第36話 給仕のプロ アパパネ

「まあ、あの二人の事は後から話すよ」



 俺はそう言ってパスタ用のお皿とフォークを選ぶ。ジュリアさんとも相談して大量に購入した。


 俺は目的の物を購入したので、後は適当に見て回っている。



「そろそろ帰りましょうか」



 とジュリアさんが言ったので、俺達は店を後にして宿に帰る事にした。






 このリーズは商業都市で、他の土地と比べても雇用は比較的多い。だが、たくさんの人々が集まってくるので、あふれる者も少なくはない。



「お花いかがですか?」



 10歳くらいの女の子が道でお花を売っている。おそらくは両親がいない孤児だと思われる。今は戦争は無いが、医療が発達していないので病気で命を落とす者も少なくはない。


 比較的景気が良さそうに見えるが、光の部分だけではなく、闇の部分も確実に存在する。



「お花いかがですか?」



 泣きそうな小さな声で少女が言う。


 ジュリアさんとアレグリアは手を振って、要らないという意思を示す。先日、嫌な目にあったリスグラシューは、目を合わせないようにして通りすぎる。


 この対応は別にみんなが冷たい訳ではない。どうにもならないのだ…。



「……………」



 俺は無言で少女を見て、やりきれない気持ちになっていた。



(ここでお花を買ってあげても、根本的な解決にならないし…。この子供の様な状況に置かれている子供を全員救えるのか…)



 俺は自分の無力感にさいなまれる。



(せめてこの子供に進むべき方向性だけでも、アドバイスをしてあげられれば…)



 そう思い、俺は鑑定スキルを発動した。



「お、お兄さん。お花いかがですか?」



 少女はすがるような瞳で俺を見つめる。



(………たまらないな)



 やりきれない気持ちのまま、鑑定結果を確認する。





 アパパネ 12歳 身長151㎝ 体重35㎏ B71 W52 H72 処女


 戦闘 001/100 接客 076/100 内政 031/100 謀略 005/100


 魔法 000/100 家事 062/100 料理 047/100 生産 051/100


 農業 053/100 商業 047/100 礼儀 070/100 魅力 045/100


 外交 004/100 観察 065/100 信用 099/100 採掘 004/100


 鍛冶 001/100 研究 063/100 狩猟 001/100 解体 051/100




 いつものように、ほんの一部のステータスだが…。



(…この女の子。ベガに必要な人材じゃね?)



「あ、あの~。お願いします。お花を…」


「花なんていらない!!」



 女の子は『ビクリッ』として、目には涙がたまり今にも溢れそうになってしまった。



「ハヤト!!今の言い方はないんじゃない!!」



 アレグリアが珍しく感情的になって怒った。



「そうねぇ~。今のはハヤト君らしくは無いわねぇ~。年下の女の子には優しくね」



 ジュリアさんも苦言を呈す。



「ハヤト様、マリア様の使徒様としては、今のは不味いかと…」



 リスグラシューも自分が苦い思いをしたばかりなのにも関わらず、俺に対して注意を促した。


 みんな思うところがあるらしい。



「お花なんていらない!!俺は君自身が欲しい!!」



 俺の言葉に固まる女性達。



「へっ!?」



 女の子はおまぬけな声を上げた。



「ハッ!?」



 女の子は素早く立ち直った。



「わ、私は貧乏ですが、そんな安っぽい女ではありません。お金の為にこの身を売るなんて事は、絶対にしませんから!!」


「…君の体に何の魅力も感じていないから安心していいよ」


「あなた失礼な人ですね!!」



 女の子はそう言った後、電池が切れたように座り込んでしまった。



「大丈夫?」


「すみません。お金が無くて、ほとんど何も食べていなくて…」


「じゃあ、何か食べながら話そうか」



 女の子の持っていた荷物をマジックバッグに入れ『クリーン』をかける。



「ほえっ!?」



 再びおまぬけな声を出して驚く姿が可愛らしい。



「この女の子は『ベガ』に必要な人材です。とりあえず、話だけでもしたいと思うのですが…」



 俺はジュリアさんに頼み込んだ。



「とりあえずは話だけ…。その後の事は話を聞いてから判断しましょう」


「ありがとうございます」



 俺は強引に女の子をおんぶして歩き出した。






【アレグリア視点】


「お花いかがですか?」



 家までの帰り道で、お花売りの少女と出会った。私は手を振り『いらない』という意思を示す。



(買ってあげられない訳ではないのだけれど…でも…)



 そう思いながら少女の横を通り過ぎた。これはこの世界の日常、見慣れた光景で珍しい事では無い。



(私にもっと力があれば多くの人を救えるのに…)



 私は自分の無力を痛感し、こぶしを握り締める。


 ですが、ここでハヤトがとんでもない事を言い出したのです。



「お花なんていらない!!俺は君自身が欲しい!!」



 私は一瞬、耳を疑いました。



(プ、プロポーズ!?今、出会ったばかりの幼い娘に…)



 私だけではなく、お母さんとリスグラシューも固まってしまいました。女の子のほうも驚いて『へぇ!?』と面白い声を出していました。



「わ、私は貧乏ですが、そんな安っぽい女ではありません。お金の為にこの身を売るなんて事は、絶対にしませんから!!」



 女の子は言い切ったのですが、それを聞いたハヤトが



「…君の体に何の魅力も感じていないから安心していいよ」



 と、とても失礼な事を言い放ったのです。


 私は心の中で



(それはいくらハヤトでも失礼ですよ!!)



 と思ったのですが、同時に『ホッ』と胸をなでおろしたのでした。




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