第19話 何気ない日常が嬉しい

「ハヤトも帰って来ていたのね」


「うん。今、帰ってきたところだよ。アレグリア、何か手ごたえをつかんだようだね」


「うふふっ、わかっちゃう?」


「昨日とは表情が全然違う。まるで別人の様だよ」



 アレグリアはとても嬉しそうに



「全てハヤトのおかげよ。まだ槍を持って一日目だけど、何ていうか…期待感が今までとは全然違うのよ」



 アレグリアが自身の手の平を見つめて言った。



「この手に槍を握ったときの手の平の感触、重心の安定感、流れるような体の動き…どれも剣を使っていた時には感じられなかった感覚よ」



 熱く熱く語りだすアレグリア。



「ただ…模擬戦の相手が欲しいわ…。頭の中でイメージして体を動かすだけだと限界があるよね…」


「確かに…もう一人いれば、修練の幅が広がるね。知り合いで使えそうな人はいないの?」


「昨日までの私なら相手はいくらでもいたわ。それも格上の相手…。でも…自分で言うのもなんだけど、今の私にとっては相手にならないと思うの」


「一気に実力が上がるのも考え物だな。でも弱いままよりも断然いいだろ?」


「間違いなくそう思うわ!!」



 俺は自信に満ちた表情のアレグリアを見て、とても嬉しく思えた。



(このまま順調に階段を駆け上がってほしいな)



 と思っていると


 ジュリアさんが紅茶を入れて戻ってきた。



「おかえりなさい、アレグリア」


「ただいま!!」


「あらあら、元気な事ね。汗をかいているでしょ。服を着替えてきなさい。汗臭い女の子なんて嫌われちゃうわよ」



 ジュリアさんが俺のほうを『チラリ』と見て言った。


 アレグリアは一瞬『ヤバイ』という顔をして、一旦自室に戻ろうと立ち上がるが



「クリーン」



 俺は素早くアレグリアに魔法をかけた。



「あぁ~!!気持ちいい!!」



 アレグリアは目を閉じ、全身が爽快感に包まれる。



「便利ねぇ~」



 ジュリアさんが俺を見てしみじみと言った。



「ありがとう、ハヤト。一瞬で爽やか美少女になったでしょ!!」


「自分で言う?」


「自分しか言ってくれる人がいないからね…」


「昨日俺が言ったじゃん!!アレグリアほどの美少女を見たのは初めてだって」


「そ、そうだったわね…」



 アレグリアは昨日森の中で言われたことを思い出し赤面してしまった。



「そんな事を言われたの?羨ましいわ。だから好きになっちゃったの?」



 照れるアレグリアを見て、からかうようにジュリアさんが煽る。


 さらに赤くなるアレグリア。頭から湯気が出ているように見えた。



「わ、私の事はどうでもいいから、ハヤトのほうはどうだったの?ちゃんと許可がもらえたの?」



 必死に話題を変えようとするアレグリアが可愛らしい。



「もちろん!!明日から人生相談所を開設するよ」


「やったじゃない!!でも…お客さん来るかな?」



 アレグリアはやはり相談者が来るか疑問のようだった。



「人生相談ねぇ~」


「ジュリアさんも難しいと思いますか?」



 人生相談所と聞いて考え込むジュリアさんに聞いてみた。



「お値段はおいくらかしら?」


「一つの相談に対して1万エンにしようと思っています」


「……………」


「…ジュリアさん?」



 値段設定を聞いて固まってしまったジュリアさんを見てアレグリアが



「ハヤト、お母さんが普通の反応だからね。もう少し考えた方が…」



 と俺に苦言を呈する。



「まあ、商業ギルドのお姉さんたちにも同じ事を言われたよ。これでは許可はできませんってね」


「…でしょうね」



 アレグリアが納得という顔をして言う。



「でも、さっき許可がもらえたと言ってたわよね?」


「そうなんですよ、ジュリアさん。ギルドのお姉さん達の相談に乗って、見事に問題を解決して見せたんですよ」


「へぇ~、凄いじゃない!!」



 ジュリアさんは素直に感心しているがアレグリアは



「ねえねえ、どんな相談事を解決したの?」



 興味津々という顔をして聞いてきた。



「それは…」


「それは?」


「絶対に言えません!!」


「なんでぇ~!!気になるじゃない!!」



 ふくれっ面をするアレグリア。いちいち可愛らしい。



「相談相手の秘密を守るのは基本中の基本だからね。俺が『ペラペラ』と相談者の事を話したら、誰も俺を信用して相談できないよ」


『確かに!!』



 アレグリアとジュリアさんは俺の言い分に納得し、感心していた。俺はそんな二人を見て、思わず『ドヤ顔』をしたのであった。






【アレグリア視点】


 私は集中して槍を構える。そして目を閉じ、敵と対峙するイメージを、頭の中で思い描く。相手が攻撃を仕掛けてくる前に、攻撃して倒す。スピード・速攻型の戦闘スタイルを磨いていく。



(模擬戦の相手が欲しい…)



 正直な感想。やはり実力が近い相手がいたほうが早く成長できるだろう。


 だが…思い当たる相手がいない。こればかりは仕方がない。地道に修練を積んでいくしかないようだ。



(上手くいかないものね…)



 手に取るように自分の実力が上がっていくのが分かる。しかし…思うような修練を積む事が出来ていない。もどかしい…。



(今の自分にできる事をコツコツと続けていくだけ…)



 アレグリアはそう自分に言い聞かし、また槍を構える。

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