第10話 うわ、なにそれ。俺なの?
目の前にはジワジワ動く
よし、やるぞ。ゴキブリをスリッパで討伐したことがある。大差ないはず。
『まわりに人いない?』
『いない』
氷は水属性、雷は光属性だ。
『
バリバリッと小さな雷がスライムを上から貫いた。
……オーバーキルかな。ちょっと一時的に中二病発症したかも。
そしてわずかな煙を残し、スライムが消える。小さな魂も一瞬見えたけどすぐに消えた。
瞬間、ドクンと高揚感のようなものを感じる。唐突で急激だった。
これが加護……?
フヨフヨの触手が地面を指す。
『なにか落ちてる』
『え? ……なにこれ』
焦げた地面に、ポツンとコイン。10円玉に似ているけど、ちょっと小さい。女性の横顔が描かれている。
あと、小指の先ほどの小さな球形の石。
……ドロップ品か。
硬貨、
あ、加護ってレベルか!?
とりあえず、近場のスライムを倒しまくる。
フヨフヨの感知能力まじすごい。ほんとなんで隕石にやられたの。やられてから成長してるってことか。
5回、加護感を得たところでやめた。1匹ずつ加護感が得られたわけではなく、だんだんと間隔がひらいて、5回目はかなり時間がかかった。
やっぱりレベルっぽいよね。
それからコインと魔石をフヨフヨに運んでもらう。『大丈夫』と言っていたけど、私兵たちに見つからないかヒヤヒヤ。
フヨフヨは、実体化すると移動速度が遅かったのだ。徒歩くらい。空気抵抗なの?
肉体に戻って窓から回収した。次からどっかに埋めておこうかな。
◆◇◆
翌日。
今日も真っ青ドレスのマイヤー先生が来た。
「先生! ぼく、魔法学校入学を目指すことに決まりました!」
「……え?」
ポカンと口をあける先生。
でも気にせず続ける。
「つきましては、試験に受かるよう、入学後うまくやっていけるよう、ご教示ください!」
「は、はい。言葉の使い方はよろしい。態度もよろしいのですが……騎士学校ではないのですか?」
貴族は侮られぬよう毅然とせよとマイヤー先生に教わった。
「はい。父の許可を得ました。魔法学校です」
「……で、では剣聖はどなたが継ぐのですか」
やっぱりそういう認識なのか。
けど、父様はまだ30歳前後でとても元気です。元気過ぎて物理的に振り回されました。
弟が生まれたらいいのかもしれないが、おそらく父様に再婚の意思はない。亡くなった母の部屋がそのまま残っているし。
そんな状況なのに悪いけれど、剣聖は断固拒否させてもらう。無属性魔法の得意な子に頑張ってほしい。
マイヤー先生は半ば呆然としつつも授業を開始。先生は3校について調べてくれていた。
3校共同の授業もあるそうだ。
もし『剣聖』に成れそうな子を見つけたら、手伝えないかな……。
『剣聖』育成計画。いいかも。新人教育なら何度か経験がある。
学校はどれも5年制。15歳で成人を迎え、卒業したらすぐ社会に出る。
マイヤー先生の言い方から、貴族家の長男なら家を継ぐのがあたりまえ。
我がレガデューア家の場合、平民の祖父が『剣聖』となったことでいきなり爵位を得た。祖父は領地を断った。父も断った。
『剣聖』だから許された。
この国で唯一、領地を持たない貴族家なのだ。唯一「フォン」もつかない。
そのため、俺は父様が得るはずだった領地をもらい経営するのだそう。
無理では?
我が家には領地経営のノウハウがないってことだ。当然サラリーマンだった俺にもない。
領地に縛られたくもない。丸投げする人を見つけたいな。
まずは在学中にお金の稼ぎ方を……。
「マイヤー先生!」
「は、はい。ユイエルくん」
授業を終え、帰り支度中のマイヤー先生に声をかけた。
「ゴールドってなんですか!?」
入学まえにお金について学ばないとまずい。
夜に見てきたのだが、店には250ゴールドとか、1980ゴールドなんて値札が付いていたりする。
昨日得たのは銅貨っぽいものだけ。でも絶対銀貨とか金貨とかあるでしょ。
「なるほど。それはセバスチャンさんに相談してみましょう」
マイヤー先生がセバスチャンに話をつけてくれた。金銭感覚を身につけるには、実際に使ってみたほうがいいからと。
セバスチャンの執務室で貨幣を見せてもらい、簡単な説明をうける。
銅 貨 10ゴールド
大銅貨 100ゴールド
銀 貨 1000ゴールド
金 貨 1万ゴールド
白金貨 10万ゴールド
「――と、このようになっております。では坊ちゃま、使いにまいりましょう」
そして、その足でセバスチャンに連れてこられました。本屋さん。
あっという間に馬車が用意され、乗せられ、護衛付きで着きました。
……セバスチャンは気軽に屋敷をあけていいのだろうか。地味にいちばん俺を甘やかすおじいちゃん説が俺の中にある。
それはともかく、本屋さんのはずなのだけど、本なんて一冊もない。
品のいい応接室。丘を降りていないし、ここはまだ貴族街だ。
ここで金銭感覚学べる?
