第32話 仰々しい古の装置
隠し通路の終わりは開けた空間になっていた。
そしてまたしても扉が設置されている。
だけどこの扉は他喉の扉とが違う。とんでもなくハイテクな魔導具の扉で、私は時代錯誤を感じた。
「なんですかこの扉!? これって現代の技術じゃないですか?」
「違うよ、アルマ。これは千年以上昔の扉」
「ええっ!? でもこの扉って最近できた魔力認証式の扉じゃないんですか?」
「そうだよ。でもこの扉は千年以上昔のもので、最近開発された魔力認証式の自動扉はこの扉を基に開発されたんだ。まあ、そんなことはどうでもいいけどね」
「ど、どうでもいいんですか……」
ヒノワ館長の興味が一切無いことに私は動じる。
魔導士なら少しくらいは興味を以っても良いはず。
だけどヒノワ館長にとってはあくまでも前座でしかなく、この扉の先にあるものを見せるため魔力認証式の古代扉を即座に開かせた。
ギュィィィィィィィィィィィィィィィン!
「さあ開いたよ。行こうか」
「「はい!」」
ヒノワ館長の魔力を認証すると、扉が軋む音を奏でながら重苦しそうに開いた。
やっぱりかなりの旧式のようで、見た目からは信じられない年季と劣化を感じさせる。
しかしそれこそが胸の鼓動を高ぶらせた。
私とマリーナさんは先を行くヒノワ館長の後に続き、扉の向こう側へと赴く。
扉の先はまたしても開けた空間。しかも壁全体が青白く、幻想的な雰囲気を漂わせている。
更に天井からは見たこともないサイズの魔石が浮かんでいた。青白い光を放つのは灯りのために使っているから。あまりに勿体ない使い道に、魔石専門の魔導士は嘆くかもしれない。けれどそんな話は私にもヒノワ館長やマリーナさんにも関係無く、部屋全体を明るくしてくれているだけで助かった。
「幻想的な灯りですね。私、こういうの好きです!」
「私も好きだよ。でも私は赤の方が好きかな」
「ヒノワ館長は炎の魔法を使いますよね。私は海に関する魔導書士なので、青の方が好みです。アルマちゃんと同じ、私達気が合うのかもしれないわね」
「そうですね。それでヒノワ館長!」
「あ、あれ、スルーされた?」
マリーナさんは空気を読みながら言葉を選ぶ。
ヒノワ館長の意見を踏まえつつも自分の言葉で意見を伝え、そこから私ともコミュケーションを取ろうとした。凄い人だと私は思ったけれど、その優しさを踏み躙るように私は話を素通りし、愛想笑いだけに留めてしまった。
マリーナさんは凹んでしまったようで、ガクンと肩を落としているのが見てられない。
「この部屋に魔導書があるんですよね。早く見たいです!」
とは言え自分でやっておきながら、ここまで来たら引くに引けない。
そこでヒノワ館長に視線を預けると、私はこの部屋の意味を訊ねた。
「それにこんな大それた隠し部屋がある理由も貴重な魔導書や危険な魔導書の保管のためなんですよね。ってことは、今は魔導書が無いみたいですけど、絶対に凄い魔導書なんですよね!」
ここに来たということは、きっと何処かに魔導書が隠してあるに違いない。
今のところ一際目立つ魔石が吊るされていること以外、この部屋は青白い光が迸っているだけ。期待していた面白さが際立っていないので、早く魔導書が見たくて仕方がない。
馳せる気持ちに急かされる中、ヒノワ館長は「まあ落ち着いて」と言いながら、部屋の中を歩いてみせた。
「アルマが詰め寄って来るのは分かっていたけれど、まさかここまでとは思わなかったな。でもこの部屋に来た以上はもう隠す必要もないね。そうだよ、この部屋には魔導書が隠してある。危険と言うよりも貴重な代物がね」
ヒノワ館長は部屋の中を歩きまわる。
しかし歩き方が何かおかしい。
踵を床に踏み込むような歩き方で、外周をわざとのようにグルリと回っていた。
明らかに部屋に秘密がある。それこそ隠しスイッチでも仕掛けてあるかのようだ。
「アルマ、マリーナさん、少し隅に避けてくれるかな? この部屋の中央は危険だからね」
「分かりました。アルマちゃん、こっちに来て」
「は、はい!」
私はマリーナさんに手招きをされ、傍に寄りかかった。
するとギュッと腕を掴まれ逃げられなくなってしまった。
もしかして私が勝手なことをしないように抑えこんでいるのかな?
