第26話 君は超一流の料理人になる!!
俺はリスグラシューと話をして、絶対にこの娘を宿に連れて帰ろうと思った。そのためには、まず自分の秘密を話して、信用してもらう必要があるだろう。
「誰にも言わないで欲しいんだけど、実は俺…鑑定スキルを持っているんだ」
「………鑑定スキル?…ごめんなさい。私は鑑定スキルを信じていないのよ」
「えっ!?」
「去年、亡くなったって聞いたけど、隣国に鑑定スキルを持っているという人がいたわ。でもね…高いお金を払って鑑定してもらったのはいいけど、大した事はわからないとよく聞くのよ。だから鑑定スキルを持っていると嘘をついていた『詐欺師』という疑惑があったのよ」
なるほど…。リスグラシューのいう事は理解できる。可能性として占い師みたいなものかもしれない。バーナム効果といって、誰にでも当てはまる事を『自分の事がわかっている』と思い込ませるテクニックを駆使すれば…不可能ではない。
「でも、俺がリスグラシューに話した事はどう思う?ここ数日の出来事を正確に言い当てたよね。俺がリスグラシューの事を鑑定しなければわからないんじゃないの」
「う~~~ん…」
リスグラシューは腕を組み考える。そして机の上に古びた人形を一体置いた。
「この人形、私にとって大切な物なの…。鑑定してもらえる?」
「お母さんの形見だね。リスグラシューが9歳の時に亡くなったお母さんの唯一の形見。幼い時、いつもこの人形で遊んでいたからかなり傷んでる。でも人形が傷むと、お母さんが自分の手で直してくれたんだね。お母さんとの思い出が詰まったリスグラシューの宝物だね」
「こんなに早く………凄い。そう…この人形は私の宝物」
リスグラシューは人形を胸に抱いて
「ハヤトを信じてみる。もう一度だけ…人を信じてみるわ!!」
そう言ってくれた。
「ありがとう。俺はリスグラシューにどうしても頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事?私にできる事なら喜んで協力したいと思うけど…本当に私に何かの才能があるのかしら…」
少し戸惑い気味のリスグラシュー。
「俺の為に料理を作ってくれないか!!」
リスグラシューは、一瞬『キョトン』とした顔をするが、すぐに顔が赤くなり
「い、いきなり…そ、そんな事を言われても、心の準備もありますし…。第一、ハヤトとは今あったばかりで…まずはお友達からお願いしたく…」
リスグラシューはテンプレのような勘違いをした。だが、元貴族のご令嬢とはいえ、15歳の女の子である。恋愛事には興味津々といった様子でもあった。
「ごめん。言葉が足りなかった。リスグラシューには料理の才能があるんだ。だから俺がお世話になっている宿で料理を作って欲しいんだよ」
「えっ!?あっ…あぁ~。…はっ!?私に料理を作る才能!?」
「そう!!超一流の料理人になる才能がある!!」
興奮気味に説明する俺に対して
「ハヤト…私は料理を作った事がないばかりか、厨房に入った事さえないのです。私に料理の才能があるとは到底思えませんわ。それに…料理は使用人が作るものだと言われ、育ってきたので…」
リスグラシューは、一度も作ったことの無い料理の才能があると言われ、困惑している。
(わかるよ…その気持ち。俺だって世界的ピアニストになる才能があったと言われたとき、どんなに困惑した事か!!)
「リスグラシューは『自分で料理を作る気は無い』と思う気持ちがあるのか?」
「い、いえ。そんな事は思っていません。それに…これから生きていくためには、働かなくてはなりませんから…。でも…やっぱり、一度も作った事が無いので…」
「リスグラシュー、君はこれまでに一度も料理を作った事が無かったから、自身の持つ料理の才能に気づかなかっただけだよ。がんばって努力すれば、すぐに成果として現れてくると思うから…俺を信じてくれないか!!」
「はぁ~…。行くあてもありませんし…ここはハヤトを信じてみましょう」
リスグラシューは半信半疑ではあるが、俺の提案を受け入れてくれた。
「よし!!どうせお客さんは来ないから、今日は店を閉めて宿へ帰ろう」
「えぇ~!?いいんですか!?」
「開店以来、お客さんは1人しか来ていないから大丈夫!!」
「お、お客さんが1人…私、ハヤトの事を信じていいのか、少し不安になってきました…」
俺は驚いているリスグラシューの耳元で
「鑑定スキルの事は公表していないからね。だからこんな16歳の子供に相談をする人はいないんだよ。あと、リスグラシューも鑑定スキルの事は誰にも言わないでくれよ」
と、お客さんが1人の説明と、鑑定スキルの非公表をお願いした。
「当然です。まだ全面的に鑑定スキルの事を信用したわけではありませんが、約束は必ず守ります」
「ありがとう」
俺は机と椅子を背負い、人の気配がない所まで行く。
リスグラシューは黙って後ろからついてくる。なぜ、こんな所にという顔をして…。
「あぁ~重い」
俺はそう言ってから、机と椅子をバッグに入れた。
「マジックバッグ!?マジックバッグなの!?」
リスグラシューが大きな声を上げた。
「この不思議なバッグ。マジックバッグっていうのか?」
「何で自分のバッグなのに知らないのよ!!」
「ごめん。創造神様から何の説明も受けていないからね」
「そ、創造神様!?」
「あっ、ごめんね。まだ話していなかったけど、俺は異世界人なんだ」
「えっ、えぇ~、えぇぇぇ~~~!!」
リスグラシューは面白いくらいに驚いていた。
【リスグラシュー・ド・アングラード】
私は久しぶりにお父様から呼び出された。私のほうから『会いたい』と言っても会ってもらえない。本当に久しぶり…。
(お父様に領内の恵まれない人々に対しての慈悲をお願いしたい)
そう思い、お父様の執務室に入る…が、私に目を向ける事なく
「婚姻が決まった。相手はラーク商会の隠居、歳は72。詳しい事は明日連絡する。下がってよし」
私は呆気にとられたが
「お断りします」
そう答えた。何も考えず、自然に口から出てきた言葉。
お父様は一瞬だけ私を見たが
「そうか…ならばよい。侯爵家より、今すぐ出ていけ」
「おまちください!!私の話を…」
私は執事に両腕をつかまれ、強引に部屋から追い出された。
追い出されるとき、最後に聞いたお父様の言葉は
「一度でも嚙みついた犬は信用できん。必ずまた噛みつく」
だった…。
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