第24話 侯爵家を追放された元お嬢様

 グレースさんは『フラフラ』になりながら、歩いて帰っていった。頭の中はエロで一杯なのだろう。お気持ち…痛いほどわかります。


 日が陰って暗くなってきたので、俺も店じまいして、足早に宿へ帰る。


 宿に着くとアレグリアが既に帰って来ていた。



「…お客さん、来た?」



 心配そうに聞いてきた。開店以来、お客さんが一人も来ていない事を、アレグリアは知っている。


 俺はポケットから1万エン金貨を取り出して、アレグリアに見せた。



「お客さん、来たの!!やったじゃない!!」



 アレグリアはまるで自分の事の様に喜んでくれた。


 俺は少し照れながら



「まあ、お客さんと言っても、商業ギルドで会った、受付のお姉さんだけどね」



 と言うが、アレグリアは



「お金を払って相談をしてくれたんでしょう。それだけハヤトの事を評価してくれているって事じゃない!!自信を持ってもいいと思うよ」



 と言って、俺の手を握り、満面の笑顔になる。そしてそのままジュリアさんのところまで行き、相談の依頼者が来た事を、嬉しそうに話してくれた。



「ハヤト君、おめでとう!!」



 ジュリアさんも俺の手を取って、三人で一緒に喜びを分かち合った。






 翌日、店を開店したものの、お客さんは一人も来ない。



(まあ…分かっていたけどね…)



 特にショックなどは無く、椅子に座って、道行く人の中に料理の才能がある人がいないか捜す。今までに3000人程鑑定しただろうか、なかなか料理の値が高い人が見つからない。あと、鑑定した結果を見て思ったんだが、創造神様の言っていた事は本当で、人はそれぞれ光る才能を持っていた。ただし…その才能を生かしていると思える人がいない事に心が痛んだ…。


 俺は道行く人を鑑定し、料理の才能が無い人の鑑定結果は破棄していった。


 道を歩いている見知らぬ商人に



「あなたには商人の才能は有りません。今すぐ廃業して違う道を捜すべきだ」



 とは言えるわけがない。だから鑑定結果は破棄をする…しかないのだ。


 色々と思うところはあるが、気を取り直して鑑定を続けた。


 




 そして…やっと見つけた…。道の隅を無表情で歩く金髪の美少女。彼女の料理の数値は79とかなり高い。15歳という年齢を考えても、まだまだ成長が見込めるだろう。


 しかし彼女には、もはや感情が無く、死に場所を捜しているようだった。実際、この道の先には大きな川が流れている。彼女はその川に身を投げるために歩いているのだ。


 俺は料理の才能とは関係なく、彼女を助けたいと思った。



(あの絶望と孤独…そして未来に一切の希望が見えないという感情…前世で死ぬ直前の俺と瓜二つじゃないか…)



 俺は居ても立っても居られず、彼女に声をかける。道で女の子に声をかける事なんか初めてだが、彼女を助けたい一心で自然と体が動いた。



「お嬢さん、僕はここで人生相談所を開設しているハヤトと言います。もし良かったら、相談していきませんか?きっと良い事が起こると思いますよ」


「……………」



 女の子は無言で看板を見て



「私には1万エンというお金は…もうありません。私には…もう…何も残ってはいないのです」


「お金は後払いで結構ですよ。僕の話を聞いてから判断しませんか?川に身を投げる事は…」


「!?」



 いきなり心で思っている事を言われて驚く少女。



「さあ、さあ。ここに座って。話はそれから!!」



 強引に彼女を座らせ話を始める。



 リスグラシュー 15歳 身長153㎝ 体重39㎏ B76 W55 H78 処女


 戦闘 002/100 革新 082/100 内政 061/100 謀略 009/100


 魔法 000/100 家事 082/100 料理 079/100 生産 062/100


 性欲 031/100 思想 071/100 建築 011/100 魅力 067/100


 外交 075/100 交渉 019/100 信用 094/100 採掘 005/100


 弁舌 088/100 研究 078/100 狩猟 003/100 解体 071/100



 鑑定結果の一部だ。いつもの通り、膨大な情報が俺の頭の中に流れ込んできた。


 彼女はかなり戸惑っていたので、まず自己紹介から始める。



「さっきも言いましたけど、僕の名前はハヤト、ここで人生相談所を開設しています。でも、全く人気が無く、お客さんは君で二人目です。あはははっ」



 俺は彼女の緊張を和らげようと、冗談と笑いを入れて自己紹介をした。



「わ、わたしはリスグラシュー・ド・アング…い、いえ…リスグラシューと申します」



 彼女はうつ向きながらも、俺に自己紹介をしてくれた。



「あなたの元の名前は、リスグラシュー・ド・アングラード様。アングラード侯爵家の…元ご令嬢。今は侯爵家を追放され、ただのリスグラシューさんですね」


「な、なぜ…」



 彼女は顔を上げ、驚きの表情をして俺を見た。






【アレグリア視点】


(ふふふっ!!ハヤトの人生相談所にお客さんが来た!!嬉しい…自分の事の様に嬉しい!!)



 私は無意識のうちに笑顔になってしまう。



(ギルドで知り合った受付のお姉さんと言ってたけど、一万エンを支払ってまで相談してくれたって事は、きっとハヤトを評価してくれているはず…。でも本当は一万エンでも安すぎなんだけどね)



 私はハヤトが正当な評価をされて欲しいと思っている。鑑定スキルを持っているのよ。一万エンなんて格安中の格安よ!!



(でも、ハヤトは嬉しそうだったし、今はこれで良しとしましょう)



 私はそう思ってお母さんのところに行って三人で喜んだ。



【リスグラシュー視点】


(…もう何も信じられない。この先には大きな川が流れている。橋から飛び込めば…楽になれる)



 私は自分の甘さを痛感しながら、死に場所を求めてさまよっている。もうお金もない。今日は朝から何も食べてはいない。とにかく楽になりたい…それだけしか考えられない。



「みんな、幸せそう…」



 誰にも聞こえない声で呟く。


 私は道行く人達が全員幸せに見える。実際には人に言えない悩みや苦しみがあるのだろうが、幸せに見えてしまう。そしてさらに自分が辛く、惨めな気持ちになる。ずっとそのループが続いている。


 もうすぐ川が見える…そう思った時



「お嬢さん、僕はここで人生相談所を開設しているハヤトと言います。もし良かったら、相談していきませんか?きっと良い事が起こると思いますよ」



 一人の少年が私に声をかけてきた。


 私はこの出会いが生きる勇気と希望を与えてくれることになる『運命の出会い』だという事を、まだ知らずにいたのだった。

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