大文字伝子が行く231

クライングフリーマン

もう一つの『アナグラム』解(前編)

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 高木(日向)さやか一佐・・・空自からのEITO出向。副隊長。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 青山(江南)美由紀・・・、元警視庁警察犬チーム班長。警部補。警視庁からEITOに出向。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

 七尾伶子・・・警視庁からEITO出向の巡査部長。

 大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。


 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

 青山たかし・・・元丸髷署刑事。EITOに就職。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 永井哲朗巡査部長・・・警視庁サイバーセキュリティ班からEITO出向。

 原田正三警部・・・新宿風俗担当の潜入捜査官だったが、EITO出向。

 枝山浩一事務官・・・EITOのプロファイリング担当。

 大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITOシステム部部長。

 本郷隼人二尉・・・海自からのEITO出向。

 河野事務官・・・主に警視庁との連絡役の事務官。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 藤井康子・・・伝子のお隣さん。料理教室をモールで週に数回開いている。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午後10時。伝子のマンション。

 Base bookにナチュラル・デプスのメッセージが現れた。

 まだチワワ借りだ

 》

 人々が、そのメッセージに気づくのは、深夜になってからだった。

 気づいたのは、田坂だった。夜中にトイレに起きた時、何となく、スマホでBase bookを見て、気がついた。

 田坂は、『おねえさま』に報告することを躊躇った。子作りの最中かも知れないからだ。こっそり、なぎさに電話した。今夜は嫁ぎ先の一ノ瀬家に帰る余裕が無かった筈だから、EITOの宿直室に泊まる筈だからだ。

「はい。」なぎさは、すぐに出た。

「分かった。よくやったわ。具体的なことは書いてないし、おねえさまは怒らないと思う。明日、会議で話し合いましょう。ちえみ。私達は『姉妹』よ。おねえさまの妹なの。心配事があれば、いつでも相談しなさい。1番目の妹に。」「はい・・・おねえさま。」

 電話を切って、田坂はポッと顔が赤らむのを感じた。「おねえさま。」何度も口に出してみた。

 翌日。午前9時。EITO本部。会議室。

 理事官が、声を張って言った。

「本題に入る前に、皆に紹介しよう。新町あかり副隊長だ。みんな、拍手。」

 皆は、惜しみなく、あかりに拍手を送った。

「よくやった。今回の闘いの前に、日向と新町を副隊長にと、大文字君から進言があった。単純に班分けした訳じゃなかった。まあ、その前に、『おねえさま』と『いもうと』らしいがな。田坂も『いもうと』らしいが、今回はお預けだ。煎餅くらいなら、増やしてやるが。」「煎餅でも、光栄です。」

 田坂の見事な『返し』に、皆は爆笑した。

「知っての通り、闘いは、益々厳しさを増している。中核メンバーを中心に、新たな編成で立ち向かうのは、とてもいいことだ。勿論、その場その場の班分けは別だが、訓練は副隊長に任せよう。さて、今回、新町が使った武器だが・・・本郷君、頼む。」

 マルチディスプレイの向こうから、本郷が説明をした。

「まだ、仮称だが、メダルカッターと言う。以前、大阪支部で試験的に使って貰ったが、究極の『非常武器』だ。常備するようになっても、簡単には使わないで欲しい。何しろ、1回使ったら、すぐには元の形に戻せない。こちらでメンテナンスするしかないから。使い方は、メダルの中央を強く押すだけで、5枚の羽根が出る。羽根と言っても、プロペラ状だから、そう言っているだけで、ナイフだ。新町巡査は、1度説明を聞いただけで、見事に使いこなした。救助された財務大臣が、初めてと聞いて大層驚いたが、変化球の名手だという管理官の説明に納得されたようだ。普段、シュータを変化球で投げられる新町巡査だからこそ出来た。肩パット、肘パット、膝パットには、ご存知の通り、クッションが仕込まれている。そのクッションに隠れるように装着して、いざという時、投げる。敵をけん制する為もあるが、致傷能力もある。シュータには致傷能力はないけどね。使った後は、なるべく投げた本人が回収して欲しい。ああ、致傷能力と言っても、擦り傷程度だ。男の顔なら『カミソリ負け』と言い逃れ出来る。」

