第18話 風になる
放課後。
制服に着替えてダッシュ。
「来た来た! ユイエルー!」
Eクラス棟に着くと、シェキアが元気に手を振ってきた。
もう4人揃っているな。
挨拶をかわし、カレン先生を待つ。
「ね、ね、どうやって魔力増やすの?」
シェキアは待てない様子。
「魔法を使ってもらって、俺がみんなを回復しようかなって」
「まあ。魔力の回復ができるのですね」
聖属性の魔力回復魔法は、消費と回復の量がまったく釣り合わない。
感覚的には、5使って1回復みたいななにか。あくまで、魔力の使いすぎで気絶した人を楽にするための魔法。
「なんだー。あたしご飯かと思ってた」
「部費は、栄養価の高い食べ物を買うのがいいかなと思ってるよ」
「やった!」
「栄養と言えば白米でごさる!」
……武士マックスは、もしかしてワコウ皇国の関係者?
追々聞けばいいか。
俺も白米は食べたいけど……。
「火属性いないから、最初は出来合いで探そうか」
「美味しいのがいい!」
「もちろん、味も考えて探そう」
実はマナポーションなるものもある。飲めば魔力を回復できる。
しかし、
俺に
雑談するうちにカレン先生が来て、部室となる教室へ。
机やイスが端に寄せられた教室。5人には広すぎるな。
わいわいと机とイスを用意。4人には向かい合って座ってもらう。俺がお誕生日席のような形。
それから自己紹介を簡単に済ませる。エマ以外は金髪銀髪だが、みんな1属性らしい。
「じゃあまず、魔法を使おう。危険のないようにね」
言って右手のひらを上に向け、聖属性のボールを出す。見た目は聖域っぽいけど、ほぼなにも防げない。魔力節約バージョン。
「は、発動はやー! それにそれに、丸い! ずっとある! ユイエルすごー!」
「くっ、負けを認めるでござる」
みんなにもやってもらう。
驚いたのは、ただ球体にするのも無理だったこと。
球体にできたのはマックスだけだ。
シェキアの魔法は、ブワッと激しく光って消えた。なんか熱かった。
トーニくんの光は、小さな黄色い炎のよう。
エマは紙の上にモコモコと土を作り出した。
これは根気がいりそうだ。
形を目に焼き付けて頭の中に描くよう教える。
球体にすること事態に意味はないが、イメージを固める練習だ。
「も、もう無理ー!」
「私もです」
「ぼ、ぼくも」
魔力量も武士マックスがいちばん多いな。
「マックスは修行でもしてたの?」
「さよう! 師匠がいるのでござる!」
「……師匠はワコウ皇国の関係者?」
「なんでわかったでござるか!?」
わかりやすいから。
ワコウ皇国には、武士みたいな人が実在する。
……はだけてたのは着流しの真似?
聞かないでおこう。話が長くなりそう。
「白米って言ってたから。マックス、魔力まだある?」
「そろそろ苦しいでござる……」
「よし、回復するからいったんやめて」
「わかったでござる」
「あたしの師匠はユイエルだね! ユイエル師匠! 魔力回復してー!」
シェキアにうなずき、あえて両手を組んで見せる。みんな注目してくれる。
『フヨフヨ、いい?』
『準備万端』
アストラルボディの両腕をだす。
「
「わあ! あったかいね!」
すぐにフヨフヨが『満タン』と言ったので祈るのをやめる。
「……4人同時ですか。Aクラスとの差はとても広いですわね。クラス、あがれるのでしょうか?」
エマは暗い表情。
これがAクラスとの差とは限らないと思う。こんなことでやる気を失って欲しくない。
「……えーと、そこまで広くないと思う。俺、聖属性クラストップだから」
壁際で見守っているカレン先生に目を向ける。
「はい。ユイエルくんは、3年生のトップより試験結果が上でした」
「ええ!? ユイエル超すごいじゃん。あたしたちもしかして超ラッキー?」
衝撃の事実。
……もしかしてリシェーナはAクラスだったのか。自慢するような性格ではないので知らなかった。早々に中退しているので得意な方ではないだろうと無意識に思っていた。
俺の基準がズレている。修正、修正。
エマの表情はやわらいだみたい。結果オーライ。
念の為口止めしとこうかな。
「内緒にしてくれる? 入部希望者が増えすぎても困るから」
「はーい、ユイエル師匠!」
「黙っておくでごさる」
エマとトーニくんも頷いてくれた。
何度か魔力回復をすると、みんなぐったり。こんなに連続で魔法を使ったのは初だそう。
部費で買う食べ物の希望を聞いて書き出し、今日は解散。
選択授業に「イメージ」というのがあったのを思い出したので、帰り際に勧めておいた。
ついでにマックスは国語も頑張るよう勧めておいた。
