第13話 試験
馬車の小窓から、魔法学校の門が見えて来る。物々しい門番たち。
あれから襲撃はなく、無事についた。
馬車が止まる前に聖域は解除。俺のまわりにだけ張りなおす。
フヨフヨは、捕まった実行犯から情報を得てきた。
話を聞いて裏切り護衛さんを責めるのはやめた。
妹一家が人質らしい。
敵国の鬼畜さんがマジで鬼畜。
敵国イコール、レスレ王国。実行犯の身分は冒険者。まあモンスターを狩って生計を立てている人だ。けど、中身は騎士や元騎士。
魔法学校への道で襲って来たのは、魔法学校内にまでは手が出せないからだそう。
ということで、さっさと試験に受かって寮に入りたい。
安全なところにマイボディをおいて、裏切り護衛さんの妹一家を探しに行きたいのだ。
実行犯たちは、全員捕まったわけではなく、今日の正午に合流する場所が決まっている。
荷物をおろしてくれる銀髪紳士。顔面蒼白。「慚愧に堪えぬ」と顔に書いてある。
私兵の中に裏切り者がいると思ってるんだろうな。俺が気づくくらいだし。
銀髪紳士に促され、馬車を降りる。
「……若様、ありがとうございました。私は……責任をもって解決いたします。処罰は――」
「誰ひとり、処罰はいらない。隊長、処罰は禁止だから……自害も、禁止」
チラッと赤毛の私兵に目を向ける。
裏切り護衛さんだ。転倒した馬車から俺を助け出し、一緒に逃げる(さらう)予定だった。
俺と目があった裏切り護衛さんは、わずかに目を見開いた気がする。けど、なんか表情が抜け落ちてるな。
フヨフヨいわく、妹一家を助けたら死ぬつもりだったらしい。失敗したからか、もうなんか諦めきってるぞあれ……。
銀髪紳士は、荷物を持ち替えながら自然と俺の視線の先を見た。
そしてすぐにこちらを向く。目が合うと、ほんのわずかに頷いた。伝わったかな。自殺は防いで欲しい。
荷物を差し出され、聖域を操作して背負う。
「……かしこまりました。行ってらっしゃいませ、若様。お任せください」
大丈夫そう。アストラルボディで確認しに行くけど。
警戒しまくり護衛たちに見送られ、門をくぐる。
同じように歩く子がたくさん。
案内の矢印にしたがって進むと体育館だった。というか、巨大競技場?
ますます大量の子どもがいてガヤガヤしている。
聖域を解き、たくさんある列のひとつに並ぶ。
考える時間がありそうだ。
『……妹さんとの手紙を運んでた人、合流地点で見つかるかな?』
『来ぬであろうの。妹一家がまだ無事かもあやしかろう』
いちばん黒幕に近そうなのは、実行犯ではなく、姿の見えない手紙配達人さん。
実行犯との連絡もこの人だったらしい。
が、もう5日もまえのこと。王都にはいない可能性が大きい。
馬車のルートは、裏切り護衛さんが前日に直接ハンドサインで伝えたみたい。
『フヨフヨ、疲れたでしょ? いろいろありがとう。先に宇宙に行っててもいいよ。あとで行くから』
『うん? 疲れてない。一緒』
俺と一緒がいいのか。早く試験を終わらせたいな。
やがて前の子の順番が来た。
いったん忘れて試験に集中しよう。
衝立があるので見えないが、リシェーナとガイエン料理長いわく、大きな丸い道具で魔法適性をみるらしい。
すぐに出てきた前の子は、しょげ返ってとぼとぼと帰って行く。
係の人に促されて衝立の向こうへ。
……うん。でっかくて丸いとしか言いようがない。10歳児なら中に入れそうなサイズの球体だ。大部分が黒っぽい金属で、窓のようにガラスの部分がある。
これは、
この大陸では遺跡から魔法の道具が出土することがあるらしい。
俺も1度遺跡を見つけて探検したが、ネズミみたいな気持ち悪いモンスターの住処だった。遺物など影も形もなかった。いつかほかの遺跡を見つける所存。
それはともかく、我がラングオッド王国では、使える遺物の多くを学校に集めている。
血統と教育により、『5英傑』を筆頭に優秀な者を育てることで繁栄している国なのだ。たまに血統関係なく優秀な者も育つ。
「こちらの球体内で、いちばん得意な魔法を、全力で使ってください」
球体の窓部分を手で示された。
……これ、不穏では?
壊れない?
全力ってところが怖い。なんなら爆発しそう。スカ◯ターみたいに。
壊すとか爆発させるとか、そんなベタベタなことは絶対やらかさないぞ。
控えめでいこう。すでにリシェーナやガイエン料理長以上に魔法が使える。
さっき気付いたが、護衛より俺のほうが感知範囲も広そう。
だから落ちることはないはず。
深めの切り傷を治す程度を想定。
腕だけアストラルボディを出し、回復を発動。いつも通り魔力が出ていく感覚。
「おお! 合格です! 聖属性Aです!」
よし、壊さずに受かった! どや!
