第17話 ラモーヌさんの想い
「ごめんなさい。え~とっ…どこまで話が進みましたか?」
ラモーヌさんが戻って来て、グレースさんの隣に座った。
「話が進んだというか、ラモーヌさんが席を外している間に、グレースさんの恋愛の相談に乗っていました。グレースさんに僕が人生相談ができる力量があると分かってもらいたくて…」
「……………」
顔を赤くして無言で下を向いているグレースさん。そんなグレースさんを「チラリ」と見て、ラモーヌさんは少し寂しそうな顔をして
「グレースさんは私と違って明るくて美人だから、男の人にもてるでしょうね…そんな話をよく聞くわ」
「せ、先輩こそ、清楚で優しくて、品があって美しく、頭が良くて気がきいて、センスがあって凄くおしゃれで…」
「グ、グレースさん!?褒めすぎですよ…」
ラモーヌさんはグレースさんの止まらぬ高評価を聞いて、顔を手のひらで覆い隠し恥ずかしがる。
「いいえ、私は先輩の良いところをあと100箇所は言えますよ」
「…わたしなんて…ただおとなしくて、根暗な女よ」
「そんな事は絶対にありません!!先輩は私にとって…女神さまです!!」
グレースさんは思わず立ち上がり、愛の告白とも取れる言葉を口走った。
「……………」
ラモーヌさんは無言で口に手を当て、驚きの表情でグレースさんを見る。
グレースさんはテンパって
「いえ、そういう意味じゃなくて…じゃなくて…結構そういう意味で…いやいや、聞かなかったことにして…」
などと、訳の分からない事を言って
「仕事を思い出しました。少しだけ席を外します。少年!!後は頼んだ!!」
と俺に丸投げし、席を外してしまった。
「うふふふっ、グレースさんは明るくて面白い女性でしょう。でも不思議なのよね~。一回も男性と二人っきりで出かけたという話は聞かないのよ」
ラモーヌさんはグレースさんの後姿を目で追いかけながら言った。
「もしかして、女性が好きという事じゃないですか」
「えっ!?…まさか…そんな相談をされたの?」
ラモーヌさんは早々に俺の話に食いついてきた。
「気になりますか?」
「…い、いえ。女性が女性の事を好きになるなんて…。本当にそんな人がいるのかなと思って…」
ラモーヌさんはレズビアンだと悟られないように話をごまかす。
「普通にいますよ。でも実際には分からない事が多いです。『私は女性が好きです』と公言している人はいませんから…でも、女性が100人いれば、一人か二人はレズビアンだそうですよ」
「1~2%か…」
ラモーヌさんは目を閉じ、重く呟く。
「ラモーヌさんのすぐそばにもいるかも…。あなたを思っている女性が」
「えっ!?」
「グレースさんの事が好きなんですよね。俺はあなたのグレースさんに対する態度や口調、それに視線などの情報からそう考えています」
「……………」
「思い切って、告白してみては?」
俺の問いかけにラモーヌさんは
「君…凄いわね。お姉さん、ビックリしちゃった…。あなたの言う通り、私はレズビアンよ。でも…私は誰とも付き合う気はありません」
「なぜですか?」
「レズビアンの可能性はさっきも言った通り1~2%…。しかも意中の相手がレズビアンという可能性は考えたくもないくらいに低い。女性なら誰でもいいというわけではないのよ。私は性別で人を好きになったんじゃない。一人の人間としてグレースさんが愛おしいのよ。グレースさんの代わりには誰もなれない」
(ふう~、やっとここまで来た)
「じゃあ、グレースさんがラモーヌさんと付き合いたいと言ったら、付き合うという事でいいですね」
俺は最後の仕上げとして、ラモーヌさんに確認を取る。
「………期待を持たすような事を言って…。これで断られたら…永遠に君を許さないから」
優しそうな顔をしていたラモーヌさんの顔が険しくなる。これでグレースさんが付き合いませんなどと言ったら、確実に殺されてしまいそうだ。まあ、それは100%無いけどね。
俺は柱の陰に隠れてこちらの様子をうかがっているグレースさんに、親指をたてて合図を送った。それを見たグレースさんは『信じられない』という顔をして、その場で呆然と立ち尽くしていた。
俺としてはいい加減に許可をもらって帰りたいのだが…。柱のそばまで行き、グレースさんを連れてきてラモーヌさんの横に座らせる。
「……………」
「……………」
お互いに顔を真っ赤にして無言で座っている。恥ずかしくて目も合わせられない…様に見える。
「これで俺が人生相談が出来るとわかりましたね。許可書をください。もう帰りたいですから」
俺がそう言うと二人は、目を閉じて大きく首を振り
『二人っきりにしないで~!!』
と叫びにも似た声を上げた。
【ラモーヌ視点】
(グレースさんの恋愛相談か…)
私はそれを聞いたとき、胸が締め付けられる思いだった。当然相手は男性に決まっている。切ない…寂しい…悔しい。
しかし話が進んでいくうちに、様子がおかしくなる。グレースさんが私を絶賛しまくるのだ。最終的に私の事を女神様なんて言ってきた。
戸惑いは当然あったが、素直に嬉しかった。意中の相手に女神さまと言われて、嬉しくない女性なんていないわ。
(うふふふっ、グレースさんに女神様なんて言われちゃった。今だけは有頂天になりそうです)
グレースさんが席を外してからも、少年との話が続く。
(この少年は何かがおかしい…まるで私の心の中を見透かしている)
少年は私がレズビアンと見抜いて、グレースさんに告白をしろと進めてきた。この流れは…もしかして、もしかするかも…。
私は期待せずにはいられなくなっていた。
【グレース視点】
(あわわわ…先輩が帰って来てしまった。どうしよう)
私は先輩の事が見れずに、下を向いたまま話を聞いていた。
しかも事も有ろうに、テンパって先輩の事を女神様と口走ってしまった。
(恥ずかしい…死にたい。変な女と嫌われてしまう…)
私はいたたまれなくなり、思わずその場から逃げ出してしまった。
少年が先輩と話をしている。私は柱に隠れて見守る事しかできない。本当に情けなく思う。
しかし、少年が私に向かって、親指をたててOKの合図を送ってきた。
(あぁ~、これは夢…夢に違いない)
私はその場で呆然として、立ち尽くす事しかできなかった。
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