第28話 初めての料理

「俺の予想が正しければ、一度料理を作るところを見れば、ある程度の物が作れると思います」


「本当に?…」



 ジュリアさんは半信半疑という表情をしている。



「…おそらくは…というところですが…」



 俺は半信半疑のジュリアさんを見て、少し自信が揺らいだ。



「ハヤト様、どうして自信が無さそうに言うのですか?もっと自信を持ってください。わたしは上手くいきそうな予感がします」



 リスグラシューはなぜか自信満々な様子である。


 俺は思わずリスグラシューに聞いた。



「その自信はどこから来るんだ?」


「私はハヤト様を疑う事はありません。全面的に信頼しています。ハヤト様が私に料理の才能があるというなら必ず才能があります!!」


「うふふっ、若さって良いものね」



 ジュリアさんが優しく微笑んで言った。



「ジュリアさん、これは若さではなく、馬鹿さです」


「酷いです…ハヤト様!!」


「でも、その馬鹿さで突っ走るのも悪くない。冒険者だと命取りにもなりかねないが、料理人だったら危険もないしね」


「そうです。その通りです!!」



 俺たち三人はキッチンに移動をして、簡単な料理を作る事にした。



「とりあえず…スープを作ってみましょう」



 ジュリアさんが『スッ』と野菜を用意した。そして…鍋に水を入れ、切った野菜を次々にぶち込んでいく。ぶち込んでいくという表現は間違いではない。ジュリアさんは本当に野菜を鍋にぶち込んだのだ!!



「ルン♪ルン♪ルン♪」



 ジュリアさんは鼻歌を歌いながら鍋の中身をかき混ぜている。料理をする姿だけ…姿だけを見たら満点をつけたいのだが…。



「……………」


「……………」



 俺とリスグラシューは無言でジュリアさんを見ている。ただ、リスグラシューは初めて人が料理をする所を見て、思うところが多々あるようだった。何か言いたそうである。


 ジュリアさんは沸騰した鍋の中に塩を入れ、さらに煮込む。



「ルン♪ルン♪ルン♪…うふふっ。出来ました!!」



 ジュリアさんのスープが完成した。完成したのだが…間違いなく美味しくないのが分かっている。普通に食卓に出されても美味しくないのだ。料理をする過程まで見てしまったら…食べなくても味が分かるというもの。


 しかし、食べないわけにもいかない。俺とリスグラシューはスープを試食する。



「う~ん。塩の味しかしませんね…。しかも…かなり塩辛い」



 リスグラシューが毒舌を放つ。悪気はないのだ…悪気は。


 そう言われたジュリアさんも自分の作ったスープを口にした。



「確かに塩辛い気はするけど…こんなものでしょう」


「!?」



 リスグラシューがジュリアさんの言葉を聞き、驚きの表情をした。



「リスグラシュー、一回見ただけで作る事はできるか?」


「…はい。何と無くですけど、ジュリアさんの作る過程を見せて頂き、イメージが湧いてきました。ぜひスープを作らせてください」


「じゃあ、お願いするわね。私のスープより美味しいのは当然で、どこまで美味しいスープができあがるのか…期待しています」



 リスグラシューはジュリアさんの許しを貰い、人生初の料理に挑戦する。



 リスグラシューはまず、数種類の野菜を一口大の大きさに切っていき、鍋で炒め始めた。塩を振り、弱火で丁寧に炒めていく。



「野菜炒めを作る気?」



 ジュリアさんが驚いて質問した。



「いえ。何と言いますか…ジュリアさんの作ったスープの中の野菜が…若干ですが…中心部分が固かったので…何と無くですけど…一口大に切って、炒めてから水を入れて煮込んだ方が良いかと思いまして…」



 リスグラシューは少し言いにくそうに話した。思い込みが激しいところはあるが、根は優しくて、とても性格が良い娘なのだ。



「なるほど…」



 ジュリアさんも自分の料理の下手さを理解しているので、文句は言わない。ジュリアさんも優しい大人の女性なので、まるで自分の娘(アレグリア)を見守っているような眼差しでリスグラシューを見ている。


 野菜がしんなりしてきたところで水を入れ、弱火でコトコト煮込んでいく。少しアクが出て来たので取り除き、最後に塩で味を整えて完成した。


 スープがキラキラと輝き、見た感じで美味しいと分かった。



「合格です!!」


『えっ!!』



 ジュリアさんが食べる前に合格と言ったので、俺とリスグラシューは驚いて、思わず大きな声を上げてしまった。



「試食…まだですが…」


「食べなくてもわかりますよ。私の作ったスープと明らかに違うじゃないですか!!」



 俺の言葉にジュリアさんが即答した。


 そしてリスグラシューは『ドヤ顔』で俺とジュリアさんを見ていた。






【リスグラシュー視点 恵まれない人に…】


 商店を飛び出し、行く当てもなく街をさまよう。



(足が痛い。まるで棒になったようだわ…)



 私は足の痛みに耐えながら、憂鬱な気持ちで当てもなく歩いている。普段は歩いて外出をしないので気が付かなかったが、道端には恵まれない人達が目に付いた。


 突然、前から歩いてきた男性がお腹を押さえ、うずくまった。



「大丈夫ですか!?」


「何も食べてないんです…何か食べ物を…」



 私は何も考えずに



「食べ物は持っていないので…これで何か買って食べてください」



 私は僅かではあるがお金を渡した。



「あぁ~~。ありがとう…ありがとう」



 男は立ち上がり、足取りも軽やかに去っていった。


 私は少しの違和感を感じていたが、ふっと気づけば、周りに人が集まっていた。



「私も昨日から何も食べていないんです…」


「娘が…娘がいるんです。どうかお慈悲を…」



 私は自分の出来得る限りの事をと思い、僅かではあるがお金を渡していった。



「どうしましょう…」



 一か月は何とかなると思っていたお金が…ほとんど無くなってしまった。何とか宿に泊まり、翌朝を迎えるが…。


 見覚えがある人達が、道端で寝転がっていた。そして周りにはお酒の瓶が転がっている。


 私は娘がいると言っていた男性を起こして聞いた。



「何でこんなところでお酒を…。娘さんがいるのでしょう!?」


「あぁ!?昨日の娘か…うるさいんだよ!!」


「私の差し上げたお金でお酒を買ったのですか!?」


「私のお金だぁ~。あの金は俺の金だ!!酒を買って何が悪い!!酒だ、酒!!酒買ってこい!!」


「なっ!?」



 私は言葉を失い、その場で立ち尽くす。



『酒!!酒買ってこい!!』



 周りにいた人間が騒ぎ出す。


 私は一刻も早くここから立ち去りたく、何も考えずに走り出した。ただこの場から立ち去りたかった。逃げ出したかった。あの人たちの目を見たくなかった。


 私は気が付いたら、リーズ行きの馬車に乗っていた。

 



 



 

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