先生は球体の側面を見て、手元のクリップボードになにか書いている。
見えないな。
『先生が見てる辺りになにか出てた?』
ふたりは文字が読める。
フヨフヨは俺の記憶からだんだんと覚え、フェネカは記憶を見れはしないが長年ワコウ皇国で学び文字が読めた。
『数字じゃったの。あとは白い光じゃ』
『940』
テンプレ。これくらいわかりやすいものばかりだと助かるんだけど。
目の前の先生は、球体の裏から出てきた手からなにか受けとった。裏にもうひとりの係の先生がいたらしい。
「このプレートを持って、白い1年A1の教室で筆記試験を受けてください。こちらから」
小さな白いプレートを持たされ、入って来たほうとは逆側から出される。
プレートの裏にはクリップがついている。高校のときのネームプレートを思い出した。
書いてあるのは名前ではなく『A−3』の文字。
全力を出さなくて正解だったらしい。Aは5段階評価のいちばん上だ。筆記で余程しくじらなければ、AからEクラスまであるうちのAクラスになる。気楽に行こう。
迷路のような校舎を矢印にしたがって進む。別棟なのか、外も歩く。
警備員がいたるところに立っているな。
赤いプレートや青いプレートを見ながら歩く子がちらほら。プレートの色はだいたい髪と同じ色。
白い1年A−1発見。
聖属性クラスと書いてある。
入ると女の子がふたり振り返り、俺の顔を見たあとズボンを見て首をかしげた。
先生は美人さんがふたりだ。白髪と銀髪。
「こちらの席にどうぞ。終わりましたら声をかけてください」
プレートを渡して席につく。
いきなりペラッと答案用紙を置かれた。いま渡したプレートつき。
制限時間、ないみたい。
問題は簡単だった。いや、家庭教師のついていない10歳児には難しいかもしれないけど。
そして別の問題が浮上。わかってはいたんだけど……もう明らかに俺、女の子だと思われてます!
解答している間に女の子が増えたのだが……。
「あの子だけズボンだ。みんなスカートなのに変なの」みたいな顔だった。
やめて! 男の子です!
ため息をつきつつ、しっかり答案を見直す。
名前も大丈夫。満点確実だと思う。
「先生、終わりました」
「はい、では…………」
白髪の先生は、答案用紙をはっきりと2度見した。
気付いてくださいましたか。
「失礼ですが、お名前をうかがっても?」
でかでかと書いてあるのに?
「ユイエル・レガデューアです」
もうひとりの先生と3人の女の子たちが一斉にこちらを見る。
10歳児でも知っているらしい。たぶん貴族なんだろうけど。
『5英傑』まじ有名。特に平民から生まれた『剣聖』
「お父様のお名前は?」
「ゼイル・レガデューアです。これ紋章です」
偽物扱いされる前にポケットから指輪を出す。前回父様が帰ってきたときに直接渡されたものだ。
我が家の紋章は見れば誰でもわかる。まじで他国の人でもわかる。
『剣聖』の紋章にそっくりだから。なんなら『剣聖』と「レガデューア家」の区別がつかないくらい。
どちらもカッコいい両刃の剣のみ。目立つから付けない。こんなもの付けていたら誘拐してくれと言っているようなものだ。
紋章のついてない馬車でも狙われたけど。
先生はフリーズしてしまった。
「……し、失礼ですが……騎士学校とお間違いでは」
「いえ、聖属性の魔法が得意です」
先生は天を仰いでお困りの様子です。
俺も困っていると、先生は突然答案用紙を見始めた。
「……Aクラス合格は間違いないかと。ですが、このままですと女子寮に入ることになります」
ふぁ。なんてこった。
「男です」
うなずく先生。『剣聖』に息子しかいないことは知っていたらしい。
なんとかしてください。
ふたりの先生が目配せをし、白髪の方が教室を出ていった。
しばらく待つと、警備員を伴ってもどり、俺は警備員の案内にしたがって教室を出る。
「ぼ……俺、男子寮に入れます?」
もう「ぼく」はやめる。慣れすぎて言いそうになったけど。
「もちろんでございます。Aクラスの男子寮にご案内いたします」
無事に男子寮に入れそう。
よかった。
この警備員さん、やけに丁寧だけどなんで?
Aクラスだからかな。『剣聖』の息子だからとは思いたくない。学校は身分より実力主義と聞いた。
大きな3階建ての寮に入ると、寮監の部屋に連れて行かれ、名前など確認されたあと採寸された。
制服は2日でできてくるそう。
部屋番号の書かれた鍵と、寮の規則や校則の書かれた紙束をもたされサクッと放り出された。
忙しそうですね。
俺も忙しいので都合はいい。
実行犯たちは、合流場所に集まったかな?
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