第22話 オッさん、薬草を運ぶ。そして目立つ。

 頭の後ろに柔らかい感触。

 そして唇に一瞬、何かが触れた感覚。


「お、目覚めたかの。主殿」


 ハツカが目を開けると、やけに近い位置にメデュラの顔があった。

 唐突な美少女の顔面アップに、ハツカが飛び起きる。


「な、なななな! どうして! え、なんで!?」


「混乱するのも分かるが、無理はせぬ方がよいぞ」


「無理って……あ痛たた」


「ほれ見たことか。もう少し休むがよい」


 頭痛でフラついたハツカは、もう一度メデュラの膝枕に戻される。


「ありがとう、助かる……ん?」


(って、なんで僕、メデュラに膝枕してもらっちゃってるの!? 何これどういう状況!?)


「心配するでない。オッさんは、無事じゃ。その辺で遊んでおる」


 膝枕にテンパっていただけで、オッさんの心配をしたわけではないのだが、確かに横を見ると、オッさんが蝶々を捕まえようときゃっきゃと駆け回っていた。


「ん? これどういう状況?」


 ハツカ達三人がいる場所は、街の外の平原のようだ。

 魔物が出没する場所で、こんなにのんびりしている状況が、ハツカにはピンとこなかった。


「ふむ、記憶が朧げかの。仕方あるまい、あれだけの情報を受け止めたのじゃ」


 そう言って、メデュラはここまでの経緯をハツカに説明し始めた。


 ハツカが平原で薬草を探すために、オッさんの髪を借りて[髪の毛探査]を使ったこと。

 【髪の毛を統べるモノ】の力が強すぎて、平原中の薬草に関わるあらゆる情報を収集してしまい、ハツカの脳が耐えきれず気絶してしまったこと。

 それに加えて無意識に[髪の毛操作]で薬草集めも行っていたため、大量の薬草が収集されていること。

 ハツカが回復するまでの間、メデュラが周りを警戒しつつ、平原で休憩していたこと。


「そう言われてみたら、なんとなく思い出してきた……ごめん、こんなことになるなんて」


「構わぬ、妾も主殿の力を読み誤っておったのでな」


「読み誤ってたって、どういうこと?」


「妾が思っておったより、主殿の力が強かったのじゃ。クラスアップしてすぐの主殿では、さっきのように制御不能になってしまうくらいにの。普通はあんな風に暴走したりはせぬ」


「へ、へー……。そうなんだ」


 ハツカとしては、クラスアップ後の力自体が異常なので、何が普通で何が普通じゃないかはまったく分からないが、突っ込む空気ではなかったので、相槌だけうっておく。


「ただし、このまま力を制御できねば困るのでな。妾の権限で【髪の毛を統べるモノ】の力に枷を付けさせてもらった」


「枷?」


「ちょっとした制限みたいなものじゃ。主殿が成長して力の制御を覚えるまで、一定以上の力は使えぬよう制限をかけさせて貰った」


「じゃあもうあんな風に力が暴走したりはしないってこと?」


「枷を外さん限りはの。まぁ枷がある状態でも軽く人類の基準から外れるくらいの力は残っておるから安心するのじゃ。カーッカッカ!」


(え、僕ってもう既に人類の基準から外れてたの?)


 メデュラが笑う横で、ハツカが少し落ち込んでいると、オッさんが心配そうにその顔を覗き込んできた。


「オッさんもごめんね、怖かったでしょ?」


 ハツカが謝ると、オッさんは「気にするな」とでもいうように、ハツカの肩をポンと叩いて慰めてくれた。


(オッさんのこういうところは、年上っぽいよなぁ。いや、実際年上なんだろうけど)


