第16話 部活勧誘

 午後の体育館には、ポスターの貼られたパネルがずらりと並んでいた。


 あちこちで勧誘も行われている様子。上級生が結構いる。


 ……俺に寄ってきた上級生たち、胸のプレートを見て首をかしげ、去っていきます。

 これはこれで便利か。

 俺もウロウロキョロキョロと探しものをしている。


『フヨフヨ、フェネカ、部活を作る方法の書いてあるポスターないかな? もしくは説明してくれそうな先生?』

『後ろの壁』


 おうふ。

 パネルばかり見ていたら入口脇の壁になんかでかでかと貼ってあった。


 最小人数は5名。少なくて安堵したが、顧問を見つけて認められなければならない。


 読んでいるうちにどんどん生徒が増え、13時の鐘がなった。

 知らない男の先生が、部活について簡単な説明を行い、自由に見てまわり質問するようにとのこと。


 で、さっそく顧問ゲット。

 担任のリタ先生を発見して声をかけたら、副担任カレン先生がフリーとのことで飛びついた。


 5人集まったら部室も用意してくれるそう。希望も聞いてくれたのでEクラス棟に部室を希望した。

 それから部活設立用の用紙とクリップボードを貸してもらった。


 Eクラスの子にしぼって部員探し開始。格差が気になるからね。特に食事がしょぼいのがかわいそう。

 栄養が足りないと魔力の自然回復もおぼつかなくなる。


 あ、1年E−2発見。男の子。

 できれば最初は平民がいい。そのほうが気楽だし、貴族はクラスにいっぱいいる。

 けど、残念ながら貴族か平民かは不明。

 まずは声をかけてみよう。


「ね、魔力を増やす部活に興味ない?」

「えっ……」


 胸のプレートをガン見されている。

 微妙な反応。1年って書いてあるのは不利か。聖属性なのに男なのも不利かも。

 隠したらおかしいしな……。


「新しく作る部だから、初期メンバーになれるよ。上級生に指示されたりしなくて済む」

「あー……考えてみる」


 考える気はなさそう。

 カレン先生がまだ視界に入っているので手で示してみる。


「……あそこにいる銀髪の先生、美人だよね。あの先生が顧問だよ」

「そうなんだ」


 ちょっと興味は増したけどダメでした。

 諦めず次々いこう。数うちゃあたる。

 そうやって玉砕しているうちに、平民と貴族の差がなんとなくわかってきた。


 貴族は髪がキレイ。平民はボサボサ。

 寮の石けんは同じはずだけど手入れには差がある様子。


 髪がボサボサのEに絞ろう。

 大きなポスターには、ABCクラス限定などもある。

 Eは募集難易度が低そう。


 これは部費に違いがあるせいだと思う。個人が払うものではない。学校側が使わせてくれる部活費用。


 Aクラスひとりにつき、学期ごとに5万ゴールド。Eクラスなら1万ゴールド。

 たとえばA1人、E4人の部なら9万ゴールドまで使える。

 多いな? Aクラスの優遇が尋常じゃない。


 次に発見したボサボサEの子は、すごくくすんだ金髪。どちらかというと黄土色の男の子。でも胸のプレートは黄色なので光属性。


「ねえ、魔力増やしたくない?」

「……ぇ」


 1歩下がったし目が泳いでいる。人見知りかな?

 ゆっくりと話しかける。


「魔力を増やせば、将来安泰だよね。一緒に魔力増やさない?」

「……ぁ、うん」


 おお!?

 いいの!?


「顧問の先生も美人なんだ! ここに名前とクラスを書いてくれる?」


 すかさず用紙つきクリップボードを出し、セバスチャンに買ってもらった万年筆を貸す。

 逡巡しているようだったけど、押し切れた。

 ひとり目ゲット!


「トーニくんか、俺ユイエル。ありがとう! 一緒に頑張ろう!」


 こくりと頷いてくれたので手を振って次へ。


『ボサボサEいた』


 フヨフヨも探してくれて広い体育館をカサカサ移動していく。俺のプレートを見て露骨に顔をしかめる子もいて、なかなか大変。

 女の子の方があたりがキツいな。


 そうこうするうちに変わった子を発見。

 後ろ姿だけどズボンなので男の子。でも肩を少し越える長髪。銀髪ボサボサロング。たてがみみたいになってる。

 プレートを見ようと左から回り込む。

 え、プレートが紫色? あ、無属性だ。


「なんだ? 勧誘か!?」


 俺が見ていることに気づいたその子は、やけに嬉しそうに寄ってきた。


 近づいたことをちょっと後悔。

 なんでって、はだけてるから!

 なんでボタン全開なの!?

 ここの制服はブレザーだ。日本の高校生となんら変わらない。


 そのブレザーと中のワイシャツのボタンが全開なのだ。しかもご丁寧にワイシャツを外側に折って胸元が見えるようにしている。

 ネクタイなんて大きな輪を作ってネックレスみたいにぶら下げている。


 やたら明るい。ニッコニコ。


「なに部なのだ!?」


 めっちゃグイグイくる。はだけた10歳児。

 生活態度でも減点があると書いてあった。君はなるべくしてEクラスになった気がするぞ。


 ……逆に言えば、魔法が苦手ではない可能性がある?

