第21話 何故扉が開いていたのか
私はトワイズ魔導図書館へ足を運んで一週間。
この一週間だけで、私はトワイズ魔導図書館の片鱗には全く触れられていない。
だけどとっても楽しい。
まだまだ知らない魔導書や知らない本達との出会いが待っているんだと、私は鼓動が高鳴る。
「こんにちはー」
しかし今日は様子がおかしい。
私がトワイズ魔導図書館に足を運ぶも、何故か静まり返っていたのだ。
まるで初めてここに来た時みたい。
あの時は興奮していて、マリーナさんの存在感に全く気が付けていなかった。
だけど今はとっても冷静だった。
頭の中がクリアで、もう少し意識を絞れば魔導書の声もはっきりと聴こえる。
そんな最高のコンディションにも限って、何故か空気が静まり返っている。
まるで膜でも張っているみたいで、私は不思議と体がひんやりする。
「もしかして……ねぇ、誰も居ないの?」
私は虚空に向かって問い掛ける。
当然だけど誰も返答してくれない。
けれど私は分かっていて口走った。
目を瞑り、耳を塞ぐと、頭の中に声が聴こえた。
『ダレもイないよ』
何処からか魔導書の声が聴こえた。
やっぱり誰も居ない。それが分かると、私は「そっか」と溜息が漏れた。
「せっかく来たのに誰も居ないんだ」
私は少しだけ寂しかった。
またマリーナさんに魔導書を見せて貰おうと思ったのに、見せて貰えないなんて残念だ。
それに研修の仕事も無い。
つまりはオフになったけど、それだとここに来た意味もない。
「ん?」
その瞬間、私は自分で言った言葉に首を捻る。
何かおかしい。いや、私なら分かるはず。
と言うより、もう分かっている話だった。
「な、な、な、なんで開いてるの!」
私は驚いた……ではなく、焦っていた。
なんで誰も居ない筈なのにトワイズ魔導書館が開いているのか。
扉が開いている。それは普通じゃない。
トワイズ魔導図書館にはたくさんの魔導書が蔵書されている。
「どうしよう。扉を開けたのが誰か分からないけど、もしも窃盗目的だったら……」
トワイズ魔導図書館の扉は二重構造。
一つは鍵で開け閉めされていて、今だって開いている。
もう一つは生体反応を読み取る自動扉。
こっちは悪意さえなければほとんどの場合で利用できる。
だから入るには二段階の認証を超えるしかないけど、きっと一回から行ける。
となれば貴重な魔導書を盗み出されているかもしれない。私はそんな気がして、てんやわんやになった。
「ど、どうしよう。もし盗み出されてたら、国家魔導書士としてマズいよね!?」
私は頭を抱えてしまった。
こうしてはいられない。気持ちが馳せってしまう。
「えーっと、とりあえず魔導書の声を聴いて……」
私は目を閉じて、意識の糸を絞った。
一本の糸にしてしまうと、魔導書の声を聴こうとする。
しかし何にも聴こえない。もしかしてもう手遅れ?
そんなことになってしまうのは困るので、私は急いで書架に向かうことにした。
「ん?」
トワイズ魔導図書館の前に、女性が一人やって来た。
そこにいたのは赤い髪をした凛々しい顔立ちの女性。
「扉が開いている? 一体どうして」
そこに居たのはヒノワだった。
トワイズ魔導図書館の扉が開いている。
確か今日は魔導図書館を開けない日だった筈。にもかかわらず何故か開いていて、ヒノワは首を捻ってしまう。
「それにアルマも居ない。待ち合わせをしていた筈なんだけど」
ヒノワはアルマと約束をしていた。
まだトワイズに来て一週間程。
知らない場所は多い。
ヒノワは魔導図書館の館長としてアルマに色々と教える必要がある。
本当はヒノワが教える必要は無く、今日はマリーナも待ち合わせをしていた。
しかし時間になっても何故か二人の姿がない。
ましてや魔導図書館の扉が開いていて、そのまま放置されている。
「困ったね。今は魔導図書館の中には入れないし……アルマにはマリーナが教えている筈だから。うーん、もう少し待ってみようかな」
ヒノワはトワイズ魔導図書館に入れなかった。
いつもなら平然と入れるのだが、今日は入れない理由があった。
だからしばらく外で待ってみることにする。
そのうち姿を現すだろうと思い、久々のまともな休日を和やかに過ごすことにした。
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