第15話 ラモーヌさんとグレースさん

「残念ですが…この申込書を受理する事はできません」


「どうしてですか?」



 俺は困った事になったと受付のお姉さんに食い下がる。当面はマリア様からもらったお金で生活はできるが、いつまでも無職というわけにはいかない。ただ、誰かに雇われるつもりは全くない。前世のサラリーマン的な働き方は絶対にお断りだ。



「どうしてもです。お姉さんのいう事を聞いてください」



 俺の事を考えてくれているのは分かるんだが…。



「そこを何とか…お願いします!!」



 俺は深々と頭を下げてお願いする。



「う~ん…困ったわねぇ~」



 お姉さんは眉を八の字にして考え込む。



「どうしたんですか?ラモーヌ先輩」



 別の女性職員が現れ、お姉さんに声をかける。



「グレースさん…実はこの子が…」



 ラモーヌという名前のお姉さんが、今ここへやってきたグレースという気の強そうなお姉さんに、今までの経緯を話している。



「じ、人生相談!?…この子が!?」



 グレースさんは大きな声を出し、頭を抱えてしまった。しばらくの間、グレースさんは黙って申込書を見ていたが



「少年、悪い事は言わない。諦めなさい」



 と、諭すように言ってきた。



 「諦めません。僕も生活費を稼がなければいけません。一か月だけでも許可してください。それでダメなら諦めますから…」



 と、お願いする。



「………少年、君の為だと思ってはっきり言おう。出来れば、私の優しさだと受け止めてほしい…。君のような子供にお金を払って人生の相談をする人間はこの世にはいない」


「……………」



 ド正論を面と向かって言われ、俺は言葉を無くしてしまった。



(たしかに…普通ならグレースさんの言う事は正しい…が、俺には当てはまらない)



 と思うが、このままでは埒が明かない。出来得るだけ関係のない人の鑑定はしたくないのだが、何か交渉の材料は無いかと二人の女性の鑑定をする。



(鑑定した結果は誰にも漏らさないので…ごめんなさい)



 心の中で二人に詫びながら、鑑定した内容を見ていった。



(ふむふむ…ラモーヌさん、21歳で独身、彼氏無し。真面目でおとなしい性格か…。こちらはグレースさん、19歳で独身。彼女も彼氏無しか…。思った事をはっきり言う事が優しさだと思っている…か。………えっ!?…マジか!!これはビックリ!!)



 俺は鑑定した内容を確認していったが、思いがけない情報を見つけて、これを交渉の材料にしようと思い、再び二人に話を始めようとするが



「ラモーヌさん、ちょっとだけ手伝ってくれない?」



 と、奥の方からラモーヌさんを呼ぶ声が聞こえた。



「ごめんなさい、少しだけ外します。グレースさん、お願いしますね」



 と言って、ラモーヌさんは奥へ行ってしまった。仕方ないので、グレースさんから交渉を始める事にした。



「お姉さん、試しと言っては何ですが、俺に悩みを相談してみませんか?そうすれば俺の言う事が分かってくれると思います」



 しかしグレースさんは鼻で笑って



「私に悩みなんて無いわ。仕事も私生活も順調よ。君は知らないようだけど、ギルドの職員は世間の人達よりも、かなりの高給取りなのよ。みんなが私達の事を羨んでいるわ」



 と言う…が、俺には全て分かっている。グレースさんが現状、満たされていない事を…。虚しくて、寂しくて、切なくて、毎日ベッドの中で泣いている。片思いのラモーヌさんの事を考えて…。



「お姉さん、強がっていても何も解決しませんよ。信じられないかもしれませんが、お姉さんの言葉遣い、目つき、表情などで、現状恋愛の事で悩みを抱えている事がわかっています」


「………な、なにを馬鹿な事を…こ、これでも、たくさんの男性から声を掛けられるのよ」


「そうですね。お姉さんは明るくて、気さくで、面倒見がよくて…男性から声がかかるのも頷けます。でも…男性が好きではないですよね」


「……………」



 グレースさんは誰にも知られたくない秘密を言われ、言葉を無くしてしまう。


 しばらくしてグレースさんは、絞り出すような声で



「馬鹿な事を言わないで!!何を根拠に…」



 と、悲痛な叫び声をあげた。


 俺はそんなグレースさんを見ながら



(ごめんね。でも、必ず幸せになれるから…)



 と思い、話を続ける。



「僕にはわかっています。貴女が女性しか愛せない『レズビアン』という事を…」



 グレースさんは俺の言葉を聞き、先程までの気の強そうな表情から一転、下を向いて怯えた表情になっていた。






【グレース視点】


(ラモーヌ先輩が困っている。あの男の子が原因か…。ここは私が行って先輩を助けないと)



 私はラモーヌ先輩にいいところを見せようと、受付までいき先輩に話しかける。



「じ、人生相談!?…この子が!?」



 私は思わず、大きな声を上げてしまった。でも仕方がない。まだ幼さが残る少年が人生相談所を開きたいと申し込んできたのだ。



(これは先輩が困るのも無理はない…か)



「………少年、君の為だと思ってはっきり言おう。出来れば、私の優しさだと受け止めてほしい…。君のような子供にお金を払って人生の相談をする人間はこの世にはいない」



 私は少年の為にと思い、厳しく接した。しかし少年は諦めずに、私の相談に乗るなどと言ってきた。



(あなたみたいな子供に相談して解決するのなら、どんなに気が楽な事か…。私の悩みは絶対に誰にも話せない。一生、心の中に鍵をかけて閉まっておくしかない…)



 私はそんな思いを隠して



「私に悩みなんて無いわ。仕事も私生活も順調よ。君は知らないようだけど、ギルドの職員は世間の人達よりも、かなりの高給取りなのよ。みんなが私達の事を羨んでいるわ」



 と言って、強がって見せる。



(こうするしかない。こうやって強がらないと、心が壊れてしまう…)



 しかし…信じられない事に少年が



「僕にはわかっています。貴女が女性しか愛せない『レズビアン』という事を…」



 と言ってきた。


 私は驚愕のあまり、頭の中が真っ白になってしまい、手の震えが抑えられなくなってしまった。

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