第14話 人生相談所
俺とアレグリアは宿(家)に帰る途中、来た時と同じように、あっちこっちの店を見て回っていた。そして俺は歩き回っている途中で、色んな事をアレグリアに聞いて、この世界の事を学んでいった。
「アレグリア、町中にある出店は勝手に出してもいいのか?」
「ダメよ。出店を出すには商業ギルドに登録をして、決められた手数料を払ってからでないと捕まるわよ。家の宿も出店ではないけど、ちゃんとギルドに登録して手数料を払っているのよ。それで利益が出たら30%を税金としてギルドに収める決まりになっているの」
「なるほどね。商業ギルドはどこにあるの?」
「………ちょっと待って…ハヤト、あなた商売をするつもりなの?」
「えっ、まあ、いつまでも無職という訳にもいかないだろうから…いろいろと試してみたいんだ」
「じゃあ、私と一緒に冒険者をしてみない?」
「………ありがとう。でも俺は争い事が苦手なんだ。冒険者には向いてないと思うな」
「そっか…こればっかりは仕方がないわね」
アレグリアは少し残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直して
「じゃあ、今から商業ギルドに行きましょう。でもハヤトは何を売るつもりなの?」
と、興味津々という顔をして聞いてきた。
「売り物というか…とりあえず、人生相談所を開こうと思っている」
「じ、人生相談所!?」
アレグリアは予想外の答えに驚きを隠せないでいた。
そして
「ハヤトには悪いけど…いくらなんでも無理があるんじゃない」
と、俺を見て言いづらそうに言った。
「そうかなぁ…」
確かに普通なら、見ず知らずの16歳の少年に人生相談する人はいないだろう。でも勝算が無い訳でもない。
俺がアレグリアに反論しようとすると、アレグリアが小声で
「もしかして、鑑定スキルを持っている事を売りにするとか?」
と、聞いてきた。
「いや、鑑定スキルの事は一切表には出さない」
「う~ん、それじゃあ…厳しいと思うなぁ~」
「お客さんには伝えないけど鑑定はするよ。鑑定した情報を元に、適切なアドバイスをするつもりだよ。軌道に乗るまで時間はかかるだろうけど…ダメかな?」
腕を組み、考え込むアレグリア。
「値段の設定はいくらにするつもり?」
「一つの相談に付き、一万エンと考えている」
「………無理よ。無理筋よ!!」
俺の設定した値段を聞いて頭を抱えるアレグリア。
「そうかなぁ~。まあ、俺は商売の経験は無いから、アレグリアの考えが正しいかもしれないが…」
「ハヤト、普通の事を普通に考えて!!16歳のガキに1万エンも払って人生相談する人なんて、この世界にいないから!!」
アレグリアは何故か顔を真っ赤にし、額に汗を浮かべて『ゼイゼイ』と肩で息をしている。それに若干、言葉遣いも荒くなっているような…。
「まあ、ダメならダメで、また違う事を考えるから…一度試しにやってみるよ」
「う~ん、頑張ってもらいたいけど、そもそもハヤトの説明で許可証を発行してもらえないかもよ…」
「頑張るよ!!…もう人に雇われて、働きたくは無いんだ…」
「…応援はするけど…」
俺はかなりやる気があるのだが、アレグリアはかなり微妙な顔をしていた。
そんな話をしながら俺とアレグリアは、いつの間にか商業ギルドの前まで来ていた。
「ここが商業ギルドよ」
「ここまででいいよ。アレグリアも早く槍を使って修練を始めたいだろ」
「そうね。そうさせてもらうわ。また夜に話を聞かせてね」
俺はアレグリアと商業ギルドの前で別れ、一人で商業ギルドの中へ入っていった。
商業ギルドに入ると大勢の人がいたが、幸いにも受付には人が並んでいなかったので、俺は受付の物静かで優しそうなお姉さんに声をかけた。
「すみません。出店を出したいのですけど、どうすればいいか教えてもらえますか?」
「はい。こちらで受け付けますので、この申込書に記入をお願いします」
「わかりました」
俺は申込書を受け取って記入をするが、この世界の文字を書いた事が無いのに『すらすら』と書けた事に驚いた。
(マリア様、ありがとうございます)
と、心の中でお礼を言って、受付のお姉さんに記入済みの申込書を渡した。
お姉さんは申込書を受け取り、記入した部分をチェックしていく。
「え~とっ、ハヤト君、16歳ね。経験は無し…初めての出店…。売り物は………じ、人生相談!?」
お姉さんは驚いて大きな声を出し俺の顔を見た。
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げてお願いする。
「………ハヤト君、あなたがお客さんからお金をいただいて相談を受けるという内容で間違いないですか?あと、相談料金は1万エンというのも間違いないですか?」
お姉さんは眉間にしわを寄せて聞いてきて、明らかに困った子が来たという反応をしていたのだった。
【アレグリア視点】
(???…じ、人生相談所!?16歳で人生相談…)
私はハヤトの答えに戸惑いを隠せない。
(鑑定スキルを売り物にするなら大盛況間違いなしなのだが…。それはリスクが高すぎて危険すぎる。間違いなくおかしな奴らから狙われるに違いないわ)
私がハヤトに鑑定スキルの事を公表するのかと聞いたところ、公表するつもりは無いという。それはいい…が、相談金額が一万エンだと言っている。
「………無理よ。無理筋よ!!」
思わず大きな声を上げてしまった。
だが…ハヤトが
「もう人に雇われて、働きたくは無いんだ!!」
と、悲しそうな顔をして言ったのを見て、私は反対できなくなってしまった。
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