第5話 チート疑惑
自室に戻ると、床に張り付いてベッドの下を覗くリシェーナがいた。
涙目で抱きつかれた。
ほかの部屋でも俺の捜索が行われており「読み聞かせいたしますか?」と言った少女も涙目だった。
ごめんなさい。
謝ったあと、必死で説得を試みた。
敷地を出たりしないから自由に行動したいと。
話の流れで聞けたのだが、学校はすべて全寮制らしい。付き人は中には入れないのだそう。それが功を奏し、いちおう納得してもらえた。
リシェーナはなんとなく寂しそうだったので親睦を深めた。取り潰しにあった男爵家の令嬢で14歳だそう。拾ってくれたレガデューア家に大恩を感じているらしく、お礼を言われてしまった。
そして、待ちに待った寝る時間。
『魔法適性の確認方法』は、なんのことはないやってみろという内容だった。
いちばん簡単で危険の少ない魔法の使い方が書いてあったのだ。あとは髪色と属性の一覧。
で、やってみたかったのだけど、書斎でヘタなことはできなかった。外で試せと書いてあったし。
『フヨフヨおまたせ! 今日は魔法を試すよ!』
とりあえず抱きつくと歓喜の波動。
そのまま敷地の外へ移動。うちの塀と、お隣の塀の間。ここなら死角になるはず。
『まずは光』
俺は金髪なので、すでに使える聖属性のほかは、光と無に適性がある可能性がある。
手のひらを上にして小さなライトをイメージ。
魔力が抜ける感覚。
『おわ、眩しい。あっさりついた』
手のひらの上に現れた野球ボール大の光がピカーって感じ。眩しいので消す。消すのも意識するだけでできた。
次の無属性はちょっと苦戦。
無属性ってなんなの?
魔力をただ実体化させる。
『お、できた』
アストラルボディよりさらに見えにくい野球ボールだ。ふれようとしてみたが、すり抜けた。肉体が必要か。
隣でフヨフヨが真似をして魔法を使おうとしている。
『できそう?』
『無理』
光もできないようだった。
フヨフヨは魔力を俺に渡せる。なのに魔法は使えないらしい。
『俺がフヨフヨに魔力を渡してみていい?』
『うん』
フヨフヨにふれ、ただ魔力をだしてみる。
『どう? 魔力増えてる?』
『増えてない。霧散』
えー?
『どうやって魔力渡すの?』
『こう』
あったかい。
『……ありがとう。魔力を変換とかしてる?』
疑問の波動。フヨフヨは説明できない様子。
アストラルボディの実体化も聞いてみたが『最初からできた』とのこたえ。
俺は必死に試してみたが、どちらもできない。
種族特性みたいなものかな?
つぎは水のボールを作ってみよう。作れないだろうけど。
『えっ』
バシャッと音を立てて石畳の間に吸い込まれていった。その濡れた石畳をじっと見る。
……なんでできたの?
金髪で可能性があるのは、光、聖、無属性だけだ。『魔法適性の確認方法』にも書いてあったし、リシェーナも言っていた。
アストラルボディが半透明で色がないから?
みんなはNPCで俺だけプレイヤーとか?
それとも、中身のおっさんが黒髪だったから……。
黒髪だけは、すべての属性に適性を持つ可能性がある。
基本1色につき1つの属性のみで、金髪銀髪は少し特殊といったところ。
銀髪は闇、聖、無。
属性は全部で8つ。
火、水、風、土、光、闇、聖、無。
順に試したところ、すべて使えた。
嬉しい誤算だ。なにかゲーム的なイベントで使えるようになることを期待していたのだが、できちゃった。
けど、人前では光、聖、無だけ使うようにしよう。研究対象にでもされてはかなわない。
◆◇◆
3日後、家庭教師が部屋に来た。
派手めの黒髪女性だ。真っ青ドレスで大きなメガネをかけている。たぶん20代。
なんかこう、だいぶ想像と違う。
「私、文官学校を次席で卒業後、結婚いたしまして、このたび若様の教育を承るに至りました!」
……文官学校。
いや、最初の目的は筆記試験のための常識だ。
つい魔法を習いたいと思っていたが、魔法は自分で練習できている。
これは先に名乗るべき?