間違ってない?
値札のある大衆向けの店の方が良くない?
対面のソファには、少し恰幅のいいヒゲのおっさん。なんとなくインドカレーのイメージ。踊りだしそう。
「いらっしゃいませ若様。早速ですがどのような書物をご所望でしょうか?」
「……聖属性、光属性、あとは魔力の増やし方のわかりやすい本があれば見せていただきたい」
チャンスではあるので欲しい本を言ってみた。
書斎には魔法の本が少ない。というか『魔法適性の確認方法』と『魔法概論』のほかは無属性の本しかなかった。
たぶん父様も無属性にしか適性がないからだろう。
俺は光属性もアストラルボディでしか使えなかったが、無属性は完全に肉体に入っていても使えた。
ためしたら身体強化ができた。
さほど待たずに、8冊ほど並んだワゴンが登場。
左から。
『魔法概論』
『魔法適性の確認方法』
『鮮明なイメージを頭に描け』
『魔力を充実させるには』
『聖属性魔法の使い方』
『慈しみの心』
『光属性魔法の使い方』
『光とはなにか』
左の2冊はいらない。書斎にあるものとまったく同じっぽい。
あとの6冊は全部欲しい。
予想通り値札がない。
値段を聞くと、いちばん安い『魔法適性の確認方法』で8800ゴールド。
いちばん高い本は2冊あり『聖属性魔法の使い方』と『光属性魔法の使い方』
どちらも1万4000ゴールド。
本には金貨が必要なようです。
もっと庶民的な店でないとやっぱりわからないよ。
「……セバスチャン、予算は?」
「坊ちゃまが必要でしたら購入いたします。9万ゴールドでいかがですかな?」
……全部買ってお釣りがくる額だそれ。
もう! 甘やかすのやめてー!
でも買ってもらう!
自分で稼いで買いたいところだけど、いまの俺は無一文の8歳児だ。そして、まだ8歳と高をくくっていればすぐに40歳になることを俺は知っている。
俺に投資してもらおう。そして将来、還元できるようになろう。
「この6冊をください」
ホクホク気分で馬車に乗ろうとして気づいた。まだ夕飯まで時間がある。
「セバスチャン、値札が付いた商品がたくさん並んでるお店に行きたい」
「……坊ちゃま。そのような店は貴族街にはございません。まずは貴族街に店を構える商会で学ぶことです。明日もお連れいたします。どのようなものが欲しいですかな?」
これはダメそう。
うながされ、しぶしぶ馬車に乗り込む。
大衆向けの店に連れて行く気はまったくない様子。なんで?
大通りにも店は並んでいるから馬車で行けないことはないはず。
向かい側に座ったセバスチャンを見る。
「……貴族街でないとダメな理由が知りたい」
「護衛が難しいからでございます。平民街の商会に箱馬車で乗り付けますと、嫌でも目立ちます」
この言い方だと平民は箱馬車使わないのか。幌馬車かな?
「……坊ちゃま、我が国でもっとも誘拐される可能性が高いのは、どなたですかな?」
うわ、なにそれ。俺なの……。
いまなにか覚悟を決めて言ったみたいだった。
違うと言って欲しい。
「……王女さま?」
「王女さまには多くの護衛がついておられます。そして市井に出たりはなさいません」
うなずいて続きを待つ。
「敵国の者が真っ先に狙うのは、坊ちゃまか賢者様のご子息かと。即効性がございます」
ですよねー。俺が人質になったら父様はきっと戦えない。そのうえ、次代の『剣聖』候補。
うわー……俺が敵国の鬼畜なら誘拐しておいてバレないようにすぐ殺すかも。
敵国の鬼畜さん、ぼくは『剣聖』目指しませんよ。
……ヤバい。身を守るすべがいる。
小さな盾魔法ならやってみたが、たとえば馬車ごと守る魔法なんてやってみたことはない。
目立つから。
王都は、私兵や衛兵や騎士がわんさかいる。大きな魔法は見つかるリスクが高いのだ。
宇宙は、たぶん空気がなくてダークマターがある。だから何が起こるかわからない。地上で肉体を守る参考にはならない。
誰にも見つからずに大きな魔法を使える場所を探そうか。
『聖属性魔法の使い方』をパラパラめくりながら考える。
スライムを倒した雑木林……木、邪魔。城壁の上から見えそうだし。
どこがいいかな?
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