第40話 セクハラ!?

(みんな頑張っているので、俺も頑張って人生相談をしなければいけないのだが…)



 俺はそう思いながら、今日もお客さんが来ない出店でひたすらお客さんを待つ。



「……………」



 俺は眠気を我慢しながら魔法について考える。



(いろいろ試してはみたものの、依然として生活魔法しか使えない。いろいろな魔法を使えるようになるには、何か重要な秘密があるはずだ。でも、それがわからないんだよなぁ…)



 街を歩く人たちの中に、魔法使いがいないか捜すが見つからない。というか、一人も生活魔法すら使えないのだ。


 今日もお客さんは来ずに店を閉める。


 そして宿に戻ると、みんなが忙しく働いている。



『おかえりなさい』



 みんなが俺に一声かけて仕事に戻る。



 ジュリアさんとアパパネは共に給仕の練習をし、リスグラシューはパスタの研究をしている。



(………このままではダメだなぁ)



 俺は『のんびりと生活できればいいかな』と安易に考えていたが、みんなの頑張りを見ていると、そうも言っていられなくなってきた。


 

「ただいま~!!」



 俺がそんな事を考えながらみんなの働く姿を見つめていると、アレグリアが修練から帰ってきた。


 アレグリアは俺の前まで来て『ニッコリ』と微笑む。



「クリーン」



 俺はアレグリアに『クリーン』をかける。何故か俺の前に来て微笑むと『クリーン』をかけるというルーティンが出来上がっていた。


 そして…



「チュッ」



 アレグリアが俺の頬にキスをする。


 俺が冗談半分で



「生活魔法の対価は頬へのキスでいいよ」



 と言ったところ現実になってしまった。本当に冗談で言ってみたのだが…嬉しい誤算というのだろうか、みんなにキスが定着したのだった。



(セクハラ!!と言われても仕方がないところだが、そういう事にはならず受け入れられた。イケメンって得だよね)



 そう思わずにはいられなかった。前世では同じ事を言っても、イケメンは笑って許され、ブサメンはセクハラと大問題になっていた。俺はその度に世の中の理不尽さを思い知らされていた。



(もう関係ないのだが…イケメンになっているしね)



 と思うも、何か『モヤモヤ』するのだ…。



「みんな揃ったわね。夕食にしましょうか。今日はお待ちかねのパスタよ」



 と、ジュリアさんが言う。



「やった~、楽しみ!!」



 アレグリアが大喜びをしていると、アパパネが『スッ』とフォークをテーブルに並べていく。その動きは流れる様に自然で美しかった。


 そしてパスタが運ばれてきた。アパパネは俺の邪魔にならないように、左側からお皿をテーブルに置く。今日はトマトとひき肉を使ったミートパスタのようだ。



「美味しそう!!」



 アレグリアが『待ちきれないわ』という顔をして言った。


 そしてジュリアさんとリスグラシュー、アパパネが俺の前に来て微笑む。



「クリーン」



 俺がみんなに『クリーン』をかけると『チュッ』と頬にキスをした。



(これがキスの嵐というものか…。たまらんな!!)



 俺の表情は自然に緩んでしまう。ただのセクハラ親父と変わらないのだが…。



「みなさんに初めて食べてもらうパスタです。申し訳ありませんがただ食べるだけではなく、良い点や悪い点、それに改善が必要な点を考えながら食べて頂けると助かります」



 リスグラシューはこう言ってから席に座った。



「みんなただ食べるだけじゃなくて、考えながら食べてね。では、いただきます」



 ジュリアさんに続き



『いただきます!!』



 と言ってみんな食べ始める。



「どうですか?みなさん…。お味は?」



 リスグラシューは不安そうに質問をするが、誰も答えようとしない。俺を筆頭に、全員パスタを食べるのに夢中になっている。


 『前にもこのような場面がありましたわね』と、リスグラシューは思い出しパスタを口に運ぶ。



『……………』



全員が無言でパスタを食べている。



『ごちそうさまでした!!』



 全員が無言のまま食べ終わった。残されたのはお皿だけ…綺麗にパスタは無くなってしまった。



『……………』



 誰も言葉を発しようとしない。まるでパスタの美味しさの余韻に浸っているかのようだった。






【リスグラシュー視点】


 アパパネがパスタを運んでテーブルに並べていく。



(早く感想を聞きたいです)



「みなさんに初めて食べてもらうパスタです。申し訳ありませんが、ただ食べるだけではなく、良い点や悪い点、それに改善が必要な点を考えながら食べて頂けると助かります」



 とお願いをして席に着きました。



『いただきます!!』



 みんなが一斉にパスタを食べ始めた。一番緊張する瞬間です。



『……………』



 皆さん、夢中でパスタを食べています。一言も言葉を発しません。



(た、確かこの前も同じような事が…私もいただきましょう)



 自分で作ったパスタを一口。



『……………』



 自分で言うのも恥ずかしいのですが、あまりの美味しさに適切な表現が見つかりません。ただ…ただ、物凄く美味しいという事だけ…。


 みんな食べ終わりましたが誰一人、いまだに言葉を発しません。それどころか、恍惚とした表情をして、何も乗っていないお皿を見つめているのでした。


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