第35話 試食のお願い

「ケーキってわかるか?ふわふわしたスポンジ状の物に、甘いクリームやチョコがコーティングされていて…。とにかく甘くて美味しい食べ物」



 自分の語彙力が無い事にがっかりしながらも、リスグラシューに説明をする。



「…ケーキですか…チョコ???、クリーム???」



 リスグラシューは目を閉じて考え込むが、やがて目を開けて首を振る。



「そうか…」



 コンビニに行くと、必ずスイーツを買っていた俺は少しがっかりした。


 元貴族のお嬢様のリスグラシューが知らないなら、この世界にケーキは存在しないのだろう。



(…存在しないなら、自分で作ればいいじゃない!!)



 俺は関わった人達の為に鑑定スキルを使うのとは別に、自分の生活を豊にするためにも鑑定スキルを使用する。


 ならば、また探し出してみせましょう。



(料理人とは別にお菓子を作る人を見つけ出そう)



 俺はお菓子職人(パティシエール)という言葉を聞いた事があったと思い出す。



(必ずお菓子職人を見つけ出す。でも最優先事項ではないので、今は一時棚上げにして置こう)



 俺は気を取り直して、買い物を続けていく。


 リスグラシューとジュリアさんに意見を聞き、だいたい必要な食材は買い揃えた。


 続いて宿の備品を見にいく。俺はパスタを盛り付けるお皿を見に行きたいとジュリアさんに伝えた。



「私のお気に入りの食器店があるわ」



 ジュリアさんはそう言うと、おしゃれな食器を専門に扱っている店に案内してくれた。


 俺はパスタに使えるお皿とフォークを捜していると、不意に後ろから声を掛けられた。



「ハヤト君!?」


「本当だ!!ハヤト、なにしてるの?」


「あっ!?こんにちは。ラモーヌさんにグレースさん!!」



 振り返ると、そこには美女が二人立っていた…しっかりと手を繋いでいる美女が二人。俺は好奇心を抑えきれず、思わず鑑定スキルを発動させてしまった。



「……………」



 鑑定により、現在の二人の関係が丸裸になる。



(結ばれたんですね。おめでとうございます!!)



 もちろん二人のプレイ内容もすべて俺には筒抜けになってしまった。



(ご、ごめんなさい!!ここまで知るつもりはありませ…。うわぁ~!!過激ですね!!そ、そ、そんなプレイまで!?で、でも…二人とも幸せで何よりです!!)



 俺は頭の中に流れ込んできた美女二人の過激なレズビアンプレイに、思わず赤面してしまった。



「どうしたの?顔が赤いわよ」



 ラモーヌさんが心配して聞いてきた。グレースさんも心配そうな顔をしている。まさか自分達の極秘のプレイ内容が知られているとは思ってはいない。



(興味本位で鑑定してごめんなさい)



 俺は心の中で謝って、何食わぬ顔をして話を始めた。



「ふふふっ、実は俺がお世話になっている宿に、天才料理人の卵がいるんです。その料理人の為にいろいろ買い揃えている途中なんです」


『へぇ~!?天才料理人…興味があります!!』



 二人が声を合わせて言った。


 俺はみんなを呼んで二人に紹介する。



「こちらが俺がお世話になっている『ベガ』を経営しているジュリアさん。そして、こちらが娘で冒険者のアレグリア。で、こちらが天才料理人の卵のリスグラシューです」



 俺がラモーヌさんとグレースさんを三人に紹介するが、三人が戸惑っている。



(ハヤト!?私達はどうすればいいのよ!!)



 という顔をして一瞬、俺を見た。


 三人の戸惑いは理解できる。俺も初見だったら戸惑うに違いない。三人の視線は固く握られた二人の手に集中している。



(ラモーヌさんとグレースさんは、もはや隠すつもりが無いらしい…)



 しかし俺のほうから『レズビアンカップルの二人です』と紹介するのも違う気がするので、華麗にスルーを決め込んだ。



 そしてお互いに軽い挨拶を終えて話に戻った。



「今度このリスグラシューが若い女性をターゲットにした料理を作る事になったので、お二人に試食のお願いをできないかと思っていました。商人ギルドまでお願いをしにいくつもりでしたが、幸いここで会えたので、お願いできませんか?」


「本当!?本当!!絶対に行きますよ!!」



 ラモーヌさんがノリノリで受け入れてくれた。隣にいるグレースさんもラモーヌさんが行くなら当然とばかりに快諾してくれた。



「じゃあ、一週間後に『ベガ』でお待ちしています」


「わかりました。楽しみにしています」



 俺達は試食の約束を交わして別れた。



「ハ、ハヤト。聞きたい事があるんだけど…」



 アレグリアが俺に耳打ちする。ジュリアさんもリスグラシューも『あの二人は…』という顔をして俺を見ている。



(わかりますよ。その気持ち!!)



 俺は二人に隠すつもりが無いのなら、恋人同士という事くらいは伝えても良いかと思いをめぐらした。






【アレグリア視点】


(…手を繋いでる!?)



 ハヤトから紹介してもらった女性二人が手を繋いでいる。その二人は子供というわけではない。明らかに私より年上の大人の女性です。


 ハヤトが私達を紹介する。



「こちらが俺がお世話になっている『ベガ』を経営しているジュリアさん。そして、こちらが娘で冒険者のアレグリア。で、こちらが天才料理人の卵のリスグラシューです」



 私は軽くお辞儀をして挨拶をしたのだけれど…相変わらず、二人は手を握ったままです。



(もしかして、この二人の女性は…恋人同士!?)



 私はハヤトに二人の関係を聞きたくて聞きたくて仕方がありません。



(女性同士で愛し合う人たちがいるという話は聞いたことがありますが、二人は凄く美人ですし、男性に見向きもされない事は無いと思うのですが…世の中、分からない事だらけですね)



 正直、16歳の私には難しすぎて、全く理解ができませんでした。

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