第15話 入学

 入学式の朝。

 新品の制服に袖を通し、胸に白いプレートをつける。貰ったのは『1年 A−1』と書かれたプレート。


 あれから、夜中にこっそりと裏切り護衛さんにも浄化を使った。

 翌日に銀髪紳士が指導する場面も見た。


 妹とその娘もこっそり回復浄化済み。

 ふたりは、我が家のメイド候補に。2日前、騎士が訪ねて来て銀髪紳士とセバスチャンが決めていた。


 極悪さんは情報を洗いざらい吐き、牢で大人しくしている。たぶん、もう大丈夫。


 まあ、大元のレスレ王国は酷いもの。雇い主はレスレ王国上層部。個人ではなく、総意で決まった作戦だったのだ。


 王様を浄化してみようかとも思った。が、たとえ上層部がまともになってもどうにもならない疑惑がある。


 レスレ王国は、南部から砂漠化していっている。どうしてもまともな土地が欲しいみたい。

 上層部が戦争をやめれば、政変が起こるかもしれない。反乱でたくさんの人が亡くなる事態は避けたい。


 いまのところ、解決策は見当たらない。植物をゼロから生やす魔法はないだろうか?



 思い返しながら朝食を取っていると、入試の詳細が張り出されていると聞こえてきた。

 自然と食べる速度があがり、食器を返すと第一体育館へ急ぐ。


 うわー。めちゃくちゃ人だかり。

 第一体育館につながる広い玄関ホールの壁いちめんに、名前の羅列された紙が貼り出されている。

 しかも属性ごとに分かれていないっぽい。これは自分を探すの一苦労かも。


 ひとまず、でかでかとAと書かれたいちばん左端へ。ちょっとすいている。

 上から見ていこう。


  1位 クラウス・フォン・アツェランド

  2位 ユイエル・レガデューア

  3位 ラヴィ・フォン・ヴァイス

     ︙


 ……簡単に見つかったよ。

 全体で2位。なんで?

 適性検査のとき、かなり控えめに魔法を使ったはず。

 10歳児は深い切り傷を治せない疑惑。


 1位はおそらく『賢者』さまの次男。会ったことはないが、次男は俺と同い年だと父様に聞いていた。

 3位は元聖女さまの姓なので、親族の誰かだと思う。


 名前の右に点数が出ている。筆記は3人とも満点。

 実技は……。


  1位 962点 風属性

  2位 940点 聖属性

  3位 811点 火属性

     ︙


 こんな感じ。

 混んでいるのでそそくさと体育館へ移動。

 先生の誘導にしたがってならぶ。すごい人数。数千人?

 10歳児だけでこんなにいるとは。


 ここにいるのは1年生だけだ。上級生はそれぞれ別のどこかで始業式をしているはず。


 30分以上待ってようやく開始が宣言された。

 まあ、偉い人の挨拶だね。


 挨拶が終わると『賢者』さまの次男クラウス・フォン・アツェランドくんが呼ばれた。

 キリッとした表情で壇の中央へ歩いていく黒髪の男の子。

 挨拶かと思ったが、こちらに背を向けた。


「我々新入生一同は、ラングオッド王国の一員としての自覚を持ち、貪欲に学び、卒業を目指すことをここに誓う!」


 なんか選手宣誓みたいなことをした。もしかしてあれ、1位がやらされる?

 ギリギリセーフ。


 入学式終了が宣言された。

 助かった。すでに1時間以上立ちっぱなし。

 教室へ行けというので、ぞろぞろと移動。


 聖属性A−1クラスに入り、席を探す。席順は黒板に大きく書いてあり、窓側いちばん前。わかりやすい。

 このクラスは21名らしい。思ったより少ない。聖属性が少ないからかな。


「あら? 貴方クラスを間違えているわ」


 座ろうとしたら、横の席の子が話しかけてきた。白髪の女の子。


 すぐに斜めうしろの金髪の子が乗り出してきた。


「女の子だよね? スカートキライなの?」


 いいえ、自分でも性別わからん顔だとは思ってるけど、男の子だよ。

 制服は選べないので女の子はズボン入手できないんじゃないかな。

 黒板に俺の名前も書いてあるんだけど。


 クラス全体が注目している気がする。

 最初が肝心だ。侮られずに男で聖属性が使えると信じてもらいたいところ。

 イスの上に立つ。


「聖属性魔法が得意です。性別は男、ユイエル・レガデューアと申します。よろしく」

「……え?」


 …………やらかしたかも。みんなポカーン。

 どうしよう?

 しかもフェネカから楽しそうな波動が。笑ってるな?


