第41話 王家筆頭魔術師のシーザリオ

「リスグラシュー、俺から注文する事は何もない。最高だよ!!」



 俺は前世で食べた事のあるパスタと比べる。正直、比べるというレベルではなかった。高級イタリアンレストランと呼ばれるお店には行った事はないのでわからないが、十分にやっていけるのではないだろうか。

 


「本当に最高に美味しいです!!私、食いだめをしたいです!!」


「こら!!アパパネ。食いだめなんて…言ってはダメですよ。これからは毎日食べられますからね!!」


「えへへっ、ごめんなさい。ジュリアさん」



 アパパネは『ペロッ』と舌を出してジュリアさんに謝る。



「私も何もいう事は無いわ。このレベルの料理を毎日食べられる幸せを感じずにはいられないわ」



 アレグリアも大満足のようだった。


 そのアレグリアが



「思い出した!!ハヤト、王都から王家の筆頭魔術師がリーズに視察に来るらしいわよ」



 と、大声を出していった。



「筆頭魔術師!?」



 俺は『ピンッ』と来ずに聞き返す。



「私も詳しい事は分からないんだけど、冒険者ギルドで噂になってたわ。たぶん、高ランクの冒険者が密かに護衛でもするのかもしれない…」



 そうアレグリアは予想する。


 俺は元貴族のお嬢様のリスグラシューに話を振る。



「確か今の王家筆頭魔術師はシーザリオ様。女性で若干21歳の天才魔術師と聞いた事があります」


「会えない?」


「む、無理です、無理です。雲の上のお方ですから…あっ!?使徒様のハヤト様には到底及びませんが…」


「リスグラシュー、そんなフォローはいらんから!!」


「でも、地方に視察に行くと必ず地元の冒険者と戦うと聞いた事があります」


『戦う!?』



 全員驚いたが、特にアレグリアが食いついた。



「リスグラシュー、そこのところ詳しく!!」


「ごめんなさい。詳しい事は分かりません。戦うという噂を聞いた事があるだけなので…」


「噂かぁ~」



 がっかりするアレグリア。今、自分の実力が伸びているという実感があるのだろう。強者と戦いたいという気持ちは分かる様な気がする。



「やっぱり戦いたいのか?」


「いえ、戦いたくは無いわよ」


「えっ!?戦いたいものだと思ったよ」


「さすがにFランクの冒険者では大きい事は言えないわよ。でも、この国の筆頭魔術師の戦い方を見てみたいと思っただけよ。何事も頂点を知っておく事は重要だと思うの。今後の目標、参考のためにね」



 アレグリアはウィンクをしながら言った。



「アレグリア、何か新しい情報が入ったら教えてくれ」


「わかったわ」



 夕食を食べ終え、みんなで片付けをしてから自室に戻った。


 自室に戻り机の前に座る。目を閉じて前世の料理の事を思い出す。


 ラーメンに餃子、うどん・そば、丼物、各種定食などなど、前世で食べた庶民の味。わかる範囲で紙に書いていく。パスタの出来栄えを考えれば、再現は容易なはずだ。



(ふふふっ、リスグラシューなら再現というレベルをはるかに超えた料理を作れるに違いない!!)



 俺はそう思い、食事の問題はこれでひとまず解決したと安堵したのだった。






 ここは王城の一室



「シーザリオ様、視察の準備はすでに整っています」


「……………」


「シーザリオ様!!」


「…行きたくない」


「お仕事です!!」


「こんなバカみたいな仕事には、い・き・た・く・な・い・!!」


「そんなわがままが通るとお思いですか?」


「………メサイアも知っているだろう。この視察がどんだけ無駄なものなのかを!!視察先では私の機嫌を取ろうと、接待、接待、接待漬けだ。私が視察をする建物、宿泊施設はみんな新築だ。こんな事にお金を使うなら、もっと有意義な使い方があるだろう!!だから、行きたくはない!!」


「…シーザリオ様、諦めてください!!」


「では…メサイアも行くのですか?」


「わ、私はシーザリオ様のご無事をお祈りしつつ、お留守番をしています」


「…ふんっ!!王に出発のご挨拶をしてくる」



 シーザリオは従者との言い合いを終えて、王様に謁見するために部屋を後にした。部屋を出て行く際、従者の顔を見て『ニヤリッ』と笑って…。


 しばらくしてシーザリオが部屋に戻ってくる。



「ふふふっ、よかったわね!!王がメサイアの同行も認めてくれましたよ」


「はぁ~!?」


「早く支度をしてきなさい!!」


「私は関係が無いじゃないですか!!」


「王が認めてくれたのです。それとも、逆らうのですか?」



 シーザリオは『ニヤリッ』と笑い、従者に問う。



「ぐぬぬぬ…何と卑劣な!!」


「はははっ、メサイアも道連れよ!!さぁ、リーズまで行きましょう!!」



 シーザリオは道連れができ、上機嫌で部屋を出て行った。






【メサイア視点】


(今回の視察には同行しなくても良さそうね。シーザリオには悪いけど、正直に言って地方へは行きたくはないわ。うふふふっ、いろいろと事前に根回しをした甲斐があったわね)



 私は視察への出発準備が整ったとの報告を受け、シーザリオに伝えに彼女の部屋まで来たのだが…。



「…行きたくない」



 思った通りの反応をする。さらに…



「こんなバカみたいな仕事には、い・き・た・く・な・い・!!」



 王家筆頭魔術師とは思えない暴言を吐く。



(部下として、親友として同情はします。でも、これも立派な王家筆頭魔術師としてのお仕事ですよ)



 私はそう思い



「…シーザリオ様、諦めてください!!」



 と強く言ったのだが…。



「では…メサイアも行くのですか?」



 と切り返されてしまいました。一瞬、動揺してしまいましたが、何とか言い訳をしてこの場を切り抜けました。


 そしてシーザリオは王への挨拶の為、部屋を出て行ったのですが…。



(シーザリオ、出て行く時に私の顔を見て『ニヤリッ』と笑ったような…)



 嫌な予感がします。幼い頃から一緒にいる身としては、何を考え行動するかは、手に取るように分かってしまいます。



(失敗した。行きたくない、行きたくない、せっかく前々から根回しをしていたのに…。絶対に何日もかけて地方への視察なんて行きたくない!!)



 そう思ったのだが、シーザリオは戻ってくると開口一番



「ふふふっ、よかったわね!!王がメサイアの同行も認めてくれましたよ」



 なんて言いやがった。いつもの様に美しいが憎たらしい満面の笑顔を浮かべて…。

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