。
俺やフヨフヨが与えたエネルギーをヒタチがやりくりして育てているらしい。
木魔法なんて知らないけど、ヒタチが使っている魔法は木魔法っぽい。
そんなヒタチは樹に宿る精霊。
基本、人には見えない。けど、俺は肉体に戻っても見えていた。
子どもは精霊が見えることが多いらしい。俺の中身はおっさんなので、おそらくテイムしたから見えるのだと思っている。
ヒタチは宇宙でも平気でついてきたけれど、アストラルボディとはちょっと違うみたい。
ヒタチには夜会うとして。
俺たちどこに向かってるの?
校舎からも厩舎からもだいぶ離れたな。
昨日、ようやく我がクラスの全員が正式に馬をゲットした。
もう寮の馬房もあてがわれ、馬通学になったのだ。
ディープはニンジンなしでも指示を無視しなくなっている。アストラルボディで走り回って満足したからか、抑えて走ってくれるのだ。
いまもまわりに合わせて歩いている。
金髪の子が、馬を寄せてくる。
「ユイエルくん、私たちどこに向かってるかわかる?」
「……どこだろう? 教えてくれればいいのにね?」
雑談するうちに、先生方が止まった。
小さな体育館かな?
警備員の手で大きな扉が開かれ、騎馬のまますすむ。
がらんどう。
けど、警備員多いな。全員入ると、扉が閉められた。
なにここ?
「ここから先は、守秘義務があります。
え? 口外するつもりはないけど、そんな簡単に情報を規制できるものかな。
「では、5人ずつ前へ」
呼ばれた。というか、基本なんでも成績順なので先頭を行かされる。
入ってきた扉とは逆側の扉が開けられ、成績上位5人が進む。
体育館をただ通り抜けるのか。
ちがった。
扉の先も地面が土の体育館。やっぱりがらんどう。
けど、地面に小さな段差が。
段差の上、黒っぽい床に馬ごと乗せられる5人。白髪担任リタ先生と警備員ふたりも乗った。
なに?
大きな石版みたいなものの上にいる。
うん?
『……警備員、魔力動いてない?』
『床に魔力こめてる』
この大きな石版、
地面の下で魔力ぐんと動く。
次の瞬間、パッと視界が切り替わった。
隣の子の馬が嘶き、馬たちが混乱する。
ディープはちょっとびっくりの波動。
森だ。大きな木々に囲まれた広場。足元には少し土をかぶった石版。周囲には警備員が多数。
……ワープした?
久々にフェネカから混乱の波動が。フヨフヨも驚いている。
『フヨフヨ、フェネカ?』
『き、消えたぞ! とこじゃ!?』
『大丈夫。いまいく』
置き去りになったらしい。けど、繋がっているので追いかけて来られる。
『ここ、どこかわかる?』
『北東。山と海近い。来たことある』
『驚いたの。ラングオッド王国内のようじゃ。皇国から見ると北西のあたり。広い森じゃの』
フェネカの言葉を聞きながら、石版から降ろされ整列する。
次々と生徒がやってくる。警備員も。
最後のグループに銀髪副担カレン先生。
「では、これから武器を配ります。最初に倒すのはスライムですので安心して下さい」
おお。
馬を降りると小ぶりのメイスを持たされた。
……メイスでスライム倒すの?
聖域でも倒せるけど、黙っておいた方が無難か。
警備員が農具っぽい道具でスライム1匹を運んできた。
また3日以内に倒せないと減点だそう。
さすがにスライムは倒せると思う。
「では、ユイエルくんから」
直接攻撃はちょっと気分が悪いかも。
けど、ゴキブリにスリッパの側面を叩きつける要領でメイスを振り下ろす。
スライムは飛び散って消える。
魔石と銅貨はもらえた。
女の子たちがメイスを振り下ろす様を眺めていると、今度は後ろから呼ばれる。
警備員についていくと、衝立が。その裏には変なもの。
黒っぽい金属なので、また
バス停のような物体。棒の上に円盤がついて立っている。
俺から見て、円盤の向こう側にカレン先生。
「そちらに手をあてて下さい」
「……先生、これ、なんですか?」
「加護を測る遺物です」
あ、ヤバい。
ブワッて冷や汗が。そんなのあったの!?
「危険はありません……ほかの生徒たちには見えません。安心してどうぞ」
頭フル回転でごまかす方法を考える。
ど、どうしよう!?