◆◇◆
翌々日、昼休み。
アストラルボディで机に突っ伏す肉体を見下ろし、フヨフヨとフェネカに埋もれる。
うぼあ。
新しく仲間になった馬のディープは、いままでのように上手くはいかなかった。
まず、言葉を解さない。不安や混乱の波動を頻繁に出す。
そして魂は、逃げ回る。宇宙に連れていきたくて宥めたのだが……。
聞きゃしない。
無理やりは逆効果な気がするし。
『今日の馬術どうしよう……乗せてくれないと加点はもらえないけど、加点はいい……普通に乗りたい』
馬具をつけようとするとイヤイヤって感じで暴れる。いちおう調教済みなことはわかる。危険は感じない。
でも、乗せてくれない。
『困ったのう……無理やり魂を戻したのが失敗じゃった。すまぬ』
『ごめん』
3人してへこんでいても仕方がない。ディープはまだ2歳になっていない。ゆっくりいこう。
さしあたっては、昼ごはんを食べて気合いを入れよう。
マイボディに戻り、食堂へ。
カツにするか、ステーキにするか、迷って久々の洋食、ヒレっぽいステーキ。
ちなみにモンスターのドロップ品だ。
Aクラス寮の食事も美味しいけど、Aクラス棟の食堂も最高。
ペロッと300グラム食べちゃった。よく太らないな俺。
『ニンジンが残っておるぞ?』
『……食べるよ』
ステーキにはなぜ変に甘いニンジンがついているのか。
……思ったほど不味くはない。よかった。
『……ディープ、ニンジン食べるかな?』
『ふむ。食べるのではないかの? 魔石の方が喜ぶかもしれんが』
野生のモンスターは、魔石や木の実なんかを食べる。
野生ではないフェネカは、米と魔石を与えられていたらしい。
それはおいといて、ディープ餌付け作戦。厩舎にあったエサは、麦とか豆だったので、ニンジンをあげてみよう。
寮に銀貨を取りに行き、商店へ走る。ちなみにモンスタードロップの銀貨。
急いで買い物を終え、厩舎へ。
間に合った。
授業がはじまると、先生に餌付け許可をもらってディープのところへ。
動いていないな。目も閉じている。
『……魂、どこ行った?』
『いる。狸寝入り』
狸寝入り覚えたのか。馬なのに。
鼻先にニンジンを持って……いこうとしたら鼻の方が来た。
1本目が口の中に吸い込まれていく。狸寝入りどうした。
『ディープ、鞍を置かせてくれたら、もう1本あげるよ』
出した2本目のニンジンを袋にしまい、手入れ開始。
ニンジンをチラつかせてがんばった。馬装完了。いままでの苦労はなんだったのか。
カレン先生の前で乗って見せ、外に出る許可を得た。
馬を走らせる場所があるのでそこへ向かう。競馬場のコースみたいなものだ。
カレン先生もついてきて、危険なので速度を上げないよう注意される。
もうコース内に5人ほどいる。あとは回復に苦戦しているみたい。
さて、やっと自分の馬で駆けられる!
『ディープ、まずはゆっくり一周して、それから少し走ろうか』
テレパシーで伝えながら、体を動かして指示を出す。
『いい感じ。楽しい! 終わったらニンジンをあげっ――』
唐突な加速。
ぐんと体が後ろに引かれるような衝撃。振り落とされそうになり、手綱を引く。
『ちょ、ディープ!』
速い。
まだ若い馬だし、まだ宇宙に連れて行ってもいないのに。
さらに加速して行く。速度を落とすよう指示を出している。
なのに、ポルシェと張り合えそう。
ディープから歓喜の波動が。
……ははは。いっそ楽しくなってきた!
風になってる!
すごい! 景色の流れる速度がおかしい! いまさらだけどマイボディの動体視力もおかしい!
これでマイボディごと、どこへでも行ける。
……こんな速度に耐えられる10歳児、いる?
ヤバい。
手綱をぐっと引く。
……微塵も速度が落ちないのだが。
『……指示無視すると、ニンジンなしにするよ?』
ごふっ。
急停止、やめて。普通の10歳児なら射出されてるぞ。
俺が送るテレパシーの意味を理解しつつあるようだ。ニンジンだけ覚えた?
息を切らしたカレン先生が駆けてくる。ヤバい。
「……無事でしたか。驚きました。流石ですね」
「……」
「具合が悪いですか?
言い訳に困っていると、回復魔法をかけてくれた。自分以外の回復魔法を受けたのは初だ。
ディープは、調教のやり直しが必要と判断された。
が、もう俺の馬なのではないのかと主張してみたところ、任せてもらえることに。
射出されなかったことを考慮してもらえた様子。
ディープはSOSの波動を出さなくなった。一緒に宇宙へ行こう。
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