第20話 人生相談所、開業です

「さて…今から人生相談所の準備をするので部屋に戻るね」


「準備って何をするの?」



 アレグリアが『おもしろそう』という顔をして聞いてきた。



「机と椅子を二つ買って来たから、あとは看板かな…。机の上に置いて、周りの人達に人生相談所と分かるようにしないといけない。」


「ふ~ん…。手伝ってあげようか?」


「残念だけど、手伝ってもらう事も無いんだ。簡単なものだから、すぐに終わってしまうからね」


「な~んだ」



 アレグリアはつまらなそうに自分の部屋に戻っていった。


 しばらくして俺も部屋に戻って、簡単な看板を作った。


 看板には



 『人生相談所~あなたのお悩み解決します~ 1相談1万エンより』



 と書いてみた。



(しかし…机と椅子二つと看板、持ち運ぶのが大変だなぁ)



 俺はどうしたものかと考えていたが、マリア様からもらったバッグに入らないかと思い、近づけてみた。



(バッグに入ったら、持ち運びが楽なのに…)



 と考えると、椅子二つと看板が消えてしまった。



「おぉ~、凄い。中に入った!!」



 俺は瞬間的にバッグの中に入った事がわかった。面白くなり、今度はベッドにもバッグを近づけてみた。



(入らないかな…)



 と思うと、ベッドまで消えてしまった。どうやら俺が『入れ』と思ったものは入るらしい…。便利なものである。俺はバッグの中に手を入れ、ベッドを取り出すイメージをして手をバッグから出す。するとベッドがバッグから出てきた。



(ふふふっ、完璧だ!!これで準備は終了。もしも…お客さんが殺到したな困るなぁ~)



 などと、呑気な事を考えてベッドに寝転んだ。






 翌日、宿を出て出店エリヤに行ってみると、既にたくさんの人が店を出していた。もちろん人通りの多い場所はすでに埋まっていて、俺は人気エリアを諦めて、少し人通りの少ない場所へと移動した。建物の陰で人に見つからないように机と椅子、それに昨日作った看板を取り出だし、担いで空いている場所まで移動をする。


 なぜ建物の陰かというとアレグリアが



「絶対に人前で使ったらダメだからね!!」



 と言うからだ。かなり珍しくて高価な物らしい。



「この場所空いていますか?」



 近くにいる40歳位のおじさんに聞いてみた。



 「空いてるよ。でも近くの人と商品が被るといけないから、何を売るつもりか教えてくれないか」



 当然の反応。まだまだ空いた場所がたくさんあるのに、同じ物を売る店が並んで出店する意味は無い。



「物を売るつもりは無いです。僕はこの場所で人生相談所を開きます」


「…子供の君が?」



 この世界は15歳で成人なので実際には大人なのだが、16歳だと子供に見えてもおかしくは無い。



「俺は16歳なので、もう大人ですよ。大体、子供だったらギルドから許可が出ませんから…」


「まあ、確かに…。い、1相談1万エン!?」



 おじさんは俺が設置した看板を見て驚いていた。



「君…その価格設定で大丈夫か?」



 おじさんが心配そうに聞いてきた。鑑定はしていないが、良い人なのだろう。本気で心配してくれているようだ。



 俺はおじさんに対して



「俺は安売りをしないタイプなので!!」



 と『キリッ』と言った。



「………そ、そうか…まあ、頑張れよ」



 おじさんはそう言って、自分のエリアで準備を始めた。


 商品が無いので一分で準備を終えた俺は、椅子に座り道行く人を眺めていた。ただし、ただ眺めているだけではない。料理の才能がある人間がいないか鑑定をしながら眺めているのだ。


 結局初日はお客さんは一人も来ずに店を閉じた。また、料理の才能を持った人間も見つからなかった。



(まあ、こうなるだろうな…)



 俺も馬鹿ではない。本当は価格設定が高すぎる事や、俺みたいな若い奴に相談する人がいない事はわかっている。ただ…無料にしてみんなにアドバイスをするとなるとキリがないのだ。今になって創造神様が言っていた『一人一人に教えて回るわけにもいかないわ』という言葉の意味が分かった。しかも俺は神ではない。ただの人間なのだ。


 現実の問題として、普通に生活をして知り合った人達に、必要なら鑑定をしてアドバイスを送る事くらいしかできないだろう。できる範囲でいいのだ…できる範囲で。



(形だけ整えて、しばらく様子を見るか…)



 俺はどういう方向性で生きていくべきか、自問自答しながら宿まで戻った。






【アレグリア視点】


(ハヤトもこの世界で前向きに頑張って生きていこうと行動を始めた。私も負けてはいなれないわ!!)



 私は自室に戻り、イメージトレーニングを始める。



(まずは自分の姿を思い浮かべる。しっかり重心を落として構え、相手から視線を外さない。そして…武器を持っているほうの肩を槍で狙う。一撃必殺…先制攻撃で相手の攻撃力を奪い勝負を決める。私の戦闘スタイル)



 何度も何度も戦闘のパターンを変えてイメージする。これがなかなか疲れる。


 このイメージした事を、明日実際に動いて体に叩きこむ。



(本当に模擬戦の相手が欲しい…。ハヤトに依頼をだそうかなぁ…)



 私は真剣にハヤトへの仕事の依頼を検討する事にした。もちろん料金は後払いで…。



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