 だとしたらEにいるのはもったいないかも。

 無属性なのに魔法学校にいる子は珍しいしな……。

 消極的勧誘を試みよう。


「魔力を増やす部を作ろうかなーなんて思って……」

「それはいい! 流石だ! それがしも魔力は増やしたい。一緒に頑張ろうではないか!」


 ……ソレガシ。武士か。なんで騎士学校いかなかった。

 この子、若年性の中二病かもしれない。

 10歳でこれでは将来大変なことになる気がする。具体的には18歳くらいで大量の黒歴史に身悶えすることになる気がする。


 呆然としている間に手に持っていたクリップボードを奪われていた。


「書くものはあるかい?」

「……」


 万年筆を差し出すと、サラサラと書いてくれた。Eクラスでも自分の名前くらいは書ける子が多いみたいだ。

 誰か中二病の治し方を彼に教えてあげて欲しい。

 でも、とりあえずふたり目ゲット。


「ありがとう」

「では共に勧誘と行こうではないか!」


 ……遠慮する!

 ぶっちゃけ君と同類と思われたくない!

 他人のふりしたい!

 せめて制服ちゃんと着て!?

 一緒だと勧誘失敗する気がしてならない!

 なんとか別行動の理由をひねり出さないと。


「……そ、それなら、調査を頼めないかな? 役割分担したほうが効率いいよね?」

「たしかに! されど調査とは?」


「……ポスターを見てまわって、似たような部があったらあとで教えて欲しいんだけど……大変かな?」

「いやいや、お安い御用でござる! 任せてもらおう!」


 ……ござる。

 親指を立て、パネルの端まで向かっていった。漢字、読めるよね?

 なんかもう存在が不安。


 俺は逆方向へ向かう。

 武士の名は……マックス。振り切れてるって意味のマックスかな。字がとても汚かった。

 どう考えても平民なのだが、あの言葉遣いはどうやって身につけたんだろうね。聞く気はないけど。


 さて、気を取り直してあとふたり。

 しばらく苦戦。

 もう決めたからと言って断る子が多くなってきた。今日決めなくてもいいのに。

 できることなら明日の放課後から活動したいけど、もう厳しいかな?


「――でもでもっ! 成績上がらなかったら意味なくない!?」

「……それは、そうですわね。せめてDクラスでしたら先程の研鑽部に入れましたのに」


 女の子ふたり組。プラチナブロンドと茶髪。Eクラスっぽい。

 ポスターから離れ、こちらに背を向けて歩き出した。


 口調から貴族かなと思ったけれど、プラチナブロンドの方は背中で髪がぴょんぴょんはねまくっている。

 茶髪は後頭部にきっちりとしたお団子が作られているのでわからない。


 俺が逡巡するうちに、上級生がふたり組の前に立った。


「土魔法研究部、どうですか? まだひとり入れますよ。急がないと定員に達してしまいます」

「いえ、ごめんなさい。光属性のこの子と同じ部に入りたいのですわ」


 スタスタと勧誘上級生を避けるように歩いていく。

 どうやら光と土のコンビ。


「せめて寮が一緒ならよかったのにね! でもでも、これだけたくさん部があるんだから、ゆっくり探せば見つかる説ない!?」

「ええ、ゆっくり探しましょうか」


 声かけてみよう。

 回り込む。


「仲が良いね。魔力を増やす部はどうかな?」

「えっ、あたしたちEクラスだけど入れるの!?」


 満面の笑みで食いついたプラチナブロンド。

 この子、目が大きい。そして瞳が黒い。珍しい。なんだか惹き込まれるような瞳だ。


「……1年生、ですか?」

「新しく部を立ち上げるんだ。聖属性のカレン先生が顧問だよ」


 ふたりが顔を見合わせる。

 俺はふたりのプレートを確認。どちらも1年E−1。

 女の子だし、全力で勧誘しよう。


「上級生がいる方が教えてもらえると思うかもしれないけど、大きいところだと雑用をやらされるんじゃないかな? そう思わない?」

「それ魔力部で言われたし! Eは雑用からだって。部費少ないから雑用してもらわないと割に合わないって! だから入らなかったんだよね!」


 プラチナブロンドの方がプンスカしている。

 魔力部はすでにあるみたい。まあ、部の名称は揃ったら考えればいい。


「それは入らなくて正解だね。最初は少人数で魔力を増やしていこうと思ってる。少人数なら雑用も少ないだろうし、みんなでやればいいよね? どうかな?」


 顔を見合わせるふたり。

 茶髪の方がこちらを見る。


「……部を立ち上げるのは大変と聞きました。部室はどうやって確保するのですか?」

「カレン先生が確保してくれるよ」

「えー!? なんでなんで!? あたしたち無理だって言われたし!」


 作ろうとしてみたのか。


「……きっと、Aクラスだからですわ」

「んもー! 差別反対! でも、入る!」


 言葉とは裏腹に笑顔。やった。

 クリップボードを差し出す。


「ここに名前を書いて欲しい!」

「うん! あたしシェキア!」

「エマと申します」


 書き終わるのを待つ。エマの方は俺が名乗ったら気づくかもしれないから。

 幸先いいかも。これで部が設立できる。

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