「武器を奪われた時の対策は、課題ですね、理事官。」「うん。初めてのケースだったからね。今後、アイディアがあったら、どんどん進言して欲しい。」

 夏目警視正からの指摘に、理事官は深く頷いた。

「そろそろ、いいでしょうか?理事官。」と、永井が言った。

「ナチュラル・デプスからだと思われる、Base bookの投稿がありました。短い文章で、どうやらアナグラムのようなので、エーアイ、詰まり、高遠氏に解析して貰いました。」

 そう言って、永井は『まだチワワ借りだ』とホワイトボードに書き、下矢印を書いて、『わだちわだかまり』と書いた。

「わだち・・・昨日雪だったから、車の通った後は、『わだち』だらけですね。」と、馬越は言った。

「あの・・・。」と、高木が手を挙げた。

「どうした、高木。」と夏目が指さした。

「東北関係でしょうか?東北弁で確かニオイのことかと。」

「あ。」高木が言った後、スマホを弄っていた七尾が声を上げた。」

「七尾。言ってみろ。スマホの検索で何かヒットしたか。」伝子が促すと、「しのびの『斥候』を『カマリ』と言うって書いています。」と七尾が応えた。

「しかし、特定の地域なら、もう少し情報がないと・・・。あ、人名かな?」と、増田が言った。

「増田、何か知ってるのか?言ってみろ。」と、理事官が督促した。

「確か、衆議院議員に『わだ はじめ』って人がいます。『はじめ』は『一(いち)』で、あだ名が『わだっち』。」

「そうか。じゃ、第一候補だな。地名は?草薙。」「杉並区に和田という地名があります。勿論、一丁目から。」「うむ。他に候補はないか?」「農業集落境界データセット、とかに『わだいち』っていうのがあるようですが。。。和歌山県ですね。」「保留だな。」

「和田って、結構ポピュラーですからね。芸能人なんか沢山いる。」

「理事官。それより、『わだかまり』って何ですかね?何か、喉に小骨が刺さってみたいで気持ち悪い。」と、原田が言った。

「気持ち悪い人が、気持ち悪いって・・・。」小坂がつい本音を漏らした。

「何だって?」と原田が席を立ったが、筒井が「ジョークだよ、本当に気持ち悪いけど。」と言って、火に油を注いだ。

 鼻を大きく広げた原田に、「ブレーンストーミングは、思いつきを言いたい放題言うのが基本だ。そこから、答に結びつけるんだ。それと、原田。鼻毛くらい切っとけ。渡。お前、鼻毛カッター持ってたな。後で貸してやれ。」と、理事官が助け船を出した。

 新町が、何故か小坂の頭を撫でてやった。

「気持ち悪いかどうかはともかく、わだかまり、は私も気になります。得てして、一般的にですが、殺意に繋がる感情です。」と、枝山事務官が言い、「私も同意見です。」と、永井が同調した。

「あの。和田、カマリってどうでしょう。わだっちと被るけど。」と青山が発言した。

「わだっちは和田のカマリ?和田は沢山いるの?」と、江南は、夫に言った。

「どうでしょう、理事官。少し早いですが、休憩にして、すっきりした頭で午後からの会議に繋げては?」と永井が提案した。「私も、同意見です。」と、夏目警視正も言った。

 そこで、休憩になった。何しろ、アナグラムらしい文言だけで、ナチュラル・デプスの主張らしいものがない。

 休憩に入って、司令室に入った伝子は、その疑問を口にした。

「確かにな。この文言だけでは、デプスが何をしたいか分からないな。時間も場所も理由も分からない。河野事務官。和田一議員には伝えておいてくれ。まだ本格的に警護出来ないが、国賓館に頼んでSPをつける位のことは出来るだろう。」

「了解しました。」

「草薙と永井は、この文言と関係無く、近々に何か大きなイベントがないか調べてくれ。原田は、新町が投げた前後の映像を分析してくれ。意外と第三者が映り込んでいる場合もある。大文字君。行き詰まった訳ではないが、やはり、午後からの会議は延期しよう。」

「はい。賛成です。私見ですが、Base bookの投稿者がいつもと違い、投稿した場合は、全文を載せずに投稿した場合も考えられます。アバターや本人がしゃべっていないから、ナチュラル・デプスとは限らず、何かの都合で『枝』や『葉っぱ』に託した場合は、そういう失敗は起こりうることです。第2便があるか、訂正バージョンの投稿があるかも知れません。」

