第11話 魔力弱めな魔導書達
私は三階にやって来た。頭の中で意識を絞ってみると、再び声が聴こえ出す。
さっきもはっきりと聴こえ、更に声の数も増えていた。
『うわぁ、ホントウにキた』
『ニンゲンだ。ここまでニンゲンがキた』
『ホントウにヨむのかな?』
『ボクタチなんかヨんでも……』
『だよな。ツヨくないもんね』
『ドウしよう。もしもヨみにキたら』
『ううっ、ヤぶかれる』
『コワいよ』
私は声を頼りに書架を探すことにした。
しかし周りを見回せばたくさんの書架。
どれも同じ色合いで、同じ素材で作られていた。
加えてこのトワイズ魔導図書館は円形。
彎曲した曲線の書架が壁沿いに並び、その前には普通の書架が綺麗に二つ、前後に立てられている。
かと思えば一階からでも見えていた書架が二重の壁のように立ち並び、正確に何処に魔導書が仕舞ってあるのか分からない。
「ダメだ。こんなに本があったら、魔導書を探すなんて……しょうがない。もう一回!」
私はもう一度目を閉じて、意識をクリアにする。
束ねた一本の糸になった意識が魔導書の声を聴き分けるのは容易で、魔導書達も私を導いてくれる。
きっと誰かに呼んで欲しいんだと、私は魔導書の声を勝手な解釈で包み込んだ。
『でも……』
『ヨんでホしい……』
『だから……』
『こっちだよ……』
震える魔導書達の声が聴こえる。
きっと今までまともに読まれたことが無いんだ。
何だか寂しい。私はそんな魔導書達の声から感情を揺すぶられると、魔導書達が収まった書架を見つけた。
「多分この辺かな? えーっと、魔導書はどれかな?」
書架の中にはたくさんの本が収まっていた。
分類番号は44の桁。確か天文学に関する書物の総称だった。
魔導省が決めた魔導書の分類番号はXから始まるはず。
と言うことは、ここは普通に天文学、しかも宇宙に関連する論文が多かった。
「なんだ。宇宙に関する本か。ちょっと残念だけど……おっ!? この著者番号って、確か有名じゃないけど、魔導書を書いている人のものだよね。ってことはまさか!」
私は手にした本をパラパラと捲った。
中に書かれていたのは難しい宇宙に関する論文。
専門用語が多く、私も何とかついては行けたけど、あまり賛同はできない。
けれどこの魔導書には少しだけ魔力が宿っている。
もしかするとこの論文自体が魔導書と同じなのかも。
私は指先に魔力を集中させると、適当に開いたページをなぞった。
「貴方に宿った筆者の想いを私に教えて」
私は魔導書じゃないけれど、本に話し掛けてみた。
すると頭の中に聴こえて来るのは手にした本の声。
私の言葉に応えてくれたのか、筆者の想いを伝えてくれる。
『ボクをカいたヒトは……「太陽とは生命を育むもの。そして宇宙とは生命を育む器。故に私が唱えるのは、この世界を動かす未知とは、それ即ちが太陽であることであり……」ってイってたよ』
私は魔力を宿した本に魔力を流すことで、一時的ではあるが魔導書として認識した。
そのおかげか、頭の中に声が聴こえてくれた。
この本の中に、断片的でも魔導書の片鱗があればいいのにと思った。
けれど実際には魔力を宿しているだけで、私が読みたい内容じゃない。
「うーん、宗教かな?」
私は表情を歪めてしまった。
流石にどの宗教も進行していない私にとっては怠慢でしかない内容。
興味がそれほどない論文をこれ以上読むのは、著者にも失礼だと思い、私は本を閉じた。
「ありがとう。私は理解できなかったけど、ためになったよ」
本にそう言い返すと、感謝の意を込めつつ書架に戻した。
きっと私なんかよりもこの本を読み解ける人がいつかきっと現れてくれる。
そう思い別の本に手を伸ばすと、次はまた違う本に視線が止まる。
「闇は光から這い寄る? これって心理学の本だよね。前に王都の魔導図書館で読んだ気もするけど……うわぁ、魔力が宿ってる。私が読んだ本には魔力なんて流れて無かったはずなのに。不思議」
それは何の変哲もない白と黒の表紙の本。
著者は有名な心理学者で、私も一度だけ手に取ってみた。
けれど私にはよく分からない内容がズラリと並んでいて、あまり面白くは無かった。
だけど、この本は何処かおかしい。過去に読んだ本にはここまで魔力は宿っていなかった。
それは確実で、製造元や発行年、刷られた番号を見ても、特に目立った点はない。
「なんでだろう。もしかしてこの本だけが特殊なのかな?」
いや、そう考えるのはあまりにも怠慢だ。
私はそう思って、ふとグリモア叔母が言っていたことを思い出した。
「私をこの場所に連れて来たかったのは、もしかしてこのため? トワイズ魔導図書館って、トワイズって、魔力が活発だからってこと? 凄い。凄く不思議。こんなに面白い場所があるなんて、本当に凄い!」
私は一人興奮してしまった。
トワイズ魔導図書館は魔力の流れがとても良い。
そのおかげか、何の変哲もない本にすら魔力が宿り、こうして生きている。
けれど一冊一冊はとても弱い。そして脆い。
魔力の弱い魔導書としてトワイズ魔導図書館には無数に収められている。
声が聴こえない魔導書も多いけれど、私は全ての魔導書を手にしてみたい、読んでみたいと胸が高鳴った。
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