第11話 お供が増えた

 夜。

 港町イースロンは賑わっている。主に飲み屋が。

 ここは、マイヤー先生によると第2都市だ。王都のずっと東にある。


 飲み屋の価格を見てまわる。

 ワイン350ゴールド、ビール600ゴールド、枝豆200ゴールド、ホッケ850ゴールドとか書いてある。

 店による違いはあるけど、日本円に近い。コッペパンが50ゴールドとちょっと安いかも。

 ざっくり1ゴールド1円と思っておこう。


 それから、帆船がカッコいい!

 さまざまな船を見て回り、海を眺め、波の音を聞く。

 上機嫌で遥か上空へ。


『フヨフヨ、島国を探そう!』

『うん!』


 だって気になるワコウ皇国。

 防御魔法の練習という目的を忘れたわけではない。アストラルボディに距離は関係ないので他国でもいいのだ。

 敵国には近づきたくないけど。


 眼下にでっかい島発見。

 思ったより大陸から離れている。


 街らしき場所へ降下。

 瓦屋根が多い。京都観光気分でスーっと空を進んで見て回る。


 ああ、ここにも飲み屋が……すぐ大人には成りたくないけど、飲みたい。人生ままならない。


 あれ、急に街が途切れた。一面の水田。城壁がないのだが……モンスターいないの?


『モンスターいた』

『いるのか。なんで城壁ないの?』


 疑問の波動をだすフヨフヨの指す方へ向かう。

 すると、水田と水田の間に、でっかい狐?

 回り込んで前から見る。馬サイズで耳が大きめの狐だ。

 額に赤くきらめく宝石が。これはゲーム的に考えるとカーバンクルでは。


 身動きしない。耳はピコピコ動いているけど。俺達は見えていない様子。

 と思ったら突然駆け出した。


 追う。はやっ。

 向かう先は林。そこから蛇が出てきた。大人を丸呑みできそうなサイズ。

 鳴きもせず始まるモンスターバトル。


 ガンガン噛みつきにかかる蛇と、それを避けまくり爪で切り裂いていく狐。

 狐が圧倒的に強い。

 と思ったら同じ蛇がもう1匹来た。


 えっ。

 狐さんが、額からバランスボール大の火球を発射、蛇瞬殺。黒焦げになって崩れるように消え、魂もすぐに消えていった。

 びっくりした。


 やがて爪でボロボロになった蛇も倒れた。そして消えていく。


 ドロップ品は……大銅貨が4枚ずつ。あと、皮と魔石か。そのうち誰かが拾うだろう。


 持ち帰るのはやめておく。

 俺も無属性魔法で器を作れば物を移動できるのだが、海上で魔力が切れそうな気がする。

 そもそも倒したの俺じゃないし。


 そんなことよりも……。


『フヨフヨ、いま狐さんが魔法使うのわかった?』

『うん』


 ……や、わからんから。

 防げないぞあんなの。防御魔法発動まえにあたっちゃう。いや、アストラルボディならすり抜けるだろうけど、肉体を守ることを考えると……。


 貴族街から出られないとか嫌すぎる。常に防御はいまのところ現実的じゃない。魔力がなくなる。

 レベル上げもしないと。


『どうやって発動を感知するの?』

『ぐんって、魔力動くとわかる』


 フヨフヨが教師に向いていないことだけ、わかった。まえからわかってたけど。


 ……たしか、無属性魔法の本に身体強化を使うと感覚が鋭くなるとあった。

 けど、身体強化は肉体がないと使えない。だからさほど練習していなかった。

 つぎの課題、身体強化の練習。


 あれ、テキトーにふわふわ進んでいたら、また狐さんが。


『あの狐さん、いっぱいいる?』

『いっぱい。等間隔で並んでる』


 なんで?

 さらにすすむと、水田もすっかりなくなり、狐さんもいなくなった。

 モンスターの生態系が謎すぎる。フヨフヨも謎だし。


 少し上昇すると、大きな鳥居を発見した。ポツンと街から離れた高台だ。

 あそこで防御魔法の練習をしようかな。


『神社かな? 行ってみよう』


 肯定の波動を受けながら降下。

 鳥居はところどころ朱色が剥げてボロい。社もボロい。廃れてしまった神社だろうか。


 けど、庭は広々。まわりには立派な樹木。やっぱり魔法の練習に丁度よさそう。わざわざ崩れかけの長い階段をのぼる人はいないだろう。


 鳥居をくぐり、社まえの地面すれすれで止まる。


 社を覆うようにドーム状の防御魔法をやってみようか。

 実は『聖属性魔法の使い方』にすごく有用そうな防御魔法が載っていたのだ。


 すっとフヨフヨの触手が社を指す。


『中に誰かいる』

『え、人が住んでる? ボロボロだけど……』


 いるとしたらホームレスな気がするボロボロ具合。

 なんて思っていたら、なんか出てきた。

 壁をすり抜けて。


『人じゃない』

『……人じゃないね』


 さっき蛇と戦っていた大きな狐さんだ。

 カーバンクルかもしれないけど、地球にいた耳の大きい狐にそっくり。


 この狐さんは、いまにも消えそうな透明具合でガリガリにやせている。

 社を出たところで地面に座り込んだ。というよりくずおれた?


