第13話 赤備えのアレグリア

「この鎧、カッコいい!!」



 アレグリアが重厚な鎧を手に取り、目を輝かして見つめている。



「…アレグリア、その鎧はダメだぞ」


「えっ!?どうして?」



 俺のダメ出しの意味に気づいていないアレグリア。まだ自分の能力の方向性を把握していないようだ。

 アレグリアは明らかにスピード・速攻型で、重厚な鎧は負担になってしまう可能性が高い。



「アレグリアの能力値から考えると、スピードを生かした戦法で戦った方がいい。分かりやすく言うと、攻撃される前に速攻で倒す。重厚な鎧は長所であるスピードを鈍らせてしまうからお勧めできない」


「…わかったわ。なるべく軽くて丈夫な素材で作られている物を選べばいいのね」


「現状はその通りだ。ただ、これから鍛える事によって変わってくるかもしれない事は、頭に入れておいてほしい」


「了解です!!」



 アレグリアは笑顔で答える。俺のアドバイスを全面的に信用してくれているようだ。



「そういう事なら、この革鎧しかないだろう。鉄製の鎧よりは強度は劣るが、魔物の革を使ってあるから、ある程度の強度は保証できる。重量は比べ物にならないほど軽いから、華奢なアレグリアでも問題無く動けるぞ」



 ブロディさんが真っ赤に染め抜かれた革鎧を手に取り勧めてくる。



「おぉ~、いいね!!じゃあ、籠手と脛当てもこの赤色の物にして『赤備え』にしようか」



 と、俺が続く。



「ちょ、ちょっと、派手じゃないかしら…」



 俺とブロディさんが持つ真っ赤な防具一式を見て、その派手な色合いに躊躇するアレグリア。



「アレグリアが強くなれば、自然と違和感なんて無くなるよ。近い将来『S級冒険者・赤備えのアレグリア』と言われる日がくると思う」


「赤備えのアレグリア…えへへっ、なんかカッコいいね!!赤備えのアレグリア、赤備えのアレグリア」



 俺の『赤備え』という言葉が相当気に入ったらしい。アレグリアはニコニコしながら『赤備えのアレグリア』という言葉を連呼している。



「よし、一度身に付けてみろ。お前の体に合うように調整が必要だからな」


「わかりました」



 アレグリアはブロディさんに言われ、慣れた手つきで防具を身に着けていく。


 俺は素早く防具を付けていくアレグリアを見ながら



(美少女が真剣な顔をして、手早く防具を付けていく姿は格好良く、何より美しい)



 と思い、自然とアレグリアの姿に見とれてしまった。


 アレグリアはブロディさんに言われ体を動かしていく。そして一通りの確認作業が終わると、一度全ての防具を外した。



「今から細かい調整をするから、少し待ってろ」



 ブロディさんはそう言って、防具を持って工房の中に入っていった。



「ハヤト、今の真っ赤な防具を身に着けるとして、下に着る戦闘服は何色が似合うと思う?」



 アレグリアは今日は割とラフな格好をしているが、俺はアレグリアの全身を見ながら、戦闘服を着て、真っ赤な防具を付けた姿を想像する。



「俺のイメージでは、黒一択だと思う。想像するに威圧感が凄いと思う」


「本当!!実は私も黒い戦闘服が似合うと思ったの!!」



 アレグリアは自分と同じ意見を言われて、とても嬉しそうな顔をした。



「ただ…」


「ただ?」


「その色の組み合わせは、威圧感が凄いから実力が伴わないと恥ずかしいぞ!!」



 アレグリアは俺の言葉を聞いて、その美しい顔を引き締めて



「わかってるわ。どんな努力も惜しまない。こんな前向きな気持ち、本当に久しぶりだわ。冒険者になりたての頃のような感覚…希望に満ち溢れていた頃のような気持ちを取り戻した感じがするわ」



 一点の曇りもない顔をしてアレグリアは言い切った。


 俺はそんなアレグリアを見て



(やっぱり未来に希望があるって本当に大切な事だよな。こんな前向きな気持ちのアレグリアも、昨日までは未来に希望が見えなくて、もがき苦しんでいたわけだから…ただ世の中の多くの人は、もがき苦しんでいる人生を送るしかない。前世の俺の様に…)



 と思い、嬉しい反面、もがき苦しんでいる人たちの事を思うと、前世の自分を思い出し苦しくなった。


 だが…今の俺には『神の領域の鑑定スキル』がある。



(これからも出来得る事なら、一人でも多くの人達に『才能がある』と伝えられたら…)



 と、俺は改めて決意をする。


 ブロディさんが防具の調整をして戻って来て、アレグリアがもう一度、防具を身に着けて最終調整をする。これでアレグリア専用の防具の完成である。



「ありがとう、ブロディさん!!この槍と防具に負けない実力をつけて、ランクを駆け上がって見せるわ!!」



 アレグリアが決意に満ちた表情をしてブロディさんに宣言した。



「わはははっ、良い顔になったじゃねぇか!!少し前までは、自信の無さそうな顔をしてたのにな」



 ブロディさんは大笑いしながら、アレグリアの背中を『バシンッ!!』と叩いた。


 一方のアレグリアは少し痛そうな顔をしていたが、嬉しそうに、はにかんだ笑顔を見せていた。



「ブロディさん、今日はありがとう。あと、今後とも力になってください。それと…俺の事はくれぐれも他言無用でお願いします」



 と言って、俺は槍の代金250万エンを渡した。



「おう!!ハヤトの事は誰にも言わねぇよ!!何か困った事があったらいつでも相談に乗るぞ。ワシのほうからもハヤトに仕事の依頼を頼む事があるかもしれん。その時は頼むぞ!!」


「俺に出来る事だったら喜んで力になりますよ」



 俺とブロディさんはそう言いあって『ガッチリ』と握手をした。ブロディさんの握力は異常で、俺の手が腫れあがってしまった事は言わないでおこう…。


 俺とアレグリアはもう一度ブロディさんにお礼を言って工房を後にした。






【アレグリア視点】


「ふふふっ、赤備えのアレグリア…赤備えのアレグリア、ふふふっ!!」



 私はこの『赤備えのアレグリア』という言葉の響きが気に入り、何度も繰り返して呟いた。この赤備えの防具と氷属性が付与された槍を持ち、強力な魔物や魔獣を『バッタバッタ』と倒していく。



「えへへへっ…、ふふふ…」



 こんな事を考えていると自然と笑いが出てきてしまう。



(いけない、いけない。ハヤトが見ている。変な女などと思われたくはない。気を付けないと…)



 私はこの赤い防具には黒の戦闘服が似合うと思ったが、ハヤトの意見も聞いてみた。



「俺のイメージでは、黒一択だと思う。想像するに威圧感が凄いと思う」



 と、私のイメージと同じ、黒い戦闘服を押してくれた事がとても嬉しかった。


 私は再び、黒い戦闘服と赤備えの防具を身にまとう自分の姿を想像して



「ふふふっ…ふ、ふふふ」



 と、笑みが止まらなくなってしまった。

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