第9話 王城と初のモンスター討伐
肉体を抜け出し、宇宙から帰ってきたフヨフヨに抱きつく。
まだ朝なのだが、おやすみなさいと言ってしまったし、どうしようかな。
フヨフヨに埋もれてダメになっていると、馬車の音が聞こえてきた。
窓から飛び出す。
馬車の音を追って表へまわると、屋敷の前に立派な箱馬車。2頭立てで、金色の剣の紋章が入っている。
それから馬を伴った私兵がふたり。
玄関から父様が出てきた。黒地に金の差し色が入り、飾緒のついた軍服姿。とても様になっている。
父様が乗り込むと、なめらかに動き出す馬車。私兵ふたりを護衛にゆっくり行くらしい。行き先は王城かな?
ついて行ってみよう。
予想通りだった。エセシンデレラ城は近づくと、まるで違って見える。大きすぎ。
俯瞰したことはあるが入るのは初めて。
父様はひとり城内を歩いていく。
長い廊下は黒系の絨毯。お金はかかっていそうだけどパクり城とは思えない落ち着き。
やがて騎士の立つ立派な扉のまえで止まった。
先にはいっちゃお。ズボッと。
赤い絨毯の敷かれた広い部屋。壁にもなんだか旗のようなものがずらり。
一段高いところにゴージャスなイスが鎮座しており、そのすぐ下におっさんがふたり立っている。
どう見ても謁見の間。
入ってきた父様が堂々と進んでくる。
「剣聖どの、お久しぶりですな。陛下はすぐ来られます」
「ご無沙汰しております。宰相どの」
にこやかに喋ったのは、細身のメガネ紳士。推定50歳。青系でまとまった品の良い服装。
もうひとり、黒地に赤い差し色の入った軍服のおっさんは『宰相』より幾分若そう。サッと頭を下げて素早く戻した。たぶん『元帥』
見た目はほぼ
そこへ、いかにもな王様登場。ちょっと太め。服は紫ベース。装飾品はカラフルだが成金っぽくはない。
ゆったりと壇上のイスに座った。
『5英傑』の3人は頭を下げている。俺は見下ろしている。不敬かもしれない。バレてはならない。
「面をあげよ。非公式じゃ、ここでなくともよいというのに」
「そうも参りません、陛下」
『宰相』が頭を上げてこたえた。
次いで父様が頭を上げる。
「陛下、今朝方戻りました。無沙汰をお許し下さい」
「もちろん、律儀な報告を含め、そなたの働きには大いに感謝しておる。して、レスレはどうか?」
父様と王様のお話がはじまった。
どうやら戦争の話だ。あまり聞きたくないが知らないのも怖い。
「一旦は退けました。ですが、あれは偵察ついでに少しでも削ろうという腹でしょう……たちの悪い戦法で損害を被りました」
深々と頭を下げる父様。
……あれ、もしかして本格的な戦争じゃなかったのか。
それから、4人で戦略の話になり、北西にある別の国にこちらから攻め込むと言い出した。
5カ国に同時に攻め込まれないためには、そうするしかないらしい。やむを得ずといった様子なのは幸い。
そっちには『賢者』がすでにいるそう。交渉決裂により砦を壊して牽制を試みるのだとか。
あと、父様は報奨金をもらうらしい。どうやら年金だけで暮らしているわけではない。
解散したので謁見の間を飛び出す。
てっきり息子が再生魔法を使ったと報告されてしまうと思っていたのだが、復調の確認程度しか話題にされなかった。
俺には堂々としろと言ったのに、王様には内緒にしてくれたのだ。
……父様まじ尊敬。『剣聖』は目指さないが、そういうカッコよさは目指したい。
『……そろそろ帰らないと。料理長とオハナシがあるんだ』
肯定の波動を感じながら、ぴゅんと肉体に帰る。
リシェーナはいないが服は出してくれていた。頻繁に見に来ているようだが、もう付きっきりではない。
厨房に突撃。
入口で呼ぶと、ほどなくして料理長が出てくる。
「坊っちゃん……ワコウ料理はまだお出しできねぇですぜ」
「味見は?」
困っていらっしゃる。
でも俺は譲らない。待ち切れないから。
「実際食べる人に味見させてみるのがいちばんじゃない?」
「……わっかりやした。坊っちゃんの意見をいただきやしょう!」
ますます口調が残念になってきた。イケオジなのに。ちょっと投げやりな気分なのかもしれない。
でも火魔法で鍋をあたため始めた。
「……ガイエン料理長、魔力ってどうやって増やすの?」
「使えば少しずつ増えまさぁ」
雑。聞く相手を間違ったかも。
「ほかには?」
「……たしか、加護でも増えるようなことを習ったかもしれねぇです」
加護。なにそれ。
「……どうやったら加護が得られるの?」
「あー、最初の方の授業で……乗馬のあとか。モンスター倒すはずでさぁ。そこでもらえるんで、モンスター倒しに行くとか言い出すのやめてくだせぇよ。なんで教えたってセバスチャン様にどやされちまう」
モンスターを倒すと加護がもらえる。
……わかった。昼食後に倒しに行こう。
最初に出会ったモンスターがフヨフヨだったので、あまり倒したいとは思っていなかった。が、そういえばゲームみたいな世界なんだった。
「じゃ、まあ、味見をお願いしまさぁ」
待ちに待った和食の膳が目の前にならんだ。少量ずつだけどテンションは急上昇。
思わず箸を取りそうになり、スプーンとフォークを見て思いとどまる。
「……これ、どうやって使うの?」
「そいつは難しいですぜ。まずはフォークでどうですかい?」
いや、ほんとうは使える。
あえてのにぎり箸。煮物の大根につきたてる。
嘆いたガイエン料理長がお手本を披露してくれた。
俺はヘタに見せることに四苦八苦しながら、なんとか大根を口に運ぶ。
うおお! 醤油味! 一瞬感動したけど、なんか違う!
