第7話 通貨の単位に驚いた

 店の中に入ると席はほぼ満員で、アレグリアは既に座っており、俺を見て手招きをしている。



「ハヤト、ここよ、ここ!!早くおいで!!」



 大きな声で俺の名前を呼ぶその顔は、とても可愛らしく笑っていて、ついつい俺のほうも笑顔になってしまう。



(なんか…いいなぁ。こういうの…)



 前世では辛い事ばっかりで、美少女と二人で楽しく食事なんて考えられなかった。嬉しさを嚙みしめながらアレグリアの向かい側の席に座った。



「ハヤトは何が食べたい?」



 アレグリアが聞いてきたので俺は素直に



「この世界の料理はまったくわからないので、アレグリアにお任せするよ」



 と、言った。


 アレグリアが『ハッ』として、小声で



「ごめんね。すっかり忘れていたわ」



 と、少し舌を出して言った。


 俺が苦笑していると、店員さんが来て注文を取ってくれた。



「じゃあ、…これを二人分お願いします」


「はい、少々お待ちくださいね」



 店員が下がり、料理が運ばれてくるまでの間、俺はこの世界の事をアレグリアに聞いてみようとしたのだが…。


 アレグリアは周りを見渡し、俺に顔を近づけて小声で



「ハヤト、ここでは誰が聞いているかわからないから、あまり素性が分かりそうな話はしないほうがいいわ」


 と、言ったので、俺は店の中では当たり障りのない会話をするだけにした。


 しばらくすると



「お待たせしました」



 と、店員が料理を運んできてくれたのだが…正直に言ってあまり美味しそうに見えない。店の外で嗅いだ匂いは美味しそうだったのに…。堅そうなパンに、肉が一切れあって、野菜が少々…。あとは薄そうなスープ。



「いただきます!!」



 アレグリアが何も文句を言わずに食べ始めたので、俺も異世界の料理はこういう物だと思い食べ始めたが、思った通り美味しくない。俺は聞くべきか、聞かざるべきか迷ったが、思い切ってアレグリアに聞いてみた。



「この店は、どのくらいのレベルの店なんだ」


「どのくらいのレベル…う~ん。まあ、大衆店レベルだと思うよ。可もなく不可もなくといったところね」


「う~~~ん…」



 俺はあまりのレベルの低さに考え込んでしまった。前世の日本の大衆店のレベルが高かったのかもしれないが、俺にとって日々の食事は、ささやかな楽しみの一つである。絶対に改善しなければならないと心に誓った。


 ただ周りを見渡してみても、この店の食事に文句を言っているような人は見当たらないので、この世界の人は、食事をただの栄養の補給と考えているだけかもしれない。



「アレグリア、その…君のお父さんの作ってくれた料理とこの店の料理は、どちらのほうが美味しかったんだ。良かったら参考までに教えてほしい」



 俺は恐る恐る、アレグリアに聞いてみた。



「当然、お父さんのほうが美味しかったに決まってるわ。でも…食材の質もほとんど同じものを使っているし、少しだけだけれどね」



 というアレグリアの言葉を聞いて、俺は確信した。この世界の料理のレベルの低さは大問題だと。


 この問題を解決するには



(絶対にレベルの高い料理人を見つけ出してやる。そして俺の好物を作れるようになってもらうしかない)



 と、鑑定スキルをフル活用して、最高の料理人を捜しだしてやると心に誓った。


 二人ともに食べ終わり、そろそろアレグリアの家(宿)に帰ろうかという事になった。俺はマリア様からもらったバックから金貨を一枚だけ出して、アレグリアに渡そうとしたのだが…。



「えっ!?百万エン金貨…。いいわよ…この店では使えないわ。店への迷惑でしかないから…。食事のお代、六百エンは私が払うから…」



(ハッ!?今、アレグリアは通貨の単位を『エン』と、言わなかったか!?)



 俺はアレグリアが通貨の単位を『エン』と言った事に心の底から驚いた。ただ、アレグリアも俺が大金?の百万エン金貨を持っていた事に凄く驚いていた。そして顔が『後で話を聞くから』という表情をしていたので、俺はここは黙っておごられる事にした。


 店員を呼び、アレグリアは千エン小銀貨一枚と、百エン銅貨二枚を出して勘定を終えた。ちなみに消費税はありませんでした。


 俺達は店を出て少し歩くと、すぐにアレグリアの家(宿)に着いた。



「おぉ~!!なんか凄いおしゃれな感じがする宿じゃないか!!」


「でしょう!!でも…単発のお客さんは入るけど、リピーターが付かなくて…。結構、経営が厳しくなってきているのよねぇ~」



 もう日が落ちかけて来ており、辺りは暗くなって来ているが、宿の窓からは明かりが全く見えない。つまり、お客がいないという事である。



「ただいま~」


「お邪魔します」



 アレグリアが宿のドアを開けて中へ入る。俺も後に続き中へ入ると、アレグリアによく似た銀髪の美熟女が俺を出迎えてくれた。おそらく…いや、間違いなくアレグリアの母親だ。


 俺は申し訳ないと思ったが、念のために素早く鑑定スキルを発動して、この美熟女を鑑定した。出来るだけ関係のない人は、鑑定をしないほうがいいと思ってはいるのだが…。しばらくお世話になるつもりなので、本当に念のために。



 ジュリア 38歳 身長162㎝ 体重45㎏ B93 W64 H94


 戦闘 030/100 政治 065/100 内政 061/100 感性 081/100


 魔法 000/100 家事 074/100 料理 002/100 生産 074/100


 農業 030/100 商業 041/100 性欲 072/100 魅力 086/100


 外交 056/100 交渉 055/100 信用 093/100 採掘 004/100


 感覚 078/100 研究 005/100 狩猟 009/100 解体 012/100



 などなど、溢れんばかりの情報が俺の頭の中に流れ込んできた。






【ジュリア視点】


 アレグリアの母親のジュリアは、娘の帰りがいつもより遅い事を心配していた。



(あの子…今日はどうしたのかしら…。いつもと同じ薬草採取の依頼を受けると言って出て行ったのに…心配だわ…)



 ジュリアは誰もいない宿の受付でアレグリアの帰りを待っている。



(いつもこの時間には必ず帰ってきているのに…もしあの子に何かあったら…)



 アレグリアの事が心配で居ても立っても居られず、ギルドにまで様子を見に行こうかと思っていたところ



「ただいま~」



 と、呑気な顔をして帰ってきたアレグリア。『帰りが遅い!!』と怒ろうとしたのだが…。アレグリアの後ろから『お邪魔します』と言いながら、アレグリアと同じ年位に見える少年が入ってきた。



(ア、ア、アレグリアが男の子を連れて帰って来た!?)



 ジュリアは一瞬で怒る事も忘れ、心の底から驚いたのだった。


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