第23話 深刻な悩み

 グレースさんの気持ちは聞かなくてもわかっているが



「行きたくないのですか?」



 と聞いてみる。


 そして案の定



「行きたくない訳が無いじゃない!!」



 という予想通りの返事が返ってきた。


 そしてグレースさんは目を閉じ、勝手に喋りだした。



「ラモーヌ先輩と二人きりで食事をしてから、先輩のアパートへ…。二人でお酒を飲んで、色々な話をするの。ふふふっ、ラモーヌ先輩の白い肌が桜色に染まり、私に身を任せる様に寄り掛かってくる。そして…ぐへへへぇ~~~」



 グレースさんは、まるでエロ親父の様な下品極まりない声を出して笑った。


 さすがの俺もドン引きする。



(もしかしてグレースさんの中身は、俺の様に転移してきたおっさんなのかもしれない)



 と一瞬考えてしまった。まあ、それはあり得ないのだが…。



「グレースさん、そんな下品な笑い方をしたら、ラモーヌさんから嫌われてしまいますよ」



 俺の言葉を聞き、グレースさんは『ハッ』とした顔をする。



「ご、ごめん…。最近、妄想が止まらなくて…」


「その妄想が現実になるかもしれないのですから、もう少しの我慢ですよ」


「それはそうなんだけど…。心配事があるのよ」


「お聞きしましょう。なるべく恥ずかしがらずに、詳しく話してください」


「…わかったわ」



 俺にとって、初めての有料相談である。



(グレースさんの心配事を解決してあげましょう!!)



 無意識のうちに気合が入る。



「じ、実は…私は…ベッドの上ではネ、ネ、ネコなのよ!!恥ずかしくて自分からは何もできないの。だから…今更だけど、ネコ同士が付き合って、上手くいくのか心配になってしまって…」


「何の心配ありません」



 俺はあっさりと答える。


 俺の答えにグレースさんは反論をする。



「ハヤト、もっと真剣に考えてよ!!1万エンも取っておいて、それは無いわ!!」


「では聞きますが、ネコ同士と言われましたが、その根拠を教えてください」


「だから、私はネコなの!!究極のネコなのよ!!」


「だ・か・ら!!ラモーヌさんがネコという理由ですよ!!」


「はっ!?」



 グレースさんは『何言ってんだ、こいつ』という顔をして俺を睨みつけてきた。



「ハヤト、あなたの言い方は、まるで先輩が『タチ』とでも言いたそうに聞こえるわ」


「……………」



 俺は無言でグレースさんの話を聞く。



「先輩が『タチ』のわけが無いじゃない!!可憐で繊細、微笑む顔は…女神様。あぁ~、私の女神様!!」


「……………」



 グレースさんは自分の世界に入り込み、ラモーヌさんを絶賛していく。



「先輩は勇気を振り絞って、私を誘ってくれたのよ。その時の先輩の恥ずかしそうな顔は忘れられない。私は毎晩『おかず』にして一人で…」



 グレースさんの口が半開きになり、涎が垂れている。



「グレースさん!!涎、涎!!」


「ハッ!?」



 グレースさんは慌てて涎を拭く。



「と、兎に角、先輩が『タチ』なんて、あり得ない事よ!!」


「グレースさん、落ち着いてください。一旦、冷静になって考えましょう」


「……………」



 グレースさんはとても不満そうな顔をして、無言になってしまった。



「考えてみてください。俺の言う事で、今まで間違いがありましたか?」


「………ない…わ」


「普通に考えてみれば、グレースさんは『タチ』に見えます。でも実は…『ネコ』です。同じように考えてみてください。ラモーヌさんも『ネコ』に見えて、実は…。あり得ると思いませんか?」


「…でも…そんな事が…」


「あったら困るのですか?」


「…困らない。むしろ…天国」



(よし!!あと一息!!)



「僕は何も考えずに、二人の仲を取り持ったわけでは無いですよ。グレースさんは『究極のネコ』で、ラモーヌさんは『究極のタチ』なので、相性は完璧だと思っていますよ」


「…相性は完璧」


「そう!!二人の相性は完璧です!!グレースさんが夜な夜な妄想している『あんな事やこんな事』まで、ラモーヌさんはしてくれます!!」


「あ、あ、あ、あんな事やこんな事まで!?」



 グレースさんの顔は一気に真っ赤になり、放心状態になってしまった。






【グレース視点】


(先輩がタチ…しかもハヤトは究極とも言っていた。究極のタチ…素敵な響き)



 私の頭の中は、エロ要素でパンクしそうになっていた。



(本当に私が夜な夜な妄想していた『あんな事や、こんな事』まで、グレース先輩はしてくれるの?)



 私はハヤトの言葉を聞いてから、すべての事が上の空になってしまっている。


 そして脳裏に先輩の顔が浮かび上がって無意識のうちに妄想が始まる。



《グレース妄想中》


「グレースさん!!二人きりの時には『お姉様』とお呼びなさい!!」


「はい。ラモーヌお姉様!!」


「いい子ね。じゃあ四つん這いになりなさい!!」


「よ、四つん這いに…恥ずかしい…です」


 

 お姉様は口答えした私のお尻を叩く。



『パシーン!!』


「いや~ん!!」



 私は思わず、歓喜の声を上げてしまう。


《グレース妄想終了》



(…本当にこんな夢のような事が現実になるのだろうか?)



 私は妄想から現実に戻るが、期待せずにはいられなくなってしまっていた。

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