第23話 EとGの間
「これはこれは! とんでもない量の薬草ですねー、ハツカさん」
冒険者ギルド入り口の少し横、ギルド利用者の邪魔にならない場所に積まれた薬草の山を見上げて、ラージル商会副会長のレインは言った。
トレードマークの極彩色メッシュの髪をぴょんぴょんと跳ねさせている。
「どうやったら一日でこんなに薬草を採取できるんです? 後学のために是非ご教示いただきたいですねー」
「い、いやー……。け、経験? ど、努力? そんな感じかなー……あはは」
クラスアップしたクラスの力が暴走して集めました、なんて言えるわけがないので、ハツカは乾いた笑いを返すしかない。
「それに、副会長さんのところのオッさんも手伝ってくれましたし……」
「おぉー、そうでしたそうでした。街で噂になってましたよー。【髪の毛使い】のオッさんが一人で山みたいな量の薬草を運んでるって。そんなこと、オッさんに出来るわけないじゃないですか。ねー? ハツカさん」
「ふ、普通はできないですよねー……、あはは。それより……副会長さん」
「他人行儀ですねー。私とハツカさんの仲じゃないですかー。レインとお呼び下さい」
「えっ、そんな……う、じゃあ、レインさん。ちょっと近くないかなーって……」
「えー、そうですかー? このくらい全然普通ですよー」
そう言うレインは、先ほどからずっとハツカの腕に抱きついていたが、更に体を押し付けてくる。
(や、柔らかい感触が……! 右腕に!)
「全っ然! 普通じゃ!! ありません!!!」
そんなハツカとレインの間に、冒険者ギルド受付嬢のシルルが割って入る。
「レインさん、こんな往来でハツカさんにくっつき過ぎです! ハツカさんもデレデレして!」
「え、いや、デレデレなんて」
「してました! そもそもなんでハツカさんとレインさんがそんなに仲良いんですか! いつからですか! あのメデュラっていう子だけじゃ足りないんですか!」
「おやおや、シルルさんがこんな風に取り乱すなんて珍しいですねー。ヤキモチですかー?」
「やっ、え、いえ、そんな! 違います! 別に急にライバルが増えたことに焦ってなんかないです! 冒険者ギルドの前でそんな風にされたら困るだけです!」
シルルが真っ赤になって否定する。
「えー、そんな風ってどんな風ですかー?」
レインが引き離されたハツカを再び引き寄せ、その頭を抱え込む。
「む、むぐぅ! 胸が!」
「なっ! だからそういう風です! ハツカさんも離れて下さい!」
シルルがハツカを奪い返すように抱きかかえる。
「うっ、埋もれ……息が……」
「ほらー、ハツカさん苦しそうじゃないですかー。返して下さい……って、あぁん! ハツカさん、そこは……」
再びレインの胸に戻された時、ハツカの手がどこか柔らかいところに触れる。
「あー! ハツカさん! レインさんのどこ触ってるんですかー!」
そんな賑やかな三人を、メデュラとオッさんは少し離れた場所で見ていた。
「主殿はモテモテじゃのう。カーッカッカ」
「きゅー!」と手を挙げてオッさんが同意している。
「おうおう、オッさんも主殿が好きじゃったな。あそこに混ざらなくてよいのかえ?」
少しだけ考えた後、オッさんは「そんな野暮なことはしないぜ」と言うように首を振った。
「オッさんは余裕があるのう。比べて主殿は……」
「ちょ、メデュラ! 笑って見てないで助け……え、ちょっと二人共そこは駄目だって! あー!」
助けを求めるハツカに、ひらひらと手を振って返事をしてやる。
「ハツカさんっ! そもそも、あのメデュラって女の子のことも、私説明してもらってません! 付き合ってるんですか!?」
「ええー!? なんの話!?」
そもそも、なんでこんなことになっているかというと、ハツカ達が大量の薬草を冒険者ギルドに納品しに来たことが始まりだ。
文字通り山のような薬草を見て、冒険者ギルド受付嬢のシルルは、空いた口が塞がらないといった風にしばし固まっていた。
こんな大量の薬草を冒険者ギルドに保管しておく場所が無いし、そもそも今は隣の森の調査準備で冒険者ギルドはバタバタしているので全部の薬草を検品している余裕も無い。
困ったシルルは、直接の卸先であるラージル商会に一旦薬草を預かってもらうよう頼むことにしたのだ。
そこでラージル商会が薬草の引取に寄越した荷車隊に同行して来たのが、副会長レイン・ラージルだったのである。