 治そうかと、いつものように手を組む。

 ちょっと遠いな……。

 魔法は、狙うものや場所が見えていれば使えるのだが、魔力の消費は増す。


 近づいて大丈夫だろうか。唐突な火魔法は勘弁して。たぶんすり抜けるけど、ビビるから。


『助けてって言ってる』

『……なにも聞こえない。フヨフヨは聞こえるのか』


 つまり安全ってことか。

 少し近づいて回復魔法を使う。

 ぐんぐん魔力が抜けていく。

 そしてガリガリだった狐さんが膨らんでいく。


『ありがとうって言ってる……』

『よかった』


 狐さんはフヨフヨをじっと見つめている。

 話しているのだろうけど、やっぱり俺にはなにも聞こえない。


『新しい名前ほしいって』

『……新しい?』


『前の名付け親、死んじゃったって』


 え、なんでだろう。俺が死ぬとフヨフヨもガリガリになっちゃう?

 気になる。俺も話したい。

 そっと近づき、恐る恐る頬のあたりに触れてみる。ふさふさだ。


 えーと名前、カーバンクル……カール。それはおやつだ。


『性別ある?』

『メス』


 当の狐さんではなくフヨフヨのこたえ。触れても会話は無理か……。


 耳の大きな狐はなんて名だったっけ。

 フェネ……フェネカ。


『フェネカでどう?』


 あ、繋がった。

 ……あれ?

 返事がないな。


『……フェネカ?』

『フェネカ。うむ、いい響きじゃ。気に入った。世話になる。必ず恩に報いよう』


『聞こえた! 俺はユイエル、よろしく!』


 やった!

 てことは、繋がっていない相手とのテレパシーは、フヨフヨの種族特性もしくは固有能力かも。考えを読む力の延長かな?


『フェネカ、前の名付け親は……どうして亡くなったの? 病気?』

『案ずるな、100年を生きた。寿命じゃ』


 ああ、そうか。俺の寿命が終わってもフヨフヨたちは生きる、いや……。


『フェネカは生きてる?』

『ふむ? 肉体は名をもらってすぐに消えたの。前の主は回復魔法が使えた訳では無いからの』


 フェネカさん死霊だね。消えない死霊ははじめてかもしれない。

 いままでに見た死霊は、しばらく漂っても、やがて消えていた。


『フェネカは消えない? 未練でもある?』

『もう消えぬであろうな。未練は……いまはそなたじゃユイエル。妾は永らく人を守り、主を守って生きてきた。守る者を失って彷徨い、誰も妾が見えぬゆえ諦めてここへ戻った。そうしたらそなたらが来た。なんともありがたい縁じゃ。恩に着る』


 人を守ってたのか。

 さっきの城壁がない街、狐さんたちが守ってるのかも。


『消えないならよかった。じゃ、宇宙いこっか』


 フヨフヨからは肯定の波動。フェネカからは疑問の波動。


 フェネカは、あまりくっきりしていない。内部の光も淡く、いまにも消えそうに見える。

 俺とフヨフヨはくっきりキラキラ。見え方にかなりの差があるのだ。


『宇宙に行けば、フェネカはもっと元気になって、俺やフヨフヨみたいになると思う』

『ふむ。そなたの行く場所ならどこへでも行こう』


 フェネカに抱きつく。モフッと。毛並みふかふかだ。

 後ろからフヨフヨがくっついてきた。

 俺、いまいちばん幸せなサンドイッチの具。


 そのままぴゅんと宇宙へ。


『……なっ、じ、地面はどこじゃ!?』


 混乱の波動が。

 足をばたつかせるフェネカ。


『大丈夫、浮けるはずだよ。落ち着いて』


 そっと離れる。

 フェネカの足と尻尾はピンと伸び、緊張の波動が出ている。けど、浮いてはいる。


『フェネカ、ほら俺やフヨフヨと同じに、はっきりしてきた』

『……ほ、ほんとうじゃ。な、なんじゃ、魔力が満ちておる。ここはどこじゃ?』


『空の上? 地面からずっと離れたところ』

『ごはんがいっぱいあるところ』


 フヨフヨにとっては食糧の宝庫らしい。


 すーっと意思移動してみせる。

 フヨフヨも泳ぎ回る。

 やがてフェネカも慣れてきた。


『フェネカも魔力を使ったら、ここで回復できるかもしれない』


 最初はわからなかったが、魔力の回復速度が地上とは違うようなのだ。


 たぶん、ダークマターが多いところだと魔力を作りやすいのではないかと思っている。だから魔力回復速度がやたら早い。

 気軽にフヨフヨを回復しちゃう。


『ふむ。地面がないのはなんとも落ち着かぬが、この充足感はよいものじゃ』

『故郷』


 ふたりから満足気な波動を感じた。


『そうだ、もしかしてフェネカは魔法が使える?』

『火魔法だけじゃが使えるぞ』


 おお! フェネカに俺の防御魔法を攻撃してもらえば、魔法を防げるか確認できる!


『地上に戻ろう! 俺がつくる防御魔法に攻撃して欲しい!』

『ふむ。強度確認か、了解じゃ』


 結論だけ言うと、フェネカの魔法は強力だった。が、俺の作った防御魔法は、どれもまったく壊せなかった。


 強度のイメージは、火魔法なのでストーブの耐熱ガラス。あと、防弾ガラス。まあ防弾ガラスなんて映画でしか見たことはないけどイメージはできた。

 たぶん知識チートの一種。


 遊びながら安全を確保していこう。

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