第18話 お幸せに!!

「お願い…もう少しでいいから一緒にいて…」


「少年、あなたには最後まで私達の面倒を見る義務がある…今、あなたがいなくなったら…どうしたらいいか、分からないのよ」



 ラモーヌさんとグレースさんは『心から愛してはいるが、一生結ばれる事は無い』と諦めていた相手と、何の前触れもなく両思いという事が分かって、現状パニックに陥っている。



「二人ともいい歳なんですから…」



 俺がそう言うと



「そ、そんな事言われても…け、経験がないのよ」


「先輩を意識すればするほど…何も考えられなくなる…」



 などと、言い訳をする始末。しかもグレースさんを連れてきてから、二人は一度たりとも目を合わせられないでいた。



(どんだけ純情なんだよ…)



 と思いたいところだが…。二人の感情が分からなければ、微笑ましい光景と思えなくもないが、実際は全然違う。二人がすぐにドロドロの百合の関係になっていく事はわかりきっている。お互いに自身の頭の中で、妄想に妄想を重ねすぎて、今も頭の中で、とんでもないスケベな事を考えているのだ。


 今だって、お互いに顔を真っ赤にしながら



(グ、グレースさんとお付き合いができる。私が毎晩ベッドの中で妄想していたことが現実に…。あぁ~、体が熱い…私のお花畑から蜜が溢れ出してくるのがわかる。ど、ど、どうしましょう!!)


(先輩の綺麗で繊細な指で胸の先端をつねられたら…。考えただけで『ゾクゾク』してくる。あぁ~、私のいやらしい部分や汚いところの臭いを嗅がれてしまう。『グレースさんのここ…凄く臭いわよ』なんて言われたら…それだけで天国までイッてしまうわ!!)



 などと、純情とはほど遠い、とんでもない事を考えている。



(まったく…でも、意外にもラモーヌさんがタチでグレースさんがネコとは。お互いに役割が違うから、かなり上手くいくに違いない。めでたし、めでたし)



 俺は本当に早く帰りたいので話を進める。



「二人で食事に行くとか、そういう所から始めてみてはどうですか?」



 俺は二人で食事にという、ごく普通の提案をしてみた。



「そうね!!そうしましょう。ど、どうかしら…グレースさん。今日の仕事が終わったら、食事にでも…」


「ひゃい、喜んで!!」



 二人ともあっさりと提案を受け入れ、仕事帰りに二人で食事に行くことが決まった。



「まあ、二人とも大人ですから…食事の後は…」


『しょ、食事の後は!!』



 二人は(食事の後は)という言葉に異常な食いつきを見せる。俺にはもう、二人とも飢えた獣にしか見えない。



「同意があれば…朝まで一緒にいてもいいのでは?」


「……………」


「……………」



 黙り込む二人。若干、呼吸が荒いような気がする…。だが、おそらく今日は何もできまい…。



「まあ、俺の出来る事はここまでです。申込書を受理して許可をください」


「わかったわ。少し待っててくれる。すぐに事務処理をするから」



 ラモーヌさんはもう一度最初から申込書の確認をしてから、許可書を発行してくれた。



「はい。それで手数料と預り金、合わせて11万エンになります。内訳は1万エンがギルドの登録料になり、10万エンが預り金となります。許可証を返却するときに10万エンはお返ししますが、許可証を無くすと10万エンは没収となりますので注意してくださいね」


「わかりました。色々とわがままを言って申し訳ありませんでした。ありがとうございました」



 俺は深々と頭を下げ、許可証を受け取った。



「こちらこそ…本当に感謝します。困った事があったらいつでも相談してくださいね」


「そうだぞ、少年。困ったらお姉さん達に相談しなさい」



 俺はラモーヌさんとグレースさんとは仲を取り持った事で、かなり打ち解けて話をできるようになっていた。



「いやいや、人生相談所を開設するのは俺ですよ。二人が相談を受けに来てくださいね。ただし、今度は有料になりますのでお忘れなく」


「はい。では一度お伺いしますね」


「少年、知り合いに宣伝しておくから、お友達価格でよろしくね」



 俺は苦笑しながら



「お待ちしています。グレースさん、お友達というなら少年呼びは止めてくださいね。ハヤトでお願いします」


「はははっ、わかったよ。ハヤト」



 俺は二人に手を振りながら商業ギルドを後にした。






 ギルドを後にし、俺は色々な店を見て回りながら宿まで帰った。



「お帰りなさい」


「………た、ただいま…」


「どうしたの?」



 ジュリアさんが少し首をかしげて言った。



「お帰りなさいと言われる事が無かったので…戸惑ってしまって」


「うふふっ、私でいいなら、これから何度でも言ってあげるからね」


「うれしいです」


「疲れたでしょう。ここに座って。紅茶でも入れるわ」



 ジュリアさんが紅茶を入れにキッチンに向かうと



「ただいま!!」



 と大きな声がし、アレグリアが帰ってきた。






【ラモーヌ視点】


(こんな事が…こんな事が現実に起こるなんて…)



 私はグレースさんの事は、一生心の中で思っているだけと諦めていた。どんなに思いを寄せても届かぬ相手と諦めていた。


 でも…現実にお付き合いができる事になった。


 毎日毎日、ベッドの中で妄想していた事が現実になる…かも。



(あぁ~、グレースさんの全身を思う存分、舐めまわしたい…。欲望のままに、私の性癖をぶつけてみたい!!あぁ~体が熱い!!)



 私の理性は崩壊寸前になっている。



【グレース視点】


(先輩とお付き合いができる。先輩が私の彼女に…信じられない)



 私が今までに妄想してきた事が、現実になろうとしている。しかし心配事がある。私はネコだ。先輩が積極的に私の体を求めてくるだろうか?清潔感があり、控えめで清楚な先輩が…。



(もしかしたら、二人きりになってもお互いに何もできないんじゃ…)



 それは困る!!生殺しだ!!



(でも…自分から先輩の体を…できないわ。恥ずかしくて私にはできそうにない)



 私はドMでネコの自分を悔やむしかなかった。

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