第6話 アレグリア、君は槍を使うべきだ
「厳しい事を言うけど、才能が無い事を努力しても、成果は上がらないよ」
「………」
アレグリアはうつ向いて無言で聞いている。
「アレグリアには剣術の才能が全くと言っていいほど無い」
「そ、そんな簡単に言わないでよ…。今まで私がどれだけ努力してきたか知りもしないで!!」
アレグリアは少し感情的になり大声で反論する。
「アレグリア、俺は全てが無駄と言ってるわけじゃないよ。剣術の修練が無駄なだけで、修練で筋肉がつくことは無駄じゃない。思い付くところで、相手の動きを読む力とか…身になっている部分もかなりあると思う。ただ、何度も言うが剣術の才能は皆無だ。自分でも薄々は分かっているんじゃないか?」
「!?…ふう~~」
アレグリアは空を見上げ、大きくため息をつく。
「薄々はね…。努力しても…努力しても成果が上がらない日々。虚しくなる時もあったわ…。でもね、言葉で言い表すことは難しいけど、何となくだけど…出来そうな気がするのよ!!」
アレグリアは俺の目を見て確信に満ちた顔をして言い切るが…『フッ』と笑って
「根拠のない自信と言われるかもしれないけど…」
と、自虐的に言った。
「根拠のない自信ではないよ。さっきも言ったけど、アレグリアには冒険者としての才能はある。ただし、剣術の才能が無いだけだよ。だったら、他の得物を使えばいい」
「他の得物って…剣しか使ったことが無いし…」
「剣に特別な思い入れがあるとか?」
「別に無いけど…普通は剣を使う人が多いから…」
「一度槍を使ってみる気は無いか?」
「や、槍!?槍なんて握った事すらないわよ」
「握った事すらないので、今まで才能に気づかなかった。アレグリアの槍術の才能はS級で、剣術はE級だよ。だから、試してみる価値は絶対にあると思う」
S級という言葉に驚きを隠しきれないアレグリア。そして目を閉じてしばらく考え込む。
「本当に槍の才能がS級なの?…信用してもいいの?…だとしたら…よし!!ハヤトを信じてやってみる!!」
目を開け、俺の目を見据えて言った。アレグリアの目はどこまでも澄んでいて、俺はその目に引き込まれそうになる。
「なにを『ぼう~』と、しているの?」
アレグリアが俺の顔を覗き込みながら言った。アレグリアの美しい顔が息がかかるほど近づいた。
俺は『はっ』として
「アレグリアの目がとても綺麗で…引き込まれそうになっていたよ」
と、思わず本心を言ってしまった。
アレグリアは顔を真っ赤にして
「そ、そんな事…言われた事ないから…嬉しい」
と、照れながらも言ってくれた。
しばらく二人は無言になり、城壁の周りを出入り口に向け歩いていく。
「ハ、ハヤト。入口が見えて来たよ。昔は門番がいて色々調べられて、町に入るのにもお金が必要だったんだよ」
まだ少し照れながら話すアレグリア。可愛い。
俺とアレグリアは城門をくぐり、町へと入っていく。
「うわ~~~、凄い!!」
俺は思わず声を上げた。やはり映画で見た中世ヨーロッパの街並みに似ている。大きな川が流れ、おしゃれなレンガ造りの家が並んでいる。
「私の実家はこの門から近いから凄く便利なのよ。でもお客さんは全然いないけどね!!」
「それ…かなり問題じゃないのか?」
「あはは、そうね!!」
全く気にしていないアレグリア。元気を取り戻したようだ。鑑定結果を見ても、あまり細かい事は気にしないタイプかもしれない。
「アレグリアは槍は持ってないよね。鍛冶屋は近くにあるのか」
「ちょっと歩くことになるけど、評判の鍛冶屋さんがあるわよ。今日はもう遅いから、明日の朝に行きましょうか」
「わかった。鍛冶屋なんて行ったことが無いから少し楽しみだ」
アレグリアは俺の言葉に
「鍛冶屋さんはね~。少し偏屈な人が多いからね~」
と、苦笑いをして話す。
「そうなの?」
「ふふふ、偏屈なドワーフのおじいさん」
「ドワーフ!?むっちゃ楽しみ!!」
アレグリアは『ヤレヤレ』といったような顔をする。
「じゃあ、夕食を取って帰りましょうか」
「アレグリアの実家は宿なんだろう?食事はできないのか?」
「あぁ、食事はお父さんが作っていたの。結構美味しくて評判だったんだけど…ね。去年亡くなってしまったから…」
「すまん。変な事言ってしまって…」
アレグリアは俺の背中を「パシーン」と叩き
「気にしないで!!私も子供じゃないんだから!!」
そう言って、俺に向かって手招きをしながら、食事処と書かれた店に入っていく。美味しそうな匂いが漂ってきてお腹が鳴る。
(そういえば…何も食べてなかったな)
そう思ったら、途端に腹が減ってきて、急いでアレグリアの後を追い店に入っていく。
【アレグリア視点】
私は槍の才能がS級と言われ、どう理解すればいいか分からなかった。そもそも、剣術と槍術でそんなにも違いがあるのかが分からない。剣自体には何の未練も無いので、槍を使うのは問題ないのだが、まだ正直なところ半信半疑と言わざるをを得ない。しかし、やはりS級の才能があると言われれば悪い気がするわけがない。
(ハヤトの言う通り、本当にS級の才能があるなら…試してみたい)
私は暗闇に一筋の光が見えた気がした。もがき苦しんで、先が見えない現状を打破できるかもしれない。そんな気持ちになっていた。
(ハヤト…不思議な人。まだ出会ったばかりなのに、彼の事が気になる。今まで男の子に興味なんて無かったのに…一緒に歩いているだけで、凄く楽しい)
16歳の私は、これが遅い初恋だということに、まだ気づいてはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。