第45話 二つ名

「わ、私の勝ち!?」



 シーザリオ様の言葉を聞いてアレグリアは力尽き、その場に座り込んでしまった。



「アレグリア、大丈夫か!!」



 俺は居ても立っても居られずに、アレグリアの元に駆け寄り抱きしめた。



「ハヤト…ハヤト!!」



 アレグリアは俺を抱きしめ返すが力が無い。本当に自身の力の全てを使い切ったようだった。しかし、何とか俺が支えになり立ち上がる事が出来た。



「んっ!?君は人生相談所にいた男の子ですか?」


「あっ!?はい。すいません。金貨をお返しします」



 シーザリオ様は手を振り



「いいえ、結構です。しばらくはリーズに滞在しなければなりません。時間が空いたら、改めて伺いますよ。…それに君には異質なものを感じますしね」



 と言って、金貨を受け取らなかった。一瞬、シーザリオ様の鋭くなった目つきと言葉が気になったが、今はアレグリアの事だ。



「アレグリア、体は大丈夫か?」


「ハヤト、ありがとう。もう大丈夫よ。何とか一人で立っていられるわ」



 アレグリアは槍を杖代わりにして支え無しで立っていようとするが『フラフラ』して危なっかしい。



「こういう時は俺を頼ってくれよ」


「…ハヤト、ありがとう。実は結構きついのよ」



 そう言ってアレグリアは体を俺に寄り掛け腕を絡ませた。


 そんな俺達を見てシーザリオ様が言う。



「ふふふっ、君たちは恋人同士か?」



 一瞬、俺とアレグリアは固まったが



「はい。アレグリアは俺の恋人です!!」



 と、間髪を入れずに答えた。


 それを聞いたアレグリアの腕の力が強まり、胸の膨らみが感じられるまで密着してきた。



「ふふふっ、羨ましいですね。メサイア」


「はい。若さが眩しいです。私達は日々、クソ爺共を相手にしているのに…」



 メサイアと呼ばれている女騎士が吐き捨てる様に言う。



「そうですね。でも今はアレグリアの事です。素晴らしい戦いぶりだったわ。正直驚きを隠せません。手加減はしましたが、予想のはるか上の実力でしたよ」


「あ、ありがとうございます。正直、無我夢中で…」


「…しかし、私とここまで戦える実力がありながら、なぜ冒険者ランクがFなのか…理由を教えてもらってもよろしいですか?」


「最近実力が急激に伸びたとしか…」


「うむっ…何か理由がありそうですが…」



 アレグリアはハッキリとは言わず、曖昧に答える。



「…わかりました。ではアレグリア、約束です。何か一つ、願いを叶えてあげましょう。当然、私ができる範囲の事になりますけどね」


「ここで言うには…。そうだ。私の実家は宿を営業しているのですが、明日新しい料理の試食会があるのです。是非お二人を招待したいのですが…」


「あ、新しい料理!?行きましょう、シーザリオ様」



 いきなり女騎士のメサイアが食いついてきた。



「はしたないですよ、メサイア。しかし、新しい料理ですか…興味がありますね。わかりました。伺いましょう」


「ありがとうございます、シーザリオ様。では、その時に一つお願いをしますね」


「いいでしょう!!では、改めて皆に向けて勝ち名乗りを行いましょう」



 シーザリオ様が勝ち名乗りを行うと聞いて、アレグリアはシーザリオ様に何やら耳打ちをした。それを聞いたシーザリオ様は『ニヤリッ』と笑った。



「私は王家筆頭魔術師のシーザリオです。皆の者、覚えておきなさい。勝者の名はアレグリア。『赤備えのアレグリア』です!!」


「うおぉぉぉ~~~!!!!!」



 大歓声が沸き起こる。



「アレグリア!!」


「赤備え!!」


「赤備えのアレグリア!!」



 叫び声にも似た声で、人々がアレグリアの名を呼ぶ。


 アレグリアはその大歓声を聞きながら、恥ずかしそうに手を挙げて応えている。


 俺はそんなアレグリアを見守りながら



(ふふふっ、俺が何気なく言った『赤備えのアレグリア』というフレーズ、相当気に入っていたみたいだな。そして今日から『赤備えのアレグリア伝説』の始まりだな!!)



 と、まるで自分の事の様に嬉しく思った。


 そして同時にアレグリアを愛らしく思い、自分にとってかけがえのない存在だと強く感じたのだった。



「ではシーザリオ様『ベガ』の試食会でお待ちしていますね」


「うむ、私達を満足させられる料理が出てくる事を期待していますよ」


「ふふふっ、うちの料理人は天才です。期待以上の物をお出しできると思いますよ」


『楽しみにしています』



 アレグリアの自信満々の言葉を聞いて、シーザリオ様とメサイアさんが同時に答えた。


 俺は『そんなにハードルを上げなくても…』と思い、少しリスグラシューに同情をした。



「じゃあ、帰ろうか」


「帰りましょう」



 アレグリアは一人で歩こうとするが少しふらついてしまった。



「アレグリア、ほら!!」



 俺はかがんで背中に乗るように促した。まあ、おんぶである。嫌がるかなっと思ったが、アレグリアは俺の背中に素直に抱き着いた。



「ハヤト、重くない?」



 さすがに年頃の女の子だけに、体重が気になるようだった。



「全く重くはないよ」


「本当?」


「本当!!」


「ふふふっ、ハヤト…大好き!!」



 アレグリアは俺の体にしがみつき、俺達の体は密着する。



「……………」


「……………」



 俺とアレグリアは無言でお互いのぬくもりを感じながら宿まで戻るのだった。






【メサイア視点】


(なかなかの実力者です。アレグリアといいましたか…しかし、なぜ彼女がFランクなのか。何か理由があるはずですが…)



 私はシーザリオとの戦いを終えたアレグリアを見ながら考える。


 そして、少し痺れが残る手を『ジッ』と見つめる。



(先程、彼女の槍を止めた時の衝撃が未だに収まりません)



 無意識のうちに『ニヤリッ』と笑みが漏れる。



(私もリーズに滞在している間に、彼女と手合わせを行いましょう。ふふふっ、きっと面白い事になる事でしょう)



 戦士としての血が騒ぐ…が、ここでハヤトというアレグリアの恋人が現れました。



「私達は日々、クソ爺共を相手にしているのに…」



 思わず、汚い言葉を吐き捨ててしまいました。


 しかし…ざわつく心中



(ぐぬぬっ!!許せん!!私やシーザリオは、あなたくらいの年齢の時は男を断ち、修練に明け暮れていたというのに…そのおかげで未だに処女。クソッ!!…羨ましい!!…ではなく、厳しさを叩きこんであげましょう!!)



 私の心の中は嫉妬の炎が燃え上がるのでした。



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