第30話 ヒノワ館長と隠し部屋

 私とマリーナさんは階段を下りる。

 いったいこの先に何が待っているのか。

 それはさっぱり分からないけど、秘密基地みたいで楽しい。


 しかも面白いのはその音。

 石造りの上を歩くと、カタンカタンと心地の良い高音が耳に馴染む。


 私、この音嫌いじゃない。

 むしろ体の中から邪悪なものが抜けていくみたいに感じる。


「マリーナさん、なんだか気分が良いです!」

「うふふ。もしかしてアルマちゃん、この階段の秘密に気が付いちゃったの?」


 私はマリーナさんの言葉に引っ掛かる。

 秘密って何がだろう。考えてみると、気になってしまう。


 もしかしすると、この音かな? いやいや、そんな単純な訳無いかも。

 私は自分で否定すると、マリーナさんの表情を窺う。


「もしかしてリラックス効果ですか?」

「うん。正解」

「あ、当たっちゃった……」


 私はやっちゃったと思った。

 それもそのはずまさかこんな簡単に当たるなんて思わなかった。

 だけど当てっちゃった以上、喜ばないと失礼かも。そう思い、目を泳がせつつ腕を振り上げた。


「や、やっぱり私の知識は間違ってなかったんだ。やった、やったぁ!」

「アルマちゃん、無理して喜ばなくてもいいからね」


 残念。マリーナさんにはバレバレだった。

 私は恥ずかしくなってしまい、顔を赤くする。

 だけどすぐに首をブンブンって忘れると、「ですよね!」と相槌を打ち返す。


「それはそうとマリーナさん。この先になにがあるんですか?」

「うーんと、この先にはね」


 私は話を変えて誤魔化す。

 この階段の下には一体何があるのか、イマイチ教えてくれないけど、私は再度訊ねた。

 すると今度は教えてくれそうな雰囲気があったけど、そんな中階段の壁に取り付けられたランタンがボワッと灯る。


「うわぁ、きゅ、急になに!?」


 さっきまでこんなことなかったのに脅かさないで欲しい。

 私はムッとした表情を浮かべると、マリーナさんは「もうそろそろかな」と何やら意味深に唱える。


「もうそろそろ?」


 一体何が待っているのかな。

 私が余計に期待を露わにすると、階段も終わりを迎える。

 ちょっとした通路になると、その先には古そうな扉があった。


「また扉?」


 一体どれだけ厳重なんだろう。

 私はゴクリと喉を鳴らす。

 背後のマリーナさんに視線をくべると、コクリと首を縦に振った。如何やらこの先らしい。


「えー。私が開けるの? ううっ、はい」


 私は正直開けるのは遠慮したかった。

 だけど前に居るのは私。好奇心をお化けにしても、流石に少しは危機感を得る。


「失礼しま……すぅ?」


 扉を開けると、四角い部屋だった。

 赤い絨毯にオレンジ色の穏やかな灯り。


 置いてあるのはたくさんの木製の本棚。

 それからアンティークの机に椅子が置かれ、生活感さえ感じられる。


 おまけに魔力も集まっていた。

 密閉空間……かと思いきや、何処かで換気が行き届いていて、私の体の中に馴染む魔力を受け取る。


 とても不思議な部屋で、私が扉を開けて潜った。

 もはや警戒心はなく、「なにここ?」と口走りそうになると、ふと聞き覚えのある声がした。


「あっ、ようやく来たね」


 そこに居たのは当然の如くヒノワ館長。

 椅子に腰掛け何やら本を読んでいたらしい。


 すっごく気になる。何だか古そうな手記だけど、原本かな?

 私はフツフツと煮えたぎる好奇心に駆り立てられてしまう。


「って、ダメだって!」


 私はパン! と頬を強烈に叩く。

 ちょっとヒリヒリして痛い。

 手を離すと赤くなっていて、誰が見ても痛そうだった。


「アルマちゃん?」

「アルマ、急に頬を叩いてどうしたの? もしかして虫でもいた?」


 ヒノワ館長もマリーナさんも私の奇行に釣られる。瞼を持ち上げると、私のことをジッと見つめた。

 そんなに見つめられると恥ずかしい。私は頭を掻くと、「あはは」と笑って誤魔化す。


「大丈夫ですよ! それより」

「それよりなんだね」

「もちろんです! ここに私達を連れて来てくれたのって、絶対。ゼーったい、意味があることなんですよね!」


 私は目をキラキラさせていた。

 口調も明るく、これで何も無かったら流石に相手が気が引けるレベルだ。


 あまりの期待感にアルマはフンと鼻を鳴らす。

 どっちで捉えたらいいのか分からないけど、私はとにかく期待だけ煽りに煽る。


「それで一体なにが……」


 そこまで言ったタイミングで、ヒノワ館長は手を前に突き出す。人差し指を立て、ゆっくり横に振る。黙っての合図だ。

 私は黙らさるてしまうと、息をグッと飲み干す。

 期待に胸を膨らませる私なだけに、口は黙ってもピョコピョコ跳ねてしまう。


「好奇心が旺盛なことはいいことだけど、少し落ち着こうか。それにこれから二人に見てもらうのは、とても古いもの。だけどとても大事なものだ。是非とも今後の魔導書士として、活動に活かしてほしい」

「活動に活かすですか?」

「そうだね。私も実物を見るのは二度目だけど、やはり少し緊張するよ。……付いてきて、見せたいものがあるから」


 ヒノワ館長は私の煽り文句にも負けない。

 むしろ迎え撃つみたいで、余計に期待感を煽り上げた。


 これは相当な名品。そう見て間違いない。

 私はヒノワ館長に付いて行くことにした。

 だけども目の絵にはなにもない。ここはただの四角い部屋だ。


 けれどヒノワ艦長の視線の先には本棚が置かれている。

 如何してか視線が集中していて、ソッと近寄ってみた。


「この本を引いて……」


 ヒノワ館長が本棚に収まっていた本を一冊抜こうとした。しかし抜くことはできず、途中までで引っ掛かる。

 すると急に本棚に異変が生じた。

 ガタガタと揺れ出して、上から埃が落ちて来る。


 ガタガタガタガタガタガタガタガタ!


「な、なんですか!?」

「アルマちゃん、少し離れて」


 マリーナさんは驚く私の腕を引く。

 そのまま側に寄せ、頭が大きな胸に当たる。

 柔らかい。マリーナさんに全身を預けると、本棚の揺れが収まり、代わり本棚がスライドしていた。


「えっ、か、隠し通路!?」

「うん。それじゃあ付いてきて」


 ヒノワ館長はそう言うと、暗い通路の奥へと消えて行く。

 その姿を見つめると、私達は取り残されないようにしないといけない。


「つ、付いてきてって……ま、待ってくださいよ!」


 私はマリーナさんを振り払った。

 急いでヒノワ館長の姿を追い掛けると、マリーナさんも続く。


 するとスライドしていた本棚がゆっくりと閉じた。

 音だけが狭い通路の中に反響し、何だか怖くなる。


 私達は狭い通路の中に閉じ込められた。

 何だか少し怖いけど、私はヒノワ館長の背中を追うことにした。

 

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