『ふ、フヨフヨ! 触手の先だけ実体化できる!?』
『……できるかも。やってみる』
『俺の手のまえに触手挟んで!』
俺より、フヨフヨの方が圧倒的に
円盤に手をゆっくりと近づけていく。
うっすらと触手が見え、フヨッとやわらか。
「6です……やはり加護をお持ちだったのですね」
「……やはり?」
パッと手を離すと、触手が見えなくなった。
……フヨフヨは見つかってなさそう。よかった。
「馬が暴走しても振り落とされませんでしたから。ご心配なさらずとも、吹聴したりはしません。以前から何名かおりますので、ご安心を」
「……ありがとうございます」
なんとかなったけど……。
王都は、生きたモンスターの持ち込みには規制がある。未調教の馬や家畜だって畑エリアまでしか持ち込めない。
つまりカレン先生は、父様が不正をしてモンスターを持ち込んだと思っているのだと思う。
それを俺が倒して加護を得ていたと思っているわけだ。
父様、とんだ濡れ衣ごめんなさい。
でも俺の加護がバレなくて良かった。軽く100を越えている。
バレたら大惨事。
『フヨフヨ、ありがとう』
『うん!』
授業の終わりに、この地や遺物について口外しないよう、もう1度口止めが行われた。
その際、なんとカレン先生が闇魔法を使った。軽い暗示。まさかの2属性だったのだ。
……3属性かな?
思えば俺が呼ぶとかなりの確率でカレン先生が来る。防諜とかやってそう。
俺、暗示はかかってないけど、口外はしません。
ワープするのも、口外禁止も、おそらく子どもたちを守るためだろうから。
ここへは、たびたび授業で来ることになるそう。今日は予行演習というわけだ。
Aクラスは、加護の測定は自由に行ってよい。俺はやれと言われない限り2度とやらないつもり。
◆◇◆
『ヒタチ、おまたせ』
『おかえりなの。見て欲しいのー!』
夜、肉体を出てすぐにヒタチの樹に来ている。
ヒタチの指す葉に近づく。
『つぼみ?』
『もうすぐ咲くの! 雨が欲しいのー!』
咲くのか。
上空へ移動。
『水魔法
ヒタチは、樹の上で腕をひろげ、くるくる横に回っている。
『魔力もわけて欲しいのー!』
フヨフヨが魔力を渡す。
順調かと思いきや、ヒタチが困惑の波動を出しはじめた。
『太陽ない……なの?』
『太陽か。やってみるよ』
俺の光魔法はイメージがLEDなので熱くない。けど、シェキアの光魔法はやたらと熱い。
トーニくんはあったかいくらい。
たぶん太陽のイメージなんだろう。最近、部の4人は魔法を球形にできつつある。
シェキアははっきりと球形だ。ほぼ太陽だ。
真似しよう。
『光魔法、
うわ……ここだけ昼みたい。
眩しい。
『最高なのー!』
上空に太陽をおいたまま、少し降下してみる。
すると、小さなつぼみがひとつ、パアッと白い花を咲かせるのが見えた。
ぽつぽつと、つぼみも増えていく。
次の瞬間、一斉に花ひらく。どんどん咲いていく。圧巻。
『咲いたのー!』
『……すごい。綺麗だな、ヒタチ』
みんな歓喜の波動を出している。
やがてヒタチの樹は、真っ白に見えるほど白い花をつけた。
感動してただ見惚れていると、フヨフヨから心配するような波動が来た。
『ユイエル、この光、町から見えるかも』
『まじで?』
かなり遠いのだが、そりゃ夜空が明るかったら流石に気づくか。
見つかってもそこまで問題はないと思う。なぜ光ったかはわからないだろう。大樹だからいつかは見つかる。
『ヒタチ、もう太陽消して平気?』
『もう大丈夫なの! ありがとうなのー!』
太陽を消す。
結構魔力を使ったな。疲労感がある。
見ればフヨフヨも縮んでいる。
『宇宙いこうか』
『うん!』
『はいなの! ダークマター補給なのー!』
フヨフヨが教えたのかな。
『ヒタチ、もし人がここへ来るようなら早めに教えて』
『はいなの!』
ヒタチ、ご機嫌だ。
幸い明日は土曜。いつでも昼寝できるように寮で本を読もう。
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