『ユイエル、先生きた』

『ナイスタイミング!』


 サッとイスに座る。

 何事もなかった。なかったのだ。


 少しざわつきだしたところで教室前方にあるドアがガラッと開けられた。

 入ってきたのは、試験のときの美人先生ふたり。

 教壇に白髪の先生が立つ。


「私は担任のリタ・フォン・ヴァイス、こちらは副担任カレン・フォン・シャレルです」


 白髪が担任、銀髪が副担任。前者が20代後半、後者が20代前半くらいかな。

 担任の方が怜悧な印象。透き通った美貌。


 その美貌が、こちらを向いた。

 嫌な予感が……。


「では、順番に簡単な自己紹介を」


 さっきやってシーンってなったのに俺から!?


「どうぞ」


 手ではっきり指された。ダメ押し。

 こんにゃろー! 開き直ってやる!

 もう一度イスに立ち上がる。


「ユイエル・レガデューア、男です! 賢者さまと同じく聖属性魔法が使えます! よろしくお願いします!」

「……よ、よろしい。次の方」


 先生のポーカーフェイスがちょっと崩れた。目が泳いでいる。生徒はざわざわ。

 俺はやりきった感。いっそ開き直った方が清々しい。


 自己紹介を聞いていると、みごとに貴族の女の子ばかり。白髪が半数くらい。あとは金髪銀髪。


 終わるとプリントが何枚も配られ、時間割の説明。

 1限目は、基本このクラスでの授業。教えるのは担任か副担任。


 2限目、3限目は選択授業。8属性魔法だけでなく、料理とか農業、漁業、陶芸まである。めちゃくちゃいろいろあるな。

 なにもかも魔法で解決する気だぞこの世界。


 午後の授業、最初は馬術!

 この世界、馬に乗れなきゃ始まらない。いちおうもう乗れるよ!


 なんとAクラスは馬がもらえる。寮には厩舎と世話係つき。

 学費は安いはずなので、税金や寄付で賄われているのかな。


 Bクラスは無料で5年間のリース、Cクラスは手続きすれば一定期間無料レンタル、Dクラス有料レンタル可、Eクラスは授業中のみ利用可。

 そう書いてある。


 なにもかもこんな感じで成績による格差がある。世知辛い。

 全体の底上げよりも『5英傑』を生み出すことを優先しているのかもしれない。


 けど、楽しみ。早く自分の馬が欲しかったんだ。

 我が家の馬はみんな私兵たちがそれぞれ可愛がっている。言えば買ってくれただろうけど、授業で得ると教わっていたため我慢していた。


「――授業の選択は自由ですが、期末試験科目のうち4科目は選択です。よく考えて4月20日までに選択し、提出して下さい」


 げっ。芸術1科目選択しないといけない……。

 土魔法で陶芸ならできるけど、やっちゃダメか。土魔法は茶髪だ。


 体育も聖属性でどうしろと。剣術とか絶対選ばないぞ。マラソンか、水泳あたりかな……。


「では、食堂へ案内します。食堂に着いたら自由に昼食を取り、13時の鐘がなるまでに先程の第一体育館へ行ってください。部活も20日までに決めるように」


 今日の午後は部活説明会だ。

 部活、立ち上げてみようかと思う。


 卒業までの目標のひとつに『剣聖』育成計画がある。


 けど、すぐに騎士学校との合同授業があるわけではない。

 まずは魔法学校の生徒に教えてみようかと。


 新人教育の経験はあるが、さすがに新入社員に仕事をおしえるのと、10歳児に魔法をおしえるのを同列にはできない。そう思い直した。


 将来的にも役に立つはず。

 誰かの下につけば、指示に従わなくてはならない。戦争に行けと言われたら、行かなくてはならない。


 戦争を全力回避するなら、俺がトップが理想だ。けど、たとえば国王になっても、戦争は避けられない。戦略を考える立場になるだけだ。


 話がそれたかも。

 いちおう部活については試験期間中にある程度考えてある。


 まずは魔力を増やさなければろくに練習もできない。

 なので、魔力部を設立する。


 フヨフヨに手伝ってもらう予定だ。

 部員には、どんどん魔力を使ってもらい、フヨフヨが魔力をプレゼント。

 そうすれば、じゃんじゃん使えて魔法が上手くなり、魔力も増えていく。


 フヨフヨも使って食べれば育つし、喜ぶ。Win−Win作戦。


―― ―― ―― ―― ―― ――

属性髪色対応表


  火属性  赤系

  水属性  青系

  風属性  緑系

  土属性  茶系


  光属性     金髪

  闇属性        銀髪

  聖属性  白髪 金髪 銀髪

  無属性  紫色 金髪 銀髪


※黒髪のみ、全属性に適性がある可能性がある

 髪色にかかわらず、魔法適性がない者が多数

 紫色は本編未出

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