「……しょっぱくない? 素材の味って言わなかった?」
「え、濃くはないはずでさぁ!」
濃くはない。醤油味だ。出汁とった? みりんと酒ないの?
と、思いつつ、どんどんいただく。
ごはんうまっ。カレイの煮付けもまあまあ。味噌汁……味噌味のスープになってる。
けど、懐かしくて涙が出そう。よかった。日本食のある世界で。なかったら泣いてたかも。
「坊っちゃん? 箸の上達、はやすぎやしませんか?」
しまった。ごまかすしかない。
「……調味料なめさせて!」
「や、お体にさわりますぜ」
「煮物が素材の味じゃないー……」
「あー! もう! 坊っちゃんの言う通りにしやす!」
ゴリ押しに成功した!
みりん発見。「これ使ってみたらどうかな?」と、知ったかぶりする8歳児っぷりを披露。
それから、味噌汁の出汁は小料理屋で聞いたアドバイスを子どもらしく指さして教示。
かつお節も昆布も「すごい」
煮干し「キライ」
煮物の鍋にシイタケがあったので「これ食べたい! 美味しい! こっちのスープにも入れて!」
ガイエン料理長はいちいち驚いていた。
お昼ご飯前の味見のはずが、おかわりして満足のいく食事になった。ご馳走様でした。
いつの間にかガイエン料理長はとても投槍な様子……ふてくされているかも。
自分でもこんな8歳児いないと思う。子どもはシイタケキライだよね。
……わざわざ子ども向けにしようとがんばってくれたのかも。
「ガイエン料理長、わがまま聞いてくれてありがとう」
「や……まあ、わがまま言えるようになってなによりでさぁ。旦那様はめったにお帰りにならねぇんで、これからもたくさん食ってくだせぇ」
……ユイエルの魂はもう天に召したと思う。だから戻せないけど、代わりにたくさん食べるよ。
◆◇◆
そして午後はお昼寝。今日はマイヤー先生が来ない日なので、魔力の使いすぎを理由に寝まくる。
実際はアストラルボディで出かけたいだけ。
まずは、アストラルボディを使いこなす練習。これは毎日少しずつやっていこうと思う。
と思ったらフヨフヨがいたずらしてくる。
手だけ出したらフヨッとタッチ。ちょっと足だけだしたらフヨッとタッチ。
楽しくなって頭を出すと、全身出てしまってハグ。あーダメになるー。
だいぶ慣れて、腕だけアストラルボディを出し、自分に回復。
「おー、癒やされる。こんなはっきり感じられるものだったのか」
ベッドに起き上がり、ほんのわずかアストラル顔を前に出す。
すると、フヨフヨが見える。
ほんと、どうなってるんだろうね。
魂や幽体、幽霊などの記述はどこにも見つからない。会話にも出てこない。精霊なら絵本にもでてくるし、書斎の本にもチラッと出てきたのだが。
ほっぺに触手がフヨッと来た。
笑うと、フヨフヨからも楽しげな波動が来る。
ああ、魂出ちゃった。肉体がバフッとベッドに倒れる。
『よし、行こう! モンスター討伐!』
肯定の波動を感じながら、飛び出す。
俯瞰して見れば、王城から太い街道が8本、放射状に伸びている。
王都は3重の城壁に守られており、いちばん外側の城壁は畑を守っている形。
テキトーに北と北西の街道の間を選び、王都の外へ。
『フヨフヨ、モンスター見つけたら教えてくれる? 馬以外で、弱そうなのがいいな』
『うん』
すっとフヨフヨの触手が雑木林を指す。
『いた。しげみの中』
雑木林へ降下。
フヨフヨの指す方へ。
『小さいの?』
肯定の波動。
そして茂みの下から液体じみたものがドロッと出てきた。
……スライムだ。
モンスター図鑑の最初に出てたやつ。
畑の作物を腐らせるモンスターらしい。
これなら倒せるはず。かわいくないし。
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