第43話 アレグリア対シーザリオ

「ハヤト、私では相手にならないかなぁ」


「アレグリア自身はどう思っているの?正直に言ってみて」


「おそらく…魔法を使われたら相手にならない。だけど、剣なら相手になるかもと思ってるの」


「正解!!」


「本当!!じゃあ、受けていい?」


「あぁ、今の自分の力を思いっきり試してこい!!」



 アレグリアは俺の言葉に頷き、シーザリオ様に近づいていく。



「シーザリオ様、私と戦ってください!!」


「おぉ~!!勇ましい少女です!!歓迎しますよ」



 シーザリオ様はアレグリアを見て喜びの表情になった。しかし、その表情からは余裕がうかがえる。



(アレグリアがあの表情をどれだけ崩す事ができるか…見物だな!!)



 俺の鑑定では、シーザリオ様の剣の腕前は中の上というところ。ただ戦闘力が恐ろしく高い。しかし、今のアレグリアの実力なら十二分に相手になるはずだ。ただし相手は百戦錬磨。時間が経つと見切られ、警戒される恐れが出てくる。アレグリアの実力が知られないうちに速攻で倒す必要があるだろう。


 シーザリオ様がアレグリアに話しかける。



「あなたのその勇気、私は嬉しく思いますよ。名前を聞いておきましょう」


「私はFランクの冒険者でアレグリアといいます」



 Fランクという言葉を聞いて周りがざわつく。



「Fランクの女が相手になるはずがないだろう!!」


「身の程知らずが!!引っ込め!!」


「わははっ、笑える!!あの娘、何を勘違いしているんだよ!!」



 アレグリアに向けて罵声が飛ぶが、本人は何も気にしてはいない様だ。出会ったばかりのアレグリアはFランクという事を気にしていたが、実力と同時に精神的にも成長しているのだろう。動揺は全くない様だ。


 一方のシーザリオ様も、冷静にアレグリアの立ち振る舞いを観察しているかの様だ。



「シーザリオ様。申し訳ありませんが、剣を抜いてもらえませんか。素手の相手に槍を向けるのは気が進みませんので…」


「ふふふっ、嬉しい事を言ってくれますね!!わかりました。あなたの望み通り、剣を使わせてもらいましょう」



 シーザリオ様は剣を抜いてアレグリアと対峙する。



「あの娘、馬鹿だ!!」


「死ねばいいのに…」



 野次馬の心無い罵声が次々に飛んでくる。


 対峙する美女と美少女。


 騎士風の美女が二人の真ん中に進む。


 アレグリアが腰を落とし、槍を構える。シーザリオ様も静かに剣を構える。



「始め!!」



 声と同時にアレグリアがシーザリオ様に向けて突っ込んでいく。



「いやぁ~~~!!!!!」



 物凄いスピードの突きがシーザリオ様に向けて繰り出された。



「なっ!?」



 驚きの表情で間一髪、かわしたシーザリオ様。しかしアレグリアの高速の突きは止まらない。次から次に繰り出され、シーザリオ様に反撃の時間を与えない。


 徐々に追い詰められていくシーザリオ様に焦りの表情が見えた。一瞬のアレグリアの隙に



「調子に乗りすぎですよ!!」



 と言い、剣を振る。


 ただこの隙はアレグリアの誘い



「キィーーーン!!」



 剣と槍が交錯し、甲高い音が響く。そしてシーザリオ様の剣が弾き飛ばされ地面に突き刺さった。



「しまった…ヤバイ!?」



 アレグリアはシーザリオ様の懐に潜り込み、下から喉に向け槍を突き上げる。



「キィーーーン!!」



 またしても剣と槍が交錯する音が響く。だがこの剣は、間に割って入った騎士風の女性のものだった。



「貴様!!シーザリオ様を殺す気か!!」


「い、いえ…。私は寸止めするつもりで…」



 アレグリアは肩で息をしながら答える。



「そ、そうか。…すまない。あまりにも見事な突きだったので…思わず体が動いてしまった。シーザリオ様の身を守るのも私の仕事。許せ」



 騎士風の女性は申し訳なさそうに答えたが



「ふっ、ふふ…はははっ!!凄いじゃないか!!アレグリア」



 大笑いしながらアレグリアを称賛するシーザリオ様。



「今の一戦、完全に私の負けだ!!」


「うおぉぉぉ~~~!!!!!」



 シーザリオ様のこの言葉に、周りで見ていた人々は大歓声を上げた。



「凄いぞ、アレグリア!!」



 当然、俺も大声を出してアレグリアを称えた。






【アレグリア視点】


 ハヤトには『シーザリオ様の戦い方を見たいだけ』と言ったが、実際に戦えるチャンスが目の前にめぐってきた。



(戦ってみたい。今の自分の力を試してみたい!!)