「さて、主殿もそろそろ落ち着いたかの?」


「うん、そうだね。ありがとう、そろそろ帰ろうか」


「うむ。ただし、これを持って帰るのを忘れぬようにな」


「う、うわー……」


 メデュラが指差した先には、二階建ての家屋ほどの高さに積まれた薬草が、どーんと置いてあった。



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「オッさん、本当に大丈夫?」


 ハツカが心配そうに声をかけるが、オッさんは、「きゅー!」と元気に右手を挙げて返事をする。


「主殿よ、さすがに心配しすぎじゃ。オッさんも大丈夫と言うとるであろう」


「そうは言っても……」


 ハツカはそう言って、オッさんの頭上を見た。

 オッさんの頭には、とんでもない量の薬草が乗っていた。

 正確には、ハツカがスキル[髪の毛操作]でオッさんの髪の毛を操って、全ての薬草を持ち上げているのだ。

 どういう原理か、オッさんの頭にも首にも一切の負担はかかっていないのだが、オッさんの体の二千倍近くの体積の薬草がその頭上に乗っている様は、心配になる。

 しかし、ハツカの心配をよそに楽しそうに歩いているオッさんを見て、メデュラが


「よいではないか。オッさんに負荷はかかっておらぬし、主殿は枷をした状態でのスキル練習にもなる。それでどうじゃ? 問題なくスキルは使えておるかの?」


「そうだね。前までは強い力を何とか抑えこまなくちゃって頑張らないといけなかったけど、今はスキルを使うのがずっと楽かな」


「枷は上手く作動しておるようじゃな。今はまずその状態で、他人の髪の毛を自分の手足のように使えるようになることじゃ。精進するがよいぞ」


「自分の手足のようにか……うん、頑張るよ!」


 ハツカの感覚として、【髪の毛使い】として自分の髪の毛を操っていた頃より、クラスアップ後【髪の毛を統べるモノ】として他人の髪の毛を操る方がずっと難しい。

 他人の髪の毛は自分の物ではないのだから当たり前だが、【髪の毛を統べるモノ】の力はもう自分の物なのだ。

 さっきのように暴走させないよう、しっかり力を扱えるようにならなくてはならないと、ハツカは決意した。


「よしよし、よい返事じゃ。ただ主殿よ」


「ん? どうしたのメデュラ」


「こんなに目立ってよいのかの?」


「う……。けど、これは仕方ないんじゃないかなー」


 中規模街リールカーム。

 その外壁側から中央部へと向かうメインストリートを通り、ハツカ達は冒険者ギルドへと向かっていた。


 オッさんの髪の毛を使って運ぶ以外にこの量の薬草を運ぶ方法は無かったし、現状貴重な薬草を採取した以上あそこで放置して枯れさせるわけにもいかなかった。

 ただ、デメリットとして尋常じゃないほど目立つーーというより最早大迷惑。


 中規模街とはいえ、そのメインストリートには数々の店舗や屋台が並んでいるし、人通りもかなりある。

 その道幅をほぼ埋めるほどの薬草を持って歩いているのだ。

 いつもは道上にひしめく人達も今は、異様なハツカ達を避けるように道の両端に割れている。

 流石に申し訳無さすぎて、「すいません! すいません!」とハツカが左右に頭を下げながら歩いているが、いつ街の警備兵が飛んできてもおかしくない状況ではある。


 通り過ぎる人達から、色んな声が聞こえてくる。


「おいおい、なんだよアレ」

「あんな体の小さなオッさんがあんな量の荷物を背負えるものなのか」

「よく見ろ、背負ってるんじゃない。あのオッさん、髪の毛であの量の薬草を掴んでる」

「私、聞いたことあるわ。冒険者ギルドに薬草集め専門の【髪の毛使い】がいるって」

「へー、じゃああの小さいオッさんがその【髪の毛使い】なのか。けど、【髪の毛使い】は魔物と戦えない無能だって話じゃなかったか」

「けど、あの小さなオッさん、あんな量の薬草を一人で運ぶだなんて、とても無能には思えないわ。【髪の毛使い】って珍しいけど、凄いクラスなのかしら」

「ああ、そうだな。あんなこと、普通のクラスのスキルじゃできない。ただ、それにしてもーー」


『邪魔だなー』


(ご、ごめんなさいー! そしてオッさんが【髪の毛使い】だと思われてるー!?)


 心の中で謝りつつ、幾つかの誤解も招きながらハツカは冒険者ギルドまでの道を進むのだった。

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