第31話 身も心も捧げます!!

「アレグリアとジュリアさん。あなた達二人はハヤト様の秘密を知っています。そして私も含めれば三人がハヤト様の秘密を知っている特別な存在なのです」


『特別な存在!!』



 アレグリアとジュリアさんはとても嬉しそうな顔をしている。



(ブロディさんも知ってますけど…)



 俺はそう思っても、口には出さない。なんか言うと怒られそうな気がする。



「そう…特別な存在。今は三人かもしれませんが、今後増えていくと思われます。なぜなら…ハヤト様の理想の世界を作り上げるためには人手が足りないからです」


「確かに…。私もまだ未熟者だし、お母さんもただの宿の経営者だし…」



 アレグリアが真剣な顔をして呟く。



「アレグリア、そんなに真剣に考えなくても…俺は気楽に…」



 残念ながら俺の言葉は届いていない。完全にリスグラシューの作りだした妄想の中に引き込まれてしまっているようだ。



「リスグラシューさん、私達はこれからどうしたらいいのかしら?」



(もうダメだ。ジュリアさんまでリスグラシューの世界に引き込まれている…)



「そうですね。ジュリアさんは宿の経営を安定させ、お金を稼ぐ事が大切です。綺麗事だけでは物事はうまく進みません。お金も非常に大切になります」


「わかりました。真剣に考えてみます!!」



 ジュリアさんはやる気に満ちた表情で言った。出会った頃のおっとりして緩い感じが無くなってしまったようだった。



「じゃあ、私は今まで通り槍の腕を磨いて、ランクを上げていく事に専念するわ!!」


「アレグリアさん、素晴らしい心がけです!!必ずあなたの力が必要になる時が来ます!!」


「任せておいて!!」



 アレグリアは近くに置いてあった槍を握りしめて言った。その表情は今までよりも一層、気合が入っているように見えた。



(俺、野望なんか何もないのに…)



 何か勝手に祭り上げられている感じがして、心の中で愚痴るしかなかった。


 どうしたものかと思い、もう一度リスグラシューの鑑定結果を見直すと…。



 リスグラシュー 15歳 身長153㎝ 体重39㎏ B76 W55 H78 処女


 戦闘 002/100 革新 082/100 内政 061/100 謀略 009/100


 魔法 000/100 家事 082/100 料理 079/100 生産 062/100


 性欲 031/100 思想 071/100 建築 011/100 魅力 067/100


 外交 075/100 交渉 019/100 信用 094/100 採掘 005/100


 弁舌 088/100 研究 078/100 狩猟 003/100 解体 071/100



 料理の値しか目に入っていなかったが、思想71、弁舌88、革新82もあるではないか!!料理より数値が高いじゃねぇか!!


 正直、無茶苦茶優秀なのだが、ヤべー奴でもありそうな能力をしていた。



「最後に…これが一番重要かもしれません」



 リスグラシューが真剣な眼差しで二人を見つめて話をする。



「私はハヤト様に身も心も捧げると誓っています。あなた達母娘にその覚悟はお有りですか?」


「当然じゃない!!私はハヤトについていくわ!!」



 アレグリアが力強く宣言した。



(本人の目の前で…照れる)



 美少女にあなたについていくと言われ、嬉しく思わない男はいない。しかし、ここまで真っ直ぐな気持ちを伝えられると、さすがに照れる。


 俺が一人で照れていると、ジュリアさんから超ド級の発言が飛び出した。



「私もハヤト君が望むなら…この身を差し出しても構いません!!」



 一瞬、アレグリアが『ふぁっ!?お母さん、何を言っているの!!』という顔をした。


 リスグラシューはそんなアレグリアを無視して、ジュリアさんを褒め称える。



「ジュリアさん、素晴らしい覚悟です!!未亡人のジュリアさんには様々な思いがあるでしょう。特に亡くなった旦那さんへの想い…。15歳の私にも想像できます。しかし!!ハヤト様の為、この世界の為に身も心も捧げるという…私はそんなジュリアさんを心から尊敬いたします!!」


「ありがとう!!リスグラシューさん」



ジュリアさんとリスグラシューが手を取り、見つめ合って頷く。



「はい。アレグリアさんもこちらへ来て…」



 リスグラシューはアレグリアを呼び寄せ、三人で手を握り合い誓いあう。



「これから私達三人で、創造神マリア様の使徒であるハヤト様を支えていきましょう!!」


「わかりました!!」


「う、うん…わかったわ…」



 リスグラシューの言葉にジュリアさんは決意の表情をし、アレグリアは多少戸惑っている。


 そして俺の気持ちは…。



(どうしてこうなった…。リスグラシューを助けた事に後悔は無い…が、こんな性格の娘だとは…正直、思わなかった)



 この先の事がとても心配だ。


 しかし、アレグリアが槍の才能を、ジュリアさんが宿の経営を、リスグラシューが料理の才能を高めていく事は重要だと思う。


 俺としても、その先を見据えなければいけない。野望なんて無いけど。


 という訳で…



「これから第一回 戦略会議を開催します」



 俺は高らかに宣言した。






【アレグリア視点】


(ハヤトが創造神マリア様の使徒!?)



 私はリスグラシューさんの言葉を聞いて最初は驚いたが、話を聞いているうちに本当にハヤトが使徒様と思えてきた。



(そして私は特別な存在…うふふふっ、特別、特別…)



私は無意識のうちに表情が緩んでしまう。



(も、もしかして、私がハヤトと森で出会ったのは偶然では無いかも…。あらかじめマリア様が決めた運命かもしれない。そうだ、そうに違いない!!)



 私は改めて槍の修練をし、ランクを上げる事を決意する。


 しかし…正直、お母さんには困ったものだ。



(ハヤトに身も心も捧げる!?な、何言っちゃってるの…お母さん!!)



 私は驚いてお母さんの顔を見るが、その眼差しは真剣そのものだ。完全に何か吹っ切れたような表情をしている。



(娘として嬉しいような…複雑な心境だなぁ…)



 私は戸惑いながらも、三人で手を取り合って、ハヤトを支えていくと誓い合ったのだった。






【ジュリア視点】


 私はリスグラシューさんの話を聞いて思う。



(私はもう一度、今から人生をやり直してみようと決意をしました。今までの人生を否定するわけではありません。ただ…このまま年老いていくのは我慢できないの)



 娘が連れて来た『鑑定スキル』を持つ異世界人の少年。



(私がこの少年にとって…特別な存在。特別な存在、特別な存在!!)



 この言葉を聞いたとき、私の体に稲妻が落ちたような衝撃を感じました。



(ハヤト君の為に何かしてあげたい。心からそう思う。そして彼が望むなら…36歳の体でいいなら、喜んで差し出します)



 私はアレグリアとリスグラシューさんの三人で、ハヤト君を支えていくと誓い合いました。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る