流石に心外だ。そこまで私は腐っていない。パッション任せだけど、それでも間違ったことはしていない自覚があったから、これは心底堪えた。
「離れたね。それならこの部屋の仕掛けを起動させようか」
「起動? ってことは仕掛けが施されているんですね。そのスイッチが床に仕込まれている。うわぁ、本当に秘密基地みたいですね!」
私は秘密基地感がより一層強まって楽しくなる。
肩の辺りがムズムズして、力任せにマリーナさんを振り払おうとしてしまう。
しかしマリーナさんは私の腕をグッと捕まえたまままるで動かない。
骨が折れてしまいそうな勢いで、私はマリーナさんを無視したことを後悔する。
「アルマちゃん、まだ危ないから動いちゃダメよ」
「ううっ、動きませんよ。それに痛いです」
「私が負った精神的ダメージのお返しよ」
「精神的ダメージを肉体的ダメージで置き換えないでくださいよ。ヒノワ館長!」
私はヒノワ館長に助けを求めた。
しかしヒノワ館長は私の話もマリーナさんの声も完全に耳に入っていない。
床に隠された仕掛けを起動させるため踵で踏んだまま何故か動かない。
傍から見れば、何しているんだろうと思ってしまう程で、ボーッと眺めていると急に部屋に異変が起きた。
ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!
部屋の中がガタガタと激しく揺れ出した。天井からは長年溜まっていた埃が落ちて来る。
青白く光る壁が眩しく煌めき、床まで軽い地鳴りのように蠢き出す。
一体何が起きているのかな? 如何してこんなことになっているのかな? ここにいることさえ危険なはずと息を飲むと、急に魔石から青白い光が一点に注がれて、真下の床にかざされた。
キュィィィィィィィィィィィィィィィン!
青白い光が床を狙い撃ちして注がれると、真下の床が盛り上がる。
四角い形をした天板が浮かび上がり、そのまま綺麗な四角柱が現れる。
あまりにも突然。しかも激しいテンポ感で私達を驚愕させると、ヒノワ館長は答えた。如何やらこの四角柱に魔導書が隠されているらしい。
「さて、ようやく保管庫を開けられるね」
「保管庫? もしかして、その四角柱がですか? 流石に厳重な保管方法ですね」
「それくらいの代物ってことだよ。それじゃあそろそろお目見えさせようかな。これが二人に見せたかった魔導書だよ」
ヒノワ館長はそう言うと、四角柱に手をかざす。
天板が淡く青白い光を放つと、中から一冊の本がニュルリと飛び出す。
四角柱の保管庫に魔素として分解されていたようで、こうして久々に姿を現すと、私太刀を今一度驚愕させた。いや、もしかすると私だけが勝手に興奮しているのかもしれない。
なにせその魔導書からは特別な声は聴こえなかったけれど、明らかに強力な魔導書だと判らされた。
「下手な紹介は要らないよね? これが精霊の魔導書だよ」
「せ、精霊の魔導書!?」
私は声を上げてしまった。精霊の魔導書と言う名前、魔導書士ならば一度は耳にしたことがある伝説の魔導書。
私はそんな貴重な魔導書と対峙してしまった。こんな経験、この歳でできる何て思わなかった。いや、AAAランク魔導書士でも見ることなど敵わない。あまりにも奇跡過ぎて、私は言葉を簡単に失ってしまった。
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