 抑えられない気持ち。私はハヤトに正直に打ち明ける。



「おそらく…魔法を使われたら相手にならない。だけど、剣なら相手になるかもと思っているの」



 そう言うとハヤトも同意してくれ、私の背中を後押ししてくれた。


 私は意を決してシーザリオ様の前に歩み出る。シーザリオ様は私の申し出を喜び、戦うことになった…が、その表情は余裕に満ち溢れている。



(勝てないまでも、なんとかシーザリオ様の余裕を無くすところまでは…)



 そう思いながら対峙する。


 ここでシーザリオ様が



「あなたのその勇気、私は嬉しく思いますよ。名前を聞いておきましょう」



 と、私に向かって言った。


 以前の私なら、人前で言うのを躊躇しただろう…だけど、今は違う。



「私はFランクの冒険者でアレグリアといいます」



 広場に集まっている人達、全員に聞こえるくらいの大きな声を出して言う。


 周りからは罵声や失笑が聞こえてきますが、不思議と全然気にもなりません。そして私はシーザリオ様に剣を抜いてくださいとお願いしました。再び罵声が浴びせられる。



(目的は勝つ事では無いわ。自分の今の実力を見極める事が重要よ。幾らシーザリオ様といっても、素手では実力が図れません)



 シーザリオ様は喜び剣を構える…そして



「始め!!」



 その言葉を聞き、私は迷わずシーザリオ様に向かって突っ込んでいく。



(私の長所はスピード、シーザリオ様に反撃の機会すら与えずに勝つ!!)



 私はシーザリオ様を追い詰め、最後の突きを繰り出す。当然、寸止めするつもりでしたが…。



「キィーーーン!!」



 槍を止める直前に、何者かによって槍がはじき返され、甲高い音が響き渡った。



(…えっ!?槍が…。何も見えなかった…)



 驚いた私の前に立っていたのは、シーザリオ様の従者であるメサイア様であった。



【シーザリオ視点】


(この程度か…)



 私は地面に倒れ『ピクリッ』ともしない大男を見て思う。



「私に勝ったら望みを何でも叶えると約束する」



 そう宣言した時、この男が



「王家筆頭魔術師のシーザリオ!!俺が相手だ。俺が勝ったら俺の女になれ!!」



 などと言ってきた。吐きたくなるくらいの下品な顔をして…。そして戦いが開始され数秒後、この有様である。



(ここは商業都市のリーズ。やはり強者はいない…か)



 そう思い、引き上げようかと思った時、一人の少女が私の前に現れた。



「シーザリオ様、私と戦ってください!!」



 彼女は言う。清々しいほどの澄んだ目をして…。



(ふふふっ、なんと気持ちの良い少女だろう。そしてなかなかの実力者と見受けられる。隙の無い立ち姿、黒い戦闘服に質の良さそうな真っ赤な防具…似合っていますよ。そして、おそらくは属性付与が施されている槍。相当な業物ですね。収穫です。名前を覚えておきましょうか)



 私は嬉しくなり彼女の名前を聞くが…。



「私はFランクの冒険者でアレグリアといいます」



(…アレグリア。良い名前ね。覚えました。しかし…Fランクとは!?てっきりもっと高ランクの冒険者かと思いましたが…。Fランクの冒険者だと、私と対峙する事すらできず、逃げ出してしまうと思うのですが…。まあ、戦ってみればわかりますね)



 そう思い、早速戦いを始めようとメサイヤの開始の合図を待ちますが



「シーザリオ様。申し訳ありませんが、剣を抜いてもらえませんか。素手の相手に槍を向けるのは気が進みませんので…」



 そんな事を言ってきた。



(ふふふっ、素直に嬉しいですね。このアレグリアという少女に会えただけでもリーズに来た甲斐がありましたね)



 私は遠慮なしに剣を振るう事にしましたが…。結果は…負けてしまいました。



(驚きました!!私の想像のはるか上の実力の持ち主です!!避けようと思えば避けれましたけど、メサイヤまでもが思わず割って入るほど鋭い槍捌き。お見事です)



 ただ、このままでは面白くありません。私はアレグリアに魔法も使える戦いを申し込もうと思いました。



 


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