「ユイエル・レガデューアです。先生、よろしくお願いします」
「……フランツィスカ・フォン・ライゼンマイヤーと申します。よろしくお願いいたします」
先生は、ハッとしたのを隠すように付け足した。
脳内で
「若様、まずは以前の教師からどの程度教わっているか確認したいのですが、よろしいですか?」
「……読み書き計算はできます。先生! ぼく、先生のような立派な方から我が家のことをしっかりと教わりたいです!」
演技過剰だったかも。
けど、いくら病み上がり8歳児でも、父の爵位すらわからないのはまずい気がする。
ちなみに以前の家庭教師は存在しない。ユイエルくんの体調がいいときに少しずつリシェーナが教えていたらしい。
「まあ……では、お忙しい剣聖様に代わり、僭越ながらこの私が、レガデューア家の成り立ちを語らせていただきます!」
目論見通りにいきそう。
けど、剣聖様って誰?
ゼイル・レガデューアって名前の金ヒゲ仁王?
もしかして俺って剣聖の息子なの?
このあとも、じゃんじゃん新情報が出てきた。俺の小さな脳が破裂しちゃいそうなくらい。
マイヤー先生は、興奮もあらわに、ついでになぜか得意気に喋りまくり、疲れた様子でお帰りになられた。
俺は教わったことを日記に書いていく。
やっぱり父は剣聖だった。ついでに故人の祖父も。
伯爵なのだが、誰も爵位では呼ばないそう。
ここ、ラングオッド王国には、国王に次ぐ立場の『5英傑』がいる。
『宰相』『元帥』『剣聖』『賢者』『聖女』
国王が直接任命し、称号として与えるらしい。たっぷりどっぷり年金もついてくるそう。
うち『宰相』と『元帥』はわかりやすい。文官のトップと武官のトップだ。魔法が使えなくてもなれるそう。
ちょっと意味がわからないのは、ほかの3人。
『剣聖』と『賢者』は国を守る者だ。極論、国を守りさえすれば何をしてもいいらしい。が、壮絶に強くないとなれない。
『聖女』は国王を癒す者だ。極論、国王が健康なら好きに生きて良い。
実際は王族やら、ほかの『5英傑』やら、貧しい子どもやら、助けまくる人らしい。
この『聖女』だけは現在空席とのこと。
マイボディに向けて祈っていた白髪おばあさんは元聖女だった。何年も前に引退を宣言し、称号を返上しているそう。
聖属性に適性のある者は少なく、継げるほどウデのある者はいないとのこと。
ウデそこまでいる?
呪文もなしにイメージするだけでできるじゃん。と、思ったが言わなかった。
魔法適性といい、俺ちょっとチート疑惑。
マイヤー先生は魔法適性がないらしい。髪の色にかかわらず、適性のない人のほうが多い。
おそらく我が家のメイドさんたちも全員魔法が使えるわけではない。
さて、マイヤー先生から得た情報により、行きたいところができた。
生身では無理なので、寝る時間が待ち遠しい。
でも、チキンステーキはおかわりしちゃう。食事が美味しく、広々とした風呂に毎日入れる。父が『剣聖』でよかった。
とはならない。
父の仕事内容が判明した。
現在ここラングオッド王国は、南のレスレ王国に攻め込まれているらしい。
父はその戦場にいるはずだそう。
戦争なんて正直見たくもないが、この国にとっては日常茶飯事らしく、巻き込まれないためにも情報が欲しい。
なんせ国境を接する周囲5カ国はすべて敵だという。仮想敵ではない。何度も攻め込んできている敵。
父と『賢者』がいるから大丈夫とか信じられる?
たったふたりの肩に国の命運委ねちゃう?
いや、騎士団もいるらしいけど、マイヤー先生の『5英傑』崇拝が突き抜けていて不安たっぷりなのだ。
とにかく父の身も心配だ。
俺がいきなり爵位を継ぐなど無理なので、もしなにかあったら路頭に迷っちゃう。
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