第9話 円形の図書館

 私はヒノワさんに案内されて、無事にトワイズ魔導図書館に足を運んだ。

 けれど何やら様子がおかしい。

 異様な程静かで、まるで活気が無い。って、図書館なんて活気がある方がおかしいかな。


「よ、よし。こんにちは!」


 私は正面入り口から入ろうとした。

 大きな扉を開け、中に入ろうとする。

 しかしそんな私を阻んだのは、圧倒的な暗さ。

 完全に灯りが切られていて、省エネモードに入っていた。


「く、暗い? あ、あのヒノワさん。本当に入っても良いんですか?」


 私は一歩下がって踵を返す。

 振り返ってヒノワさんに訊ねたのだが、残念なことに、そこにヒノワさんの姿は無い。

 ましてや気配すら感じることはなく、一瞬で音もなく消えてしまったのだろうか?


「えっと……もしかして私バカにされた!?」


 私はヒノワさんにバカにされたらしい。

 だけどそれもそうだ。揶揄われた私が悪い。

 それもそのはずトワイズはたくさんの人種が行き交う。多種多様な人達の中には、それこそ人のことを揶揄って面白がる人だってもちろん居た。

 如何やら私は第一街人の運が無かったみたいで、すっごくすっごく悲しくなった。


「私、運悪く無いんだけどなー。でもここまで連れて来て貰ったのは確かだもんね、どうしよう? このまま帰った方が良いのかな?」


 私は帰ろうかなと思った。

 幸いなことに、ここ数ヶ月はグリモア叔母さんが前以って宿を取ってくれている。

 今日はゆっくり休んで明日股で治そう。そう思いトボトボと来た道を引き返そうとした瞬間、私はある種の違和感に気が付く。


「って、なんで扉開いてるの!? しかも省エネモードだからって、灯りが少しでも点いているなら誰か居るってことだよね!?」


 考えても見ればそれもそうだった。

 扉は開いていて、灯りもちょっとだけ点いている。

 だったら誰か居るに決まっている。つまり今日は営業中な訳で、私は踵を返し直した。


「こんにちはー! って、誰も居ない?」


 改めて扉を開け図書館の中に入ってみたのだが、やっぱり誰も居なかった。

 と言うのも、トワイズの魔導図書館は大きな扉を潜ると、そこはエントランスになっている。広い間取りが取られているのだが、靴箱や傘立てが置かれているだけで他には何もない。

 けれど視線の先、真正面には凄いハイテクな設備になっていた。


「うわぁ! もしかしてこれ、生体認証式の自動扉?」


 私は率直に驚いてしまう。それもそのはず、生体認証式の自動扉は魔導具の中でもかなりの最先端だった。

 もしかすると、これのせいで省エネなのだろうか?

 確かにこの魔導具を動かすためには相当の魔力を必要とするだろうから、余裕を持って電力を生み出せないのかもしれない。


「悲しいな。それなら自動扉なんて付けなくてもいいのに」


 私はそんなことを思いながら、自動扉の前に立った。

 すると生体認証式のため、私の体が魔力を通じてスキャンされる。

 不思議な淡い光が私の周りに照射されると、そのまま右往左往しながら生体認証を開始、からのものの数秒で終了した。


「これでいいのかな? うわぁ!」


 この後は何が起きるのかな。期待して待っていると、目の前の自動扉が開いた。

 すると突然あり得ない程の光りが迸り、私の視界を奪い去る。

 それこそあまりの眩しさに目を瞑ってしまう始末で、私は手で目元を覆った。


「エントランスはこんなに暗いのに……急に眩しくしないでよ」


 私は表情を顰めてしまった。

 絶対にこんなのわざとだ。そうじゃないと許されない。

 ムカッと眉根を寄せて怒りを私は露わにしたが、それでも自動扉を開けっ放しにもしておけないので、急いで扉を潜った。


「ううっ、眩しい。でも、ちょっとずつ目が慣れて来たかも」


 眩しさは建物の本館部分で一層明るさを増していた。

 ゆっくり目を擦り、自然と涙が浮かんでしまう。

 けれどそれも慣れてくるまでの間で、眩しさにも三十秒程触れていると慣れてしまった。

 おかげで目をパチッと開いても大丈夫になり、気が付くとそこまで眩しくない、これは魔力が漏れていただけだと気が付いた。


「これって魔力の粒子? なんだ。蛍光灯かなにかが壊れていただけなんだ」


 如何やら出力オーバーしていたらしい。

 勝手な推測だったけど、それなら納得できるので、私も目を瞑ることにした。

 それにしてもここが魔導図書館なのか。私は周囲を見回すと、改めてトワイズ魔導図書館の規模感を知った。


「どれどれ。ふーん、普通に書架が感覚を開けて置かれているけど、特に変わった様子は……はっ、えっ? な、なにこれ!?」


 視界に真っ先に飛び込んできたのは幾つもの茶色の書架。

 中にはたくさんの本がビッシリと詰め込まれている。

 だけどここにあるのはごく一部の小説や子供向けの絵本、ちょっとした雑誌ばかりで、特に希少性は無い。魔導図書館と言うよりも、普通の図書館。そう思ったのも束の間だった。


 私はふと視線を少し上に上げた。

 するとここがどれだけ凄い魔導図書館なのか、一瞬で理解できる。


「二階、三階、四階? 階数がどれだけあるの。しかもこの形状、円形?」


 私は小さな体だからかもしれないけど、とにかく首ったけになってしまった。

 それもそのはず、とにかく階数が凄い。一体何階まであるのか、一階しか見えていなかった私がバカか間抜けか、どっちでもいいけどとにかく嫌になる。

 それくらい階数が用意されているだけではなく、形状も不思議と順繰りしている。つまりは円形になっていた。これだけ内装が綺麗な円形なのはかなり珍しく、それだけで過去の建築物だと意味深に伝わり、私はドン引きしてしまった。

 そう、ここはトワイズ魔導図書館。それはとんでもない規模を持った円形図書館だった。

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