第37話 リスグラシューの喜び

 女の子は最初は『下ろして』と言っていたが、お腹が空いていて、喋れば喋るほど元気が無くなっていった。


 俺は女の子をおんぶして、その軽さに驚いていた。



(十分な食事も取れていないのだろうな。とりあえず、食事だけでも取ってもらいたい)



 そう思いながら、宿までの道を歩いていく。


 宿に到着するとジュリアさんが



「お腹がすいているといっても、いきなり大量の物を食べては体によくありません。量は少しでもいいので、お腹に優しいスープをお願いします」



 とリスグラシューにスープを作るように頼む。


 リスグラシューは少し考えこんで



「わかりました。お任せください!!」



 と言って、キッチンに入っていった。



「お姉ちゃん達はあなたの味方だから安心して」



 アレグリアが女の子に優しく話しかける。



「……………」



 女の子は無言で下を向いている。不安で仕様がない事は理解できる。


 何とか不安を和らげたいと思っていると



「さっきはありがとう。あれ魔法でしょ?」


「さっきの『クリーン』だね。一応、魔法だよ」


「体が痒くなくなった。臭いもしないし…」


「気にしなくてもいいよ」



 女の子はポツリ、ポツリとではあるが、話をしてくれた。


 しばらくすると



「お待たせしました!!」



 とリスグラシューがスープを持ってきてくれた。そして女の子の前に置くと、いい匂いが広がる。



「ゴクンッ」



 女の子はつばを飲み込み、視線はスープに釘付けになっている。



「どうぞ!!」



 ジュリアさんが言うと女の子はスープを食べ始めた。



「出来立てで熱いから気を付けて!?」



 アレグリアの言葉にリスグラシューが



「少し冷ましてあるので問題無いと思います」



 と答えた。出来る女である。


 女の子は無我夢中でスープを食べる。そして一分もたたないうちに食べきった。



「はぁ~~~、美味しかった!!今まで食べた料理の中で、一番美味しかったよ!!」


「あ、ありがとう。お代わりもありますよ!!」



 リスグラシューが嬉しそうに言う。



「これ…お姉ちゃんが作ったの?」


「そうよ」


「こんな美味しい料理が作れるなんて、料理の天才なんだね!!」


「て、天才だなんて…。私はまだ見習いですよ」


「お姉ちゃん絶対に料理の才能があるわ!!…え~とっ、お代わりいいですか?」


「いいわよ!!今度は具も多めにしておくわね」


「やった~!!」



 女の子は、弾けんばかりの笑顔で言った


 俺とアレグリア、そしてジュリアさんは、リスグラシューと女の子の会話を微笑ましく見守っていた。


 リスグラシューは人に自分の料理を食べてもらい、心の底から『美味しい』と言われ、感謝される喜びを知ったようだ。今の女の子の笑顔を一生忘れないだろう。


 女の子はソワソワしながら、リスグラシューのスープを待つ。


 

「お待たせしました。今度は熱いから、ゆっくり食べてね」


「はい!!」



 女の子は手を上げて答えた。可愛い!!


 みんな思わず笑顔があふれ、女の子に注目する。



「ふ~~、ふ~~、ふ~~」



 一生懸命、息を吹きかけてスープを冷ます仕草が可愛くて仕方がない。



「あ、熱い!!」


『大丈夫!?』



 全員が一斉に心配するが、女の子は何事も無く、美味しそうにスープを飲み、具を食べている。


 全員『ホッ』として、また見守る。



「あぁ~、美味しかった!!こんなに食べたのは、本当に久しぶりです。本当にありがとうございました」



 女の子は『ペコリ』と頭を下げて、お礼を言った。






【リスグラシュー視点】



(お腹に優しいスープ…。よし!!消化によい野菜を入れた栄養があるスープを作ろう。あの子に好き嫌いが無ければいいのですけど…)



 私は急いでキッチンまで行き、食材を用意する。


 女の子の事を考えて、食べやすい様に野菜を細かく切る。



(美味しく食べてくれるかしら…)



 全く知らない人に料理を食べてもらった事はない。正直に言って不安はある…が、そんな事を言っている場合ではない。自分もハヤト様に出会った時、凄く空腹で何も考えられない状態だった。ただ、さまようように歩いていた。きっと、あの子も…。



(…辛かったでしょうに。私が彼女にできる事といったら、美味しい食事を用意する事だけ。私も行く当ての無い身、これ以上の事はしてあげられない)



 私は自身の無力さを痛感する。



「よし、できたわ!!でも、少し冷まさないと…。目の前に食べ物を出されたら、我慢できずに食べて、火傷をしてしまうかもしれない」



 私は独り言を言いながら、スープを持っていくのを我慢し、少し冷めるまで時間を置く。


 スープを入れたお椀を触り



(よし。このくらいの熱さなら、急いで食べても大丈夫ですね)



 と思い、急いでダイニングに持っていった。



「お待たせしました!!」



 私は女の子の前にスープを置いた。そして、ジュリアさんの言葉を聞いて、女の子はスープを食べ始めた。


 女の子が無我夢中で食べている姿を見て『ホッ』と息をつく。



「はぁ~~~、美味しかった!!今まで食べた料理の中で、一番美味しかったよ!!」



 女の子は満面の笑みを浮かべて言った。



「あ、ありがとう。お代わりもありますよ!!」



 すかさず言葉を返しましたが、女の子の喜ぶ顔を見て『ホッ』とした感情とは別に、心の底から喜びが溢れてきました。



(やはりハヤト様のいう通りだわ!!私は料理で人を笑顔にできる)



 私は初めて人から必要とされる喜びを知ったのでした。


 

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