第44話 無限の可能性

 俺はアレグリアのもとに駆け寄ろうとした…が足を止めた。ここでシーザリオ様が意外な事を言う。



「では、もう一戦。今度は魔法を使うからね」



 アレグリアに向かい、ニッコリと笑って言った。


 驚いたアレグリアは狼狽して言う。



「む、無理です。私は魔法使いと戦った事がありません。絶対に勝てません」


「安心しなさい。勝てとは言いませんし、手加減はします。魔法使いと戦った事が無いのなら、ちょうど良い機会ではありませんか。一度、魔法というものを見ておいたほうが、あなたの将来の為にも良いと思います」


「……………」



 アレグリアが不安そうな顔をして俺のほうを見た。


 俺はアレグリアに頷きで答える。



「シーザリオ様、お手柔らかにお願いします」



 アレグリアはシーザリオ様に一礼して答えた。



「ふふふっ、あなたの可能性を見せていただければ十分ですよ。私を納得させるほどの可能性を見せてもらえれば、あなたの望みを一つだけ叶えましょう」



 シーザリオ様はそう言って、再び間合いを取った。


 アレグリアは一度目を閉じ、呼吸を整えてからシーザリオ様と対峙する。



「始め!!」



 合図と共にシーザリオ様が指先から水の弾丸をアレグリアに向けて放っていく。次から次に放たれる水の弾丸は、アレグリアの足を止め、容易に近づく事ができない。防戦一方のアレグリアの動きが明らかに鈍る。



「はぁ、はぁ、はぁ」



 息を切らし始めるアレグリア。



「こんなものなのですか?あなたの実力は…何もできていないですよ。これが戦場ならあなたはすでに死んでいますよ。ふふふっ、さすがFランクの冒険者様!!」



 シーザリオ様がアレグリアを挑発する。



(アレグリア、今のはシーザリオ様の挑発だ。分かってはいるだろうが、今は耐えるときだ。必ず水の弾丸が止まる時が来る。それまで何としても耐えるんだ)



 俺は心の中で呟く…が



「こ、このぉ~~~!!」



 アレグリアは簡単に挑発に乗っかり、無理やりシーザリオ様に向かっていく。



「………あっちゃ~」



 俺はアレグリアの脳筋ぶりに頭を抱える。


 シーザリオ様は『ニヤリッ』と笑い、水の弾丸を倍のスピードで連射した。



「うぐっ!!」



 アレグリアの左肩付近に被弾しスピードが落ちた。シーザリオ様はここぞとばかりに、水の弾丸を容赦なくアレグリアの向けて放っていく。



「うっ…うぐっ、う、うわぁ~~~!!」



 水の弾丸がアレグリアの体を襲う。スピードの落ちたアレグリアは格好の的、面白い様に被弾していく。


 アレグリアは力を振り絞り、なんとか後ろに下がり距離を取った。



「はぁ、はぁ、はぁ」



 肩で息をするアレグリア。だが、目から光は失われていない。



「ふふふっ、アレグリアさん。面白い物を見せてあげましょう」



 シーザリオ様はそう言って、両手のひらから二つの水球を出した。この水球の大きさは直径10cm位、シーザリオ様の周りを『グルグル』回っている。



「ふふふっ」



 シーザリオ様が笑ったと思った瞬間、その水球がアレグリアに向けて放たれた。


 見ている野次馬たちは誰もが『終わりだな』と思った事だろう。


 しかし、アレグリアは水球を間一髪でかわす。そして最後の力を振り絞り、シーザリオ様に突進していく。


 

「ふふふっ、アレグリアさん。経験不足ですね」



 シーザリオ様がそんなアレグリアを見て再び笑った。



「アレグリア!!後ろだ。後ろから水球が戻ってくるぞ!!」



 俺はアレグリアに向かって叫んだ。


 アレグリアは瞬時に立ち止まり、槍を構える。



「水球の高さはアレグリア、お前の頭の高さだ!!」



 俺は必死に叫んだ。


 アレグリアは右手で槍を持ち、上半身をひねり目を閉じた。そして次の瞬間、目を見開き、物凄い速さで回転し、槍を一閃!!