「分かった。渡。第2便が投稿され次第、招集だ。目を離すな。」「了解しました。」

 午後1時。伝子のマンション。

「そういう訳で帰ってきた。筒井も食って行くか?」と、伝子は、送って来た筒井に言った。

「いいのか?」「いいのか?ってもう舌なめずりしてるじゃないですか。ラーメンくらい幾らでもありますよ。今日は、さつまいもラーメン。南原さんの実家から贈って貰ったんです、さつまいも。」

 そう言いながら高遠は、藤井と、せっせとラーメンを炊いた。

 ラーメンを食べ終えると、筒井は言った。「みんな、変わったな。成長したんだ。大隊長のお陰で。」

 筒井の言葉に、「大は要らんだろう。小や中がないのに。確かに、私自身も現場が少なくなった。皆に任せられるようになったから。最近入った七尾達も、大分慣れてきたしなあ。」と、伝子は返した。

「近々のイベントって、バレンタインデー?あ。その前に『建国記念の日』があるわ。」と、藤井が言った。

「うん。もし、和田一議員が狙われるとしたら、今日明日より、その前後だな。和田議員って、何大臣だ?」

「今は、大臣じゃないね。前は、どこかの省の政務官だったと思う。」と、高遠が言った。

「要人って程じゃないか。他の党は、代表クラスじゃないと、狙われないだろう。和田って名字の議員でも。」と、筒井が呟いた。

「ねえ。係累は?」と藤井が言った。

「係累?ああ、親とか配偶者が大事なポストとか、か。餅は餅屋だな。後で総理に聞いてみるよ。」

「後で総理に聞いてみるよ。偉いんだ、私の娘は。あ。チャイム鳴らしたわよ。電池切れてたら私のせいじゃない。」

 そう言いながら、入って来たのは伝子の母、綾子だった。

「ごちそうさま。ああ、美味しかった。惜しかったねえ。もっと早ければ、美味しいラーメン食えたのに。」と、伝子は嫌味たっぷりに言った。

「じゃ、俺、帰るわ。ホバーバイクの点検あるし。高遠、大文字。ごちそうさん。」

 筒井は、あたふたと帰って行った。実は、筒井は伝子と付き合っていた頃、一度だけ会ったことがある。筒井が伝子と遠ざかった原因は、綾子だった。苦手なタイプなのだ。

 そのことは、当人の伝子と筒井しか知らない。

「忙しいの?」と、綾子は筒井のことを伝子に尋ねたが、高遠が気を利かせて、「最近、新人が増えてね。その1人が筒井さんの担当を引き継ぐんですって。あ、ラーメン要ります?」と綾子に尋ねた。

「いいわよ。食べてきたから。ファーストフードで。おやつはまだ早いし。」と、拗ねた言い方をした。

「綾子さん。さつまいもだけでも頂いて帰ったら。南原さんの実家から送って来たんだって。」「まあ、南原君の。入院した時にお目にかかって以来ね。」

 綾子の期限は、治った。高遠は、綾子の目の届かない方向から、藤井に手刀で礼を言った。

 午後4時。

 綾子は、出勤のため、帰って行った。ベテラン介護士の綾子の出勤時間はシフトである。

 突然、EITO用のPCが起動した。伝子のマンションだが、リモートで、EITOから色んなコントロールが可能なのだ。

 スクリーンにはBase bookの投稿が映っている。

 まだチワワ借りだ

 》

 そして、埋め込み動画でアバターが語りだした。

 ごめんごめん。食い物が悪かったのかな?酷い発熱と下痢でね。本文だけ送っちゃった。日本には曰くのある祝日多いねー。『建国記念の日』かあ。いい天気らしいよ。部下達も楽しみにしているよ。

 アナグラム、慣れてないから、時間がかかちゃった。あ。それで熱出したかな?

 じゃ、お互い頑張ろう!!

 》

 映像は終って、また初めに戻った。リール動画である。

「こんなん、届きましたー。」原田だった。

「そんなんだから、若い子に嫌われるんだよ。私の妹や部下に手を出すなよ。」

 伝子が凄んで見せると、「恐いよ、おっかないよー。」と原田は戯けた。

「筒井さんも大変だね。」と、高遠が言い、伝子と藤井は頷いた。

 ―完―


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大文字伝子が行く231 クライングフリーマン @dansan01

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