第12話 美少女に引きずられるハゲ

「おい、なんだあの美少女は」


「なんであんな可愛い子が冒険者ギルドなんかにいるんだ」


「それよりあの子に引きずられてるハゲは誰だよ」


「あの貧相な装備……もしかしてあのハゲ、草むしりじゃねえか?」


「え、草むしりは、森でグールに襲われて死んだって聞いたぞ」


「俺も聞いた。なんでもギルドが中心になって調査隊が組まれるとか」


「俺はその調査隊に呼ばれてギルドに来たんだが」


「けど、あれ」


「どう見ても生きてるよな。ハゲてるけど」


「ああ、ハゲてるけどな」


 リールカームの冒険者ギルドに帰ってきたハツカとメデュラ。

 入り口で必死の抵抗をみせてハツカだったが、片腕が使えないので抗いきれず、メデュラに引きずられる形でギルド内を進んでいた。

 神々しい服装のとんでもない美少女が、ギルド一番の無能冒険者を引きずって歩くその異常な光景に、普段はヤジを飛ばす冒険者達もどうしたらいいのか困惑しているようだった。


「やめてー。もう引きずらないでー。歩けるから! 自分で歩けるから!」


「そう言って離したら、先ほどは一目散に逃げようとしたではないか。もう騙されはせぬぞ」


「くそっ、学習したのか! けどまぁいいか。グールに襲われて結構元気だと不審がられるから、このまま引きずられとこ」


 ハツカは諦めて、このまま受付までメデュラに引きずられて行くことにした。


 ハツカの筋書きはこうだ。

 なんとか命からがらグールから逃げたハツカは、街の近くで力尽きて倒れ、そこに現れたメデュラという少女に冒険者ギルドまで連れてきてもらった。


(よし、完璧だ!)


 どうやってグールから逃げれたのか具体性に欠ける気はするが、そこは必死過ぎて覚えてないとでも言っておけばいいだろう。

 そうこう考えているうちに、ハツカを引きずるメデュラは、ギルドの受付カウンターに到着したようだった。


 受付には受付嬢のフミがいるが、何やら忙しなくしている。

 しかし、メデュラはそんな事気にもせず声をかける。


「もし、そこの者よ」


「ん? なんだい随分と可愛いお客様だね。けど、ごめんよ。今近くの森に怖い魔物がいっぱい出たから、調査隊やら討伐隊を組むので皆んな忙し……」


「かまわん。妾はコレを届けにきただけじゃ」


 メデュラはそう言って、ドン! と、受付カウンターにハツカを置いた。


 カウンターの上でフミと目が合う。


「え……?」


「……どうも。ただいま戻りました」


「髪が無いけど、その声はもしかしてハツカかい? あんたグールに、え?」


 フミは、突然のことに混乱している。

 おそらく先に逃げ帰ったシルルにグールに襲われた等の事情は聞いたのだろう。


 状況から考えて絶対に死んでいると思っていたハツカがいきなりハゲた状態で受付カウンターに現れたのだ。

 それは驚いて混乱しても無理はない。


「幽霊? いや、でも足はあるね。髪は全部無くなってるし、全身ボロボロだけど」


 そう言いながら、ハツカの足やら体を隈なくバンバン叩いていく。

 よほど信じられないのだろう。


「こりゃたまげたよ。あんたグールの群れに襲われて生きて帰ってきたのかい」


「いやー、ツイてました」


 ハツカは頭をかきながら、ハハハとわざとらしく笑う。


「ちょっと待ってな! シルルを呼んでくる」


 そう言ってフミが受付カウンターの裏に下がってすぐ。


 バン! という勢いよくドアを開ける音に続いて、バタバタバタバタ! と激しい足音が近づいてくる。


「ハツカさんっ!」


「ただいま……むぐふぅ!」


 ハツカ目がけてシルルが飛び込んできた。

 シルルはそのままハツカを胸に抱き締めて、泣きじゃくる。


「ハツカさんっ! ハツカさんっ! 絶対、死んじゃったと……良かったです。ほんとに良かったです」


「むぐぅ! むぐぐぅ!」


 力いっぱいシルルが抱き締めてくるので、胸に押しつけられたハツカは窒息しそうだった。

 しかし、この胸の感触。

 シルルはどうやら着痩せするタイプのようだ。


「どうして、あんなことしたんですか! バカっ! ハツカさんのバカっ! ふえぇえーん!」


 人目もはばからず、泣き続けるシルル。


「ごめん、あの時はああするしか無いと思ったんだ」


 少し恥ずかしい反面、ここまで自分を気にかけてくれる少女に自分の死を背負わせずに済んだことにハツカは安堵した。

 死ぬ覚悟だったが、帰ってきて良かったと心から思った……が、


「む……むぐ。シルル、く、首が締まって」


 抱き締めるシルルの力がどんどん強くなってくる。


「ふええぇーん!」


 しかし、泣き続けるシルルにハツカの声は届かなかった。


(こ、これは再び命の危機かもしれな……)


「ふぇえ! あれ? ハツカさん? 息してない? ハツカさん! ハツカさーんっ!」


 ハツカはシルルの腕の中で、安らかに気絶した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る