 向かって来た二つの水球を叩き切り、上へ飛び上がって水球をやり過ごした。


 アレグリアは体勢を整え、再びシーザリオ様と対峙する。


 水球が勢いを無くし、地面に落ちて転がっている。なぜ水球が地面を転がっているのかと言うと、アレグリアが槍で叩き切ったとき、凍って氷球になっていたのだ。



「……………」



 無言でその氷球を見つめるシーザリオ様。


 二つの氷球はゆっくり転がっていき、シーザリオ様のブーツに当たると、真っ二つに割れて止まった。



「ふっ、ふふっ…ふはははっ!!凄い、凄いぞアレグリア!!この勝負、再びアレグリアの勝ちでよい!!」



 シーザリオ様が大笑いをしてアレグリアの勝ちを宣言し、称賛した。



「うおぉぉぉ~~~!!」



 これには野次馬たちも大喜び。物凄い大歓声が響き渡った。






【シーザリオ視点】


(今の戦いでも実力は十分にわかりましたが、ふふふっ…アレグリアさん、さらなる将来性や期待感、あなた自身の可能性の奥深さを私に見せてくれるのでは…と期待せずにはいられません。ふふふっ、ごめんなさいね。私は欲張りな女性なのです)



 私は目の前の少女を見つめながら思う。



(今、あなたは自身の実力が確実に伸びている事を実感しているはずです。楽しいでしょう?わかりますよ。数年前の私とメサイアもそうでしたから…。ふふふっ、私に勝てとは言いません。可能性を見せてください!!)



 彼女に向けて水弾を連続で放つ。


 先程の戦いで、彼女の戦い方は分かった。彼女は若く経験は余りないだろう。戦い方のバリエーションも無いと思われる。スピード…彼女の足を止めれば勝敗は決すると思われる…が、私が見たいのはその後…。



「こんなものなのですか?あなたの実力は…何もできていないですよ。これが戦場ならあなたはすでに死んでいますよ。ふふふっ、さすがFランクの冒険者様!!」



 分かりやすい挑発。



(さすがにこんな分かりやすい挑発には…乗っちゃった!?)



「こ、このぉ~~~!!」



 彼女が声を上げて突っ込んできた。



(ふっ…ふふふっ。舐められたものです…。一か八かは通用しませんよ!!)



 私は水弾のスピードを上げて連続で放つ。面白い様に被弾し、彼女は何もできずに後退していった。



(残念ですが…ここまででしょうか)



 私はこの戦いを終わらせようと、少しだけ本気の水球を彼女に向けて放った。


 水球は彼女に向かって飛んでいったが、間一髪で避けられた。



(ふふふっ、避けますか…。そして最後の力を振り絞って、私に突っ込んで来ると…そこまでは想定内!!)



 全員がアレグリアの突進に注目する中、水球がUターンして後ろからアレグリアを襲う。



(終わりですね。でも…アレグリアさんには良い経験になった事でしょう…)



 私は勝利を確信し『ニヤリッ』と笑みを漏らしたその瞬間



「アレグリア!!後ろだ。後ろから水球が戻ってくるぞ!!」



 誰かの叫ぶ声が聞こえた。



(もう遅いわ。避けられない)



 冷静に思う…が、私はアレグリアさんの身のこなしと槍捌きに衝撃を受け言葉を失う。彼女は水球を叩き切り、間一髪で飛び上がり避けたのだ。そして私の放った二つの水球は氷球となり地面に落ち、私のほうに転がってきた。



「……………」



 私は無言で転がってくる氷球を見つめていた。やがて氷球は私のブーツにぶつかり、真っ二つに割れたのだった。



(ふっ、ふふふっ。面白い、実に面白い!!)



 そして素直に無限の可能性を秘めた少女を讃える。



「ふっ、ふふっ…ふはははっ!!凄い、凄いぞアレグリア!!この勝負、再びアレグリアの勝ちでよい!!」



 私は何とも清々しい思いで、彼女の勝利を宣言したのであった。



【アレグリア視点】


(も、もう一戦…)



 私は肩で息をしながら考える。ほんの数分しか戦ってはいないが、スタミナの消耗が激しい。対峙しているだけで精神的に削られているような感覚…。助けを求めるようにハヤトのほうを見るが『まだ限界じゃないよ』という顔をして頷いた。



(ハヤトが私の背中を押してくれる。それなら…まだ出来るはず!!)



 私はもう一度、シーザリオ様と対峙する。



「始め!!」



 先程の戦いと同じように突っ込んで行こうとするが、すべて見切られていた。シーザリオ様の水弾が私を襲い、足を止められて何もできない。


 挙句の果てに、あからさまな挑発に引っ掛かってしまう。何も考えずに突っ込んでくという失態を犯し、私の体は格好の的となり、面白い様に被弾していった。



(ダメだわ…。何もかも通用しないわ)



 そう思った時、シーザリオ様の水球が私に襲い掛かる。間一髪でかわし、最後の力を振り絞り突っ込んで行くが



「アレグリア!!後ろだ。後ろから水球が戻ってくるぞ!!」



 ハヤトの声。



(私にはハヤトがついている…一人じゃないわ!!)



 そう思うと、力が湧いてくるような気がした。


 後は無我夢中であまり記憶にない。


 気が付けば



「ふっ、ふふっ…ふはははっ!!凄い、凄いぞアレグリア!!この勝負、再びアレグリアの勝ちでよい!!」



 と、シーザリオ様が私の勝ちを宣言していたのでした。







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