第5話 私には才能が無い
俺達が町に向かって移動を開始すると、すぐに森から抜けて街道に出た。
「あれっ、こんなに近くに街道が…」
「えっ、どうしたの?」
俺の呟きにアレグリアが聞き返した。
「もしかして…全然危険のない場所だったとか?」
「ここの山?魔物もいないし危険は無いわよ。普通に薬草を採取する場所だから」
「そうなんだ…俺は『死ぬかも!!』と、本気で心配していたんだよ」
「はははっ、いきなり異世界から来たら、そう思っても仕方ないよ。気にしないで!!」
アレグリアが俺の肩を『ポンポン』と叩いて慰めてくれた。
俺達が街道沿いを歩いていると、何台かの馬車が俺達を追い越していく。その様子は、前世の映画で見た事のある中世ヨーロッパの風景を思い出させる。
「この丘を登ったら町が見えるわよ」
アレグリアの言葉を聞いた俺は、我慢出来ずに走り出す。
(異世界の町。早く見てみたい)
こんなにワクワクするのは、いつくらいぶりだろう。アレグリアも『ヤレヤレ』という顔をして走って追いかけてくる。丘の上まで行き、目の前に広がる風景を見て絶句する。
「アレグリア、町じゃなくて…都市じゃねぇか!!」
「はははっ、そうとも言うね!!」
アレグリアが驚いている俺を見て、大笑いしている。
俺は目の前に広がる都市を見て
(俺は異世界に来たんだ!!マリア様からもらった『鑑定スキル』で、希望が見えず、もがき苦しんでいる人達を一人でも多く救っていきたい)
俺は改めてそう決意する。
「それにしても凄い壁だね。ただの都市ではなく…城塞都市と言ったほうがいいな」
俺は目の前に高くそびえ立つ壁を見上げながら言う。
「この国、アーキュリー王国と言うんだけどね、私の小さい頃までは、いくつかの国と戦争をしていたのよ。この壁はその時の名残よ。今は四方の国と同盟を結んで平和そのものなの。一応、もしもの為に壁は取り壊していないのよ」
「平和なんだね。良かった」
「でね、この都市の名前は『リーズ』って言うんだけど、アーキュリーのほぼ真ん中にあって、他国と国境が接してないから、平和な国の中でも、特に平和で商業が凄く発展してるの」
「俺にとっては、理想的な場所だよ」
「そうね。ハヤトにとっては理想的かもね。ただ…冒険者にとっては不人気なのよ」
アレグリアは少し苦い顔をする。
「どうして不人気なの?」
素朴な疑問として聞いてみる。
「…他の地方と比べると…比較的稼ぎが少ないのよ。この辺りは強力な魔物も少ないから、一獲千金が望めないの 。だからね、みんな大金を狙ってここを出て行くのよ。依頼があるのは商人の護衛と薬草の採取くらいだからね」
「そうなんだ…。アレグリアは大きく稼いでやろうとは思わないの?」
俺の質問にアレグリアは
「現状の私の力では無謀としか言いようが無いわ。私の冒険者としてのランクは最低のFランク。…底辺の冒険者なの。でもね、自分の力を過信して、命を落としていく冒険者は多いの。だから力を付けて、いずれは…と思ってはいるんだけど…。でも勘違いしないで、実力さえあればリーズでも十分に稼げるのよ。私は無謀な仕事は受けないわ」
少しだけ悔しそうな顔をして話すアレグリア。
「俺はアレグリアには冒険者としての才能があると思うよ」
「ハヤト…ありがとう」
アレグリアは俺が単純に慰めの言葉を言ったと思っているが、俺はアレグリアをすでに鑑定済みで、アレグリアよりもアレグリアの事がわかっている。
「アレグリア、森の中で信じてもらうために鑑定をしただろう。助言をしてやろうか?」
「………いいの?鑑定は凄いお金がかかると聞いた事があるわ。他の国のおじいちゃんが鑑定スキルを持っていたって言ったでしょ。貴族が鑑定してもらって才能が無いと分かったら、家がそのままつぶれたって聞いたわ…」
お金の心配するアレグリアだが、鑑定結果が気になる事を隠しきれない。
「後払いでいいよ。アレグリアがS級の冒険者になったときに、払ってもらえればいいから…」
「…えっ!?…E級?」
「S級!!」
「…S級!?だ、誰が?」
「アレグリアがS級冒険者になったら、アレグリアが鑑定の価値を考えて、その金額を払ってくれ」
「………S級!?私がS級?無理無理、無理無理。絶対無理!!」
アレグリアは面白いくらいに、S級冒険者になると聞いて狼狽していた。
俺は真顔で
「何故、無理だと思う」
と、聞いてみた。
「な、何故って…。今まで一生懸命に努力してきた!!本当に、本当に努力してきた。でも…何の結果も出なかった。無理よ。私には何の才能もない。本当は自分が一番、わかってるの!!」
アレグリアは唇をかみしめ、目には涙がたまっていた。
【アレグリア視点】
私の頭の中は明らかに混乱している。
(ハヤトがおかしな事を言っている。私が将来、S級冒険者になるなんて事を…いくらなんでも飛躍しすぎよ。)
鑑定スキルを持つハヤトのいう事なので『もしかしたら…』と考えなくもないが、さすがに信じられない。
それどころか…
(もしかしてハヤトは私をからかって、楽しんでいるのかも…)
と思い、悔しい気持ちになってしまった。私がこれまでどれだけの努力をしてきたか…。目には自然と涙がたまっていた。だが一方で、ハヤトの事を信じたいという気持ちも当然持っている。
私の感情は混乱を極めていた。
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