シルルとレインは、取引を通じて仲が良いと聞いていたのだが、この時の二人は何故かは分からないがお互い牽制し合っており、ハツカは戸惑うばかりという状況になったのだった。
結局、二人の小競り合いはラージル商会の荷車隊が荷造を終え、レインが帰路につき、フミにサボっていることを怒られたシルルが業務に連れ戻されるまで続いた。
ちなみに、やけに取り乱していたシルルだったが、ハツカとメデュラが付き合っていないことを聞くと「そうですか……それならまだ付け入る隙は十分……いえ、なんでもありません。こちらの話です」と言って落ち着いた。
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薬草納品の諸問題がひと段落した頃、時間はもう夕食時。
冒険者ギルドに併設された酒場からただよってきた良い匂いにメデュラが我慢できず、オッさんも含めた三人はそのままここで食事をとることになった……のだが。
「……もう駄目。脳が揺れ過ぎてしんどい。吐きそう」
シルルとレインに挟まれてボロボロになったハツカは、酒場のテーブルに突っ伏していた。
「カーッカッカ! 女子に挟まれて鼻の下を伸ばしておるからじゃ」
「いや、別に伸ばしてな……うっぷ!」
ハツカの惨状を笑うメデュラの横で、オッさんはハツカの背を健気にさすっていた。
「オッさん、ありがとう。オッさんだけだよ、僕に優しくしてくれるのは……よよよ。誰かは笑ってるだけでまったく助けてくれなかったから」
「ええい、何が『よよよ』じゃ。恨みがましい目を妾に向けるでない。食事がマズくなるではないか」
ハツカが突っ伏しているテーブルには様々な料理が並べられており、メデュラがそれを一人でバクバクと食べていた。
「それにしては良く食べるね」
「当たり前じゃ。朝に草原で、何でも好きなだけ食べて良いと言ったのは主殿じゃからな。妾は遠慮などせぬぞ。むむっ、この肉はなんじゃ! むっちゃ美味ではないか!」
そう言って、メデュラはボア肉焼きをペロリとたいらげてお代わりを注文している。
「精霊ってむっちゃとか言うんだ……。あ、オッさんも遠慮せずに食べてね。今日は色々大変だったから、そのお詫び」
ハツカがそう言って笑いかけると、「いいの?」と遠慮ぎみに首を傾げていたオッさんも少しずつ食事に手を伸ばし始める。
そして、しばらく三人で食事を楽しんだ後、ハツカはオッさんに切り出した。
「できればなんだけど、これからもオッさんには僕の冒険者としての依頼を手伝って貰いたいんだ」
平原から帰って来る間、ハツカ達はオッさんに精霊やクラスアップのことについて、大まかに説明していた。
ハツカ自身まだ半信半疑な部分はあるものの、あのようなスキルの暴走にオッさんを巻き込んでしまった以上、隠しておくのはフェアではないと考えたからだ。
ただ、オッさんはそんな普通ならあり得ない話を疑わず、真っ直ぐ聞いてくれた。
それに今日一日一緒に過ごして、オッさんの人柄の良さと可愛さを改めて感じたハツカは、出来ればこれからもオッさんに冒険者としての依頼を手伝って貰いたいと考えていた。
メデュラも「オッさんなら信用できるじゃろうし、協力者として申し分ない」と言っている。
「オッさん、どうかな?」
オッさんはハツカの申し出に、ハムスターのように頬いっぱいに詰めたご飯をゴクンと飲み込んだあと、「きゅー!」と、右手を挙げて返事をする。
「うん、今日のスキルの暴走は怖かっただろうし、これからは魔物と戦うこともあるから危険だって……っていいの!?」
驚くハツカに、オッさんは再び「きゅー!」と、元気よく返す。
「え、えっ、もう一度よく考えて! 冒険者の依頼って、たぶん本当に危ないよ!」
それでも「大丈夫」と言うようにオッさんは頷いている。
「心配するでない。こう見えてオッさんはオッさんなりにちゃんと考えて返事をしておる。それに、いざと言う時は主殿がオッさんを守るのであろう?」
「うん、もちろん! オッさんは僕が守る!」
「なら、決まりじゃな。改めて乾杯じゃ!」
「きゅー!」の掛け声に合わせて、グラスが打ち交わされる。
ハゲと、精霊と、オッさん。
奇妙なパーティ結